FC2ブログ

物憂い朝はメルドーに限る

long
Charlie Haden & Brad Mehldau / Long Ago and Far Away

貴重なお宝発掘盤である

 まだ寝ぼけてぼんやり物憂い朝は、音数の少ないまったりしたソースに限る。
 ならば、チャーリー・ヘイデンブラッド・メルドーのデュエット盤『Long Ago and Far Away』である。

 まだ思考能力の効かないアタマにじんわりしみる。
 とっておきの秘蔵盤である。

 本作は2007年にドイツの教会で行われたデュオ・ライヴの音源を発掘し、2018年に世にリリースしたお宝だ。

 若い頃(例えば2000年ごろ)と違って成熟したメルドーの訥々としたピアノに、今は亡きヘイデンのベースが絡む。しっとりした静的な空間を、2人の天才が組んず解れつしながら舞い上がって行く。あくまで音数は少なく、スペースをじっくり生かした音使いで。

 いいですねぇ。これは大人の音である。

「組んず解れつ」と言っても、2人は決して激しく性急で畳みかけるようなコンビネーションではない。メルドーの作った音と音との合間にぽっかり生まれた空間に、ヘイデンがスッと入り込み、あるいはその逆もまた然り、てな具合いであくまでゆったり音を紡いで行く。

 しかもヘイデンは単にメルドーの「伴奏」をしているのでは決してない。彼自体も独立した単体の芸術だ。

 時にメルドーが弾くのをやめ、すると必然的にヘイデンの独奏になるのだが、これがまた味わい深い。「ソロ」というより「独奏」なのだ。決して早弾きしたりせず、ポロン、ポロンと音と音とのすきまを生かしたウッドベースの低音があたりを支配する。それだけでもう、うっとり絵になる至高の時間が流れる。

 ヘイデンは過去にデュオという形態で数々の名盤を残しているが、それもまた頷ける演奏ぶりだ。

 かたや天才メルドーのピアノもむろん極上の美しさで、時にきわどくアウトするような音使いをしては空気を制圧し、また意図的に崩したリズムで聴衆を挑発してくる。なるほどメルドーである。

 まだ少し早い春の眠りから目覚めた頭にじんわり効くおすすめのお宝盤。

 一家に1枚。あなたの枕元にも、どうですか?

スポンサーサイト



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Aaron Parks / Little Big

Aaron Parks Little Big

Aaron Parks (p)
Greg Tuohey (g)
David Ginyard (b)
Tommy Crane (ds)

Released: 2018
Engineer: Daniel Schlett

パークスが開いた新境地

 アーロン・パークスの最新作だ。まちがいなく彼の最高傑作である。パークスはオリジナリティ溢れるまったく新しい音楽のカテゴリーを作った。エレクトリックでスリリングな「パークス・ウェイ」だ。本作のために新しいユニットを組んだ。もちろん全曲オリジナルである。

 歪んだエレクトリックギターがまんまの音色でバッキングする。なんだこれは。こんなの聴いたことないぞ。ベースもエレクトリックで編成はふつうのロックバンドと同じ。だけど出てくる音はまったく新しい新世紀のジャズだ。

 これに近いカテゴリーのミュージシャンをあえてあげれば、ロバート・グラスパーやデリック・ホッジ、最近のエレクトリックなマーカス・ストリックランドあたり。

 ただし彼らはブラック・ミュージックの影響が濃い。その点、パークスの最新作はブラックな要素はまったくない。その意味でもすごく新しい。言葉で表現するのはむずかしいが、フュージョンを100年分進化させた要素とロックとの融合、といったところか。

 注意書きを書くなら、「エレクトリックなジャズなんてジャズじゃない」というガンコな人にはおすすめしない(いや実は私はそのクチだったのだが、本作を聴いてすっかり改心した)。これを聴かなきゃ、一生後悔するぞ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

デイナ・スティーブンスの新作ライブは最高だ

またもや記事更新が遅延……。ゴメンナサイ

 あっ、またしても記事更新に間が開いてしまった。しかも3ヵ月も。ゴメンナサイ。それでも少なくない数の方がわがブログにアクセスして下さっていることがわかり、本当に感謝感激です。

