【’90〜2000年代・名盤100選】Chris Cheek / Vine

​Chris_Cheek_Vine

Chris Cheek (ts, ss)
Brad Mehldau (p, fender rhodes)
Kurt Rosenwinkel (g)
Matt Penman (b)
Jorge Rossy (ds)

Recorded: December 20-21, 1999 at Avatar Studios, NY
Engineer: James Farber (FSNT 086)

2000年代の新感覚クール・ビューティー誕生

 それまでの「ジャズ」の概念を打ち砕き、まったく新しいジャズを生み出した記念碑的な傑作だ。この音を好むか好まざるかにかかわらず、聴く者をたちどころに瞬殺するインパクトがある。サックス奏者、クリス・チークが2000年にリリースした3枚目の金字塔である。

 4ビートなどカケラもない。バップフレーズよ、さようなら。まったく聴いたことのない斬新なアレンジが空間を切り裂く。プレイヤーは絶対に熱くなることなどなく、あくまでクールに淡々と音を紡ぐ。

 ベースとドラムがのたうつようなリズムを打ち出し、サックスとギターがユニゾンで奇妙なテーマ風フレーズをリピートする。バッキング時のギターは遠慮なくアルペジオを繰り出し、それらの上に乗るサックスは、その後2000年代を席巻することになる浮遊感のあるウネウネした不思議なノリでソロを取るーー。

 '90〜2000年代に大手を振ってジャズ界を闊歩したパット・メセニーとジョン・スコフィールドが旧世代の巨頭だとすれば、ブラッド・メルドーとカート・ローゼンウインケル、ジョシュア・レッドマンはそれに続く新御三家だった。だが彼らとはまったく異なる奇抜なアプローチで新大陸を発見したのが本アルバムである。

 メンバーはごらんの通り。ブラッド・メルドー(p)とカート・ローゼンウインケル(g)、マット・ペンマン(b)、ジョージ・ロッシ(ds)という、2度と実現不可能な当代きっての大物たちが勢揃いしている。なかでも特にローゼンウインケルの時代を切り裂くような革新的なギタープレイが印象に残る。

 当たり前のように計8曲すべてチーク自身のオリジナル。現代ジャズの特徴であるコンポーザー志向の走りだ。うち半分の4曲でメルドーがフェンダー・ローズのエレキ・ピアノを弾いているのも新しい。

 まちがいなく2000年代の新感覚ジャズはここから