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Marc Copland Trio / Haunted Heart

mc_h

Marc Copland (p)
Drew Gress (b)
Jochen Rueckert (ds)

Rec. April 2, 2001, at The Studio, NY
Engineer: Jon Rosenberg (HatOLOGY 690)

静謐な音の断片が生み出す空気感

 このアルバムは演奏を聴くというより、「空気感を味わう」という表現の方がふさわしい。

 マーク・コープランド (p) が操るピアノからポツリ、ポツリとたどたどしく断片的な音符が立ち上る。それらの音は尾を引くような余韻に包まれ、空間にぽっかり浮かんでは消える。

 音と音のはざまには間(ま)がたっぷりあり、その何もない空間とそこに置き去りにされた音、そして静謐感にあふれた余韻が織り成す独特の「空気の感じ」。それを体感するのがこのアルバムの醍醐味だ。

 コープランドが仕掛ける異空間に放り込まれた数々のスタンダード曲が、予想もしない方法論によって翻訳され、まったく新しい楽曲に生まれ変わる。そんなコープランドの創造の瞬間に立ち会える名作である。

 ただ旋律が美しいだけでなく、時おり混じる不協和音的な危ない音が刺激的だ。サポートするドリュー・グレス (b) 、ヨッケン・リュッカート (ds) の場の作り方もすばらしい。特にピアノ独奏のルバートから、リズム隊が入ってインテンポになる瞬間がスリリングである。平凡なプレイヤーなら、こんな独特のタイム感をもつピアノに合わせ、楽曲として成立する形にして演奏するのはむずかしい。

 儚い系ピアノトリオが辿り着いたひとつの究極。「繊細な」とか「叙情的」などと平凡な言葉をいくら並べたところで、この圧倒的な空気感の前にはただ空疎なだけだ。文字表現の無力を思い知らされる名盤である。前回のレヴュー作に引き続き、本作も2000年代のエポックメイキングな1枚であることはまちがいない。

(追記)

 2002年にリリースされた本盤オリジナルのタイトルは、「Haunted Heart and Other Ballads」 (hatOLOGY 581)。その後、2010年にタイトルを「Haunted Heart」と短くし、(HatOLOGY 690)として再発された。
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