 そんなこんなで私の場合、断続的に行方不明になることがありますが、更新が止まってもぜひ懲りずにアクセスしてみてください(反省してるのか?)。

 さて、復帰第一号なので、ブランクの間に買った盤を簡潔にご紹介しましょう。

 まず2019年11月29日に買ったデイナ・スティーブンスの新作ライブ『ライト・ナウ~ ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(日本盤先行発売盤)がすばらしかった。2019年2月に行われたライヴだが、この盤はネットでもほとんどレビューがないのでその意味ではお宝盤である。

 まずメンバーが超エグイ。デイナ・スティーブンス(sax)にアーロン・パークス(p)、ベン・ストリート(b)、グレゴリー・ハッチンソン(ds)という鉄壁の布陣だ。特に躍動感みなぎるハッチンソンのドラミングがハッチャケていてかっこいい。

ハリッシュ・ラガヴァン(b)の初リーダー作もおすすめ

 同時に同じくらいオススメなのが、知る人ぞ知る、メキメキ頭角を現してきた若手ベーシスト、ハリッシュ・ラガヴァンのファースト・リーダー作『Calls for Action』(2019)だ。

 私がラガヴァンのベースプレイを初めて意識的に聴いたのは、ウォルター・スミス3世の『Still casual』(2014)でだった(その前にはテイラー・アイグスティ盤でも聴いていたが)。

「意識的に」というのは、実はそれまでもまったく知らずに彼のプレイをたまたま何度も聴いていたのだが、それを「彼と自覚してなかった」という意味だ。それだけスミス3世盤の彼のプレイは冴えていた。

 で、今回の新作はリリースされる前からiTunesで試聴し、あまりのよさに「絶対買う」と勇んで予約してあった。フタを開けてみると大正解。コンテンポラリーなジャズだけど、ダークな作風ながら随所にキラキラ光る輝きが感じられる傑作である。

 レコーディングメンバーは知らない新人ミュージシャンばかりなのだが、これがまたびっくりのすご腕ぞろい。特にドラマーのKweku Sumbyはエリック・ハーランドみたいにどっしりタメるスケールの大きさと超絶技巧で唖然騒然。絶対「来る」才能であることはまちがいない。

 あ、長くなっちゃった(笑)。さて、ほかにはマーク・コープランドの新作『And I love her』(2019)もなかなかよかったです。

 てなわけで、ときどき記事更新に空白ができたりしますが(笑)、どうぞ見放さないでおくんなさいまし。べんべん。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Bill Stewart / Band Menu

Bill Stewart_Band Menu

Bill Stewart (ds)
Larry Grenadier (b)
Walter Smith III (ts)

Recorded: Fabruary 26 and 27, 2018 at Power Station Berklee
Engineer: James Farber

リズム隊が暴れるリズムフェチご用達品

 売れっ子ドラマー、ビル・スチュワートがリリースしたばかりのニューアルバムだ。この人のアルバム制作はレベルが高く、いつも一定水準の作品を出してくる。今回もご多分にもれずレベルが高い。

 メンバーはベースにブラッド・メルドー・トリオの名手、ラリー・グレナディア。サックスには若手の中ではイチ押しのウォルター・スミス3世を迎えている。当代一流のメンバーだけに演奏能力が抜群で、穴のない音を楽しめる。

 さてこのアルバム、ベースのラリー・グレナディアが非常に利いている。めずらしくベースソロも存分に聴かせている。彼とビル・スチュワートのコンビは最高だ。ビルの変幻自在のドラミングの楽しさを味わえる。

 この2人は過去、幾多の名アルバムを生み出してきたが、これほど計算のできるコンビは珍しいだろう。例えていえば、(ジャズではないが)バーナード・パーディーとチャック・レイニーのコンビみたいなものだ。

 またその上に乗っかるウォルター・スミス3世のサックスは、力の抜けた枯れた味わいで私の好みにぴったりだ。クリス・ポッターのような力強くエネルギッシュなタイプよりツボに来る。

 名手ジェームス・ファーバーが手掛ける録音も最高で、安心して聴ける逸品といえるだろう。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Willie Jones III / My Point Is...

Willie Jones III_My Point Is

Eddie Henderson (tp)
Ralph Moore (ts)
Eric Reed (p)
Buster Williams (b)
Willie Jones III (ds)

Recorded: March 7, 2016, at Systems Two, NY
Engineer: Mike Marciano (WJ3 Records WJ31018)

人はハードバップに帰って行く

 のっけからエリック・リードの攻撃的なピアノソロに見舞われ、早くもノックダウン寸前に。ドラマー、ウィリー・ジョーンズIIIが立ち上げた自主レーベル、WJ3 Recordsからリリースされたリーダー作品だ。

 ひとことでまとめれば、「かっこいい音」である。現代のハードバップといったテイストで、各参加ミュージシャンが張り詰めた緊張感のある演奏を繰り広げる。

 集まった面々はエディー・ヘンダーソン(tp)にラルフ・ムーア(ts)、エリック・リード(p)、バスター・ウィリアムス(b)という重厚な面々だ。

 最大の特徴は奇をてらった音でなく王道そのものなので、何度聴いても飽きない点だ。2017年にリリースされたと同時に買った盤だが、2年たったいまでもほとんど毎日聴いている。非常に安定感のある作風だ。

 アルバムに収録された全8曲のうち、主役であるウィリー・ジョーンズIIIの手によるオリジナル曲が3曲。ほかはレコーディングに参加したエリック・リードとバスター・ウィリアムスが楽曲を提供している以外に、ハンコックとホレス・シルバーの曲が入っている。

 こういう音を聴いていると、やっぱり人間はオーソドックスな世界に帰って行くんだな、ということを実感する。典型的なハードバピッシュな演奏だが、決して飽きさせずアルバム1枚を聴かせる。

 エンジニア、マイク・マルシアーノの手による録音も素晴らしい音質で満足度が高い。おすすめです。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

David Sanchez / Carib

David Sanchez_Carib.png

David Sanchez (ts, barril de bomba, per, vo)
Lage Lund (g)
Luis Perdomo (p, Rhodes)
Ricky Rodriguez (ac-b, el-b)
Obed Calvaire (ds, vo)
Jhan Lee Aponte (Per, bomba barril)
Markus Schwartz (haitian-per)

Recorded: Dec. 19, 20 & 21 at Systems Two
Engineer: Mike Marciano (BSMF 5073)

ラテンのリズムにカラダが動く

 何度もグラミー賞にノミネートされ、2004年のアルバム『Coral』ではラテングラミー賞最優秀インストゥルメンタル・アルバムを受賞したプエルトリコ出身のサックス奏者、デヴィッド・サンチェスがニューアルバムをリリースした。

 単独リーダー作としては『Cultural Survival』(2008年、レビュー記事はこちら)以来であり、Ropeadopeレーベル移籍第一弾になる。

 アルバム全編、ラテン調のリズミックな躍動感でいっぱいで、基本的な方向性としては前作『Cultural Survival』の延長線上になる。前作が気に入った人なら試聴なしで買っても絶対ソンはない。それほど同じ路線の音だ。

 リズミックなキメがバシバシ入り、そのぶん前作よりスケールが大きく「壮絶」といっていい雰囲気が漂っている。ひとことでいえば「かっこいい」音だ。

 いちばんおもしろいなと思ったのは、オベド・カルヴェールのドラミングである。基本的に音数が非常に多いドラマーなのだが、曲調をぜんぜん考えず、たとえ静かなバラードであっても「常に音数が多い」プレイをする困った特徴をもっている。

 ところが本作では刻みが細かいラテンのリズムに、音数の多いカルヴェールのドラミングがぴったりハマっていてメチャかっこいい。「場を得た」というやつだろうか。

 かたや前作にも参加していたギタリストのラーゲ・ルンドも、あらためていうまでもなくすばらしい演奏をしている。本作ではやや抑えたプレイぶりだが、狂気を内に秘めた静謐、という感じのプレイで痺れる。

 バンド全体が細かく揺れて躍動し、聴いてるうちにふと気がつけば無意識のうちにカラダのどこかでリズムを取っている。そんな楽しい音だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Al Foster / Inspirations & Dedications

Al Foster_Inspirations & Dedications

Jeremy Pelt (tp)
Dayna Stephens (ts)
Adam Birnbaum (p)
Doug Weiss (b)
Al Foster (ds)

Recorded: January 28, 2019, at Sear Sound Studio, NY
Engineer: Christopher Allen (Smoke Sessions Records SSR-1904)

たまにはメインストリームなジャズもいい

 アル・フォスターが放つ久方ぶりのリーダー作である。アル・フォスターにはサイドマン作品が多く、リーダー作はたった6作しかない。彼のキャリアを考えれば驚くべきことだ。

 なかでも本作はエリ・デジブリやケヴィン・ヘイズらをフューチャーし2008年にリリースしたアルバム『Love, Peace and Jazz! Live at the Village Vanguard 』以来、なんと10年ぶりのリーダー作だ。これがまた、とんでもなくいいのである。

 今をさること20年前、クリス・チークのアルバム『Vine』(1999年録音、レビュー記事はこちら)を聴き、「ええっ、世の中にはこんなトンがったジャズもあるのか!」と驚天動地した。で、以来、ひたすら、いわゆるニューヨーク・コンテンポラリーなニューウェイブ系のジャズばかり聴いてきた。

 例えば典型的なのは、ラーゲ・ルンド作品みたいに高い緊張感にあふれ神経質でピリピリしているコンテンポラリー・ジャズだ。

 そんな私ゆえ、アル・フォスターの本作を聴き、またもや再度、「ええっ、世の中にはこんなジャズもあったのか!」と、逆の意味で激しく後頭部をぶっ叩かれた。

 いや本作は非常にベーシックで、いい意味でありふれたいわゆる旧来のジャズだ。だが、ずっとトンがったコンテンポラリー・ジャズばかり聴いてきた私の耳には非常に新鮮に聴こえる。

 本作は全13曲で、オリジナル曲が11曲。既成曲が2曲の構成である。2曲の既成曲とは1曲目と13曲目に配されたハービー・ハンコックの“Cantaloupe Island”、マイルス・ディヴィスの“Jean-Pierre”なのだが、アル・フォスターの手によるオリジナル楽曲のテイストもこれら既成曲とまったく同じだ。これがまた、とんでもなくいいのである(またかい)。

 若手のミュージシャンが作る現代的でトンがった緊張感のある音と違い、ちょっとブルージーで哀愁があり安らげる。ベテランらしい落ち着きがある。

 全体に暖かみのある、明るく楽しい朗らかな音だ。柔らかく丸みのある音調が聴き手をやさしく包み込む。ストレスの多い現代社会にあって、思わずホッとさせるような安心感でいっぱい。いかにもJBLとマッキンのアンプが似合いそうな音である。

 てなわけで本作と出会い、「現代的でトンがったジャズばかりでなく、往年のベーシックなジャズもいいなぁ」とあらためて実感した。こういう聴き手の価値観を根底から覆すような作品は、実に得難い。ジェレミー・ペルト(tp)やデイナ・スティーブンス(ts)らメンバーもいい。おすすめです。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Patrick Cornelius / This Should Be Fun

Patrick Cornelius_This Should Be Fun

Patrick Cornelius (as)
Ben Allison (b)
John Escreet (p)
Mark Ferber (ds)
Nick Vayenas (tb)

Recorded: June 22, 2018, at Acoustic Recording, NY
Engineer: Nick O'Toole (Posi-Tone Records PR8195)

都会的でスタイリッシュな現代ジャズ

 パトリック・コーネリアスがリリースしたばかりの6枚目のリーダー作だ。ベン・アリソン(b)、ジョン・エスクリート(p)、マーク・ファーバー(ds)とメンバーは豪華だし、アレンジも凝っていて言うことはない。デキのいい都会的でスタイリッシュなコンテンポラリージャズである。彼の作品は常にそうだ。

 ただそれだけに飽きがくるというか、いまひとつ食い足りなさが残る。過去の作品とダブって見え、ちがいが判然としないのだ。本盤だけにこめられた強烈な個性、インパクトのようなものが感じられない。

 思えば彼は、思い切り凝りまくった前作の『While We're Still Young 』(2016年、レビュー記事はこちら)から、微妙なキャリアの曲がり角を迎えたような気がする。

「いいものを作ろう」と作曲面でいじりすぎ、仏作って魂入れず、みたいなところが見えてきた。自身の中に培った膨大なマニュアルに沿ってものを作るから、結果として毎回同じような作品になる。これを外から見れば淡々とルーティーンワークにいそしんでいるかのようにみえてしまうが、とんでもない。本人には無論そんな気はなく、むしろ肩に力が入りすぎているからこそ、こうなるのだろう。

 その証拠に本作は例によってアレンジは芸術的といっていいほど装飾的だし、そのテのワザはふんだんに使っている。だが作曲技術や蘊蓄はあっても、燃えるような情熱が感じられるかといえば……という感じ。音から「人生」が見えてこない。器用貧乏というやつだろうか?

 いや、もちろん本盤で初めて彼の作品を聴いた人なら、まちがいなく存分に楽しめるだろう。だって、作品としては非の打ち所がないんだから。むしろ彼の最高傑作といってもいい。

 だけど(彼の全作品を聴いてきた私に限って言えば)気がついたらCDラックのどんどん奥へ行ってしまい、いつのまにか再生されない、みたいなことになる。残念ながら、現象としてはそういうことである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Ari Hoening Trio / Conner's Days Days

Ari Hoening Trio_Conner's Days Days

Ari Hoenig (ds)
Nitai Hershkovits (p)
Or Bareket (b)

Recorded: November 22, 2017, at Big Orange Sheep Studios, NY
Engineer: Michael Perez-Cisneros (Fresh Sound New Talent FSNT 577)

リズムを「もて遊ぶ」究極のピアノトリオ

 楽しくアグレッシブなピアノトリオである。リズムに興味がある人は必ずツボにくる。ドラマーのアリ・ホーニグが、俊英ニタイ・ハーシュコヴィッツ(p)とオル・バレケット(b)をフィーチャーしてリリースしたばかりのリーダー作だ。

 ピアノトリオはただ「美しい」だけじゃないぞ、ってところをたっぷり聴かせてくれる。彼らはリズムが実にやばい。やばすぎる。変拍子も交えてノリが目まぐるしく変幻自在だ。

 無数のリズムパターンを駆使して楽曲を聴かせる。リズムをここまで「もて遊んで」楽しませてくれるのはアリ・ホーニグならではだろう。トリハダの究極ピアノトリオである。

 先日レビューしたピアノトリオ『Matt Slocum / Sanctuary』(レビュー記事はこちら)もクオリティが高かったが、まるで傾向は違うものの本作も負けず劣らずすばらしい。山あり谷ありのリズムをベースに、3人がぴったり息を合わせて一心同体で演奏しているのが伝わってくる。

 音楽的に、これに匹敵するピアノトリオといえばブラッド・メルドー・トリオくらいしかちょっと思いつかない。テイストが似ているという意味じゃなく、いずれも芸術点がめちゃ高いって意味で。

 これ聴いてると、強度の興奮のあまり瞼にジワーッと涙が滲んでくる。特に7曲目と10曲目の涼やかなリリカルさと、9曲目の凝ったリズムワークには思わずフリーズしてしまう。それくらい金縛り物のピアノトリオである。

 実はYouTubeで、このトリオのライブをたまたま観ていたので「いい」というのはわかってはいたが、CDになるとここまでいいとは思わなかった。音質がよく透明感と解像度が高いのもマル。絶対、買いです。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Lage Lund / Terrible Animals

Lage Lund_Terrible Animals

Lage Lund (g)
Sullivan Fortner (p)
Larry Grenadier (b)
Tyshawn Sorey (ds)

Recorded: April 26, 2018, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1402)

荒涼とした廃墟感が広がる最高傑作

 本盤はリリースと同時に買っていたのだが、ブログの更新をサボっている時期だったので書きそびれていた(笑)。とはいえ本ブログにギタリスト、ラーゲ・ルンドは欠かせないので遅ればせながらレビューしておく。

 さて彼のCriss Crossレーベル5作目に当たるこの最新作は、現代最先端で思いっ切りとんがった作品だ。ルンドの持ち味であるナーバスでネガティヴなテイストが最大限に発揮された最高傑作である。メロディアスな親しみやすさと、それとまったく対極にある超絶的な難解さが同居した妖作だ。

 ゆえにルンドが初体験な人は覚悟して聴いたほうがいい。一度目は「なんだ? この取っ付きにくい神経質な音は?」と驚く。だが何度か聴いてるうちにある沸点を迎え、それを越えるとだんだん気持ちよくなってくる。実に麻薬的な作品だ。

 方向性としては、彼のCriss Crossレーベル2作目に当たる『Unlikely Stories』(2010年、レビュー記事はこちら)の荒涼とした虚無感のある路線を突き詰めた作風である。

 音の温度感でいえば、ひんやり冷たい。ルンドが生まれ育ったノルウェーの厳しい冬を想わせるイメージだ。現代人のささくれ立った心の襞を覗かせるような世界観が際立つ。

 レコーディング・メンバーで注目してほしいのは、ピアニストのサリヴァン・フォートナーだ。私はトニー・マラビー(ts)が咆哮しまくるフリーっぽいアルバム『Sustainable Quartet』(2010年、レビュー記事はこちら)で初めて彼の演奏を聴き、ひとめぼれした。インプロが手なりでなく耳に残るフレーズを連発する業師である。

 一方、ベーシストのラリー・グレナディアは説明するまでもなく、ブラッド・メルドー・トリオのひとり。かたやドラマーのタイショーン・ソーリーは、NYCの前衛系を開拓するクセ者だ。音数が異常に多くてうるさい以前から私が大嫌いなタイプだが、本盤ではその暴力性がハマりにハマっていておもしろい。

全曲、気合いのオリジナル構成である

 収録曲は全10曲。すべてルンドのオリジナルである。1曲目は、テーマが親しみやすくメロディアスで印象的だ。サリヴァン・フォートナー(p)のインプロに入ると一転して夢幻の世界に連れて行かれ、続くルンドのソロでは本作のテーマである荒涼とした廃墟感がのっそりと姿を現す。

 M-2でも静かな導入部を経て次第に1曲目同様の廃墟感が出現し、ルンドの破壊的で壮絶なソロにとどめを刺される。続く3曲目は途中で4ビートになってからがスタイリッシュで滅茶かっこいい。ルンドはもちろん、フォートナーが刺激的ですばらしいピアノソロを聴かせている。

 M-4は効果音のような静かなギターの爪弾きから立ち上がり、スローでしっとりした本題が展開される。落ち着いたギターソロも効果的に映える。ちょっとした箸休め的な小品である。M-5はこれまたメロディアスで覚えやすいテーマが乙。浮遊するような味のあるリズムが憎い。

 一転して6曲目は、Criss Crossレーベル4作目の彼のアルバム『Idlewild』(2015年、レビュー記事はこちら)でも顔をのぞかせた、水の中に潜って海の底から水面を眺めているかのような味のおもしろい作品だ。

 M-7は楽しいメロディの導入部と侘びサビ系のギターソロ、壊れた感じのフォートナーのピアノソロが刺さる。8曲目はルンドにしては珍しいボサノバ調だが、「ボッサ」という一般的なイメージとはまるで程遠いチャレンジングで危険な棘のある逸品だ。

 M-9はアコギが宙を舞い、エフェクターが味付けをした小品。トリを務める10曲目は、開放感のある楽想をベースに、まるで空に舞い上がって行くようなルンドのインプロが聴かせる。快作である。

 それにしてもルンドは、前作『Idlewild』をスタンダードほかありきたりな既成曲でまとめていただけに個人的に気になっていた(恐らくレーベル側の介入で)。だが本作ではそのストレスを振り払うかのような全曲オリジナル構成である。心配は杞憂に終わった。いやはや、参りました。

 ルンドは1978年12月12日、ノルウェー生まれ。バークリー音楽大学で学んだ。2002年にニューヨークへ移るとすぐ、ジュリアード音楽院に入学した最初の記念すべきエレキギター奏者となった。2005年モンク・コンペで優勝している。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

最新記事
カテゴリ
ブログ内検索
全記事一覧・表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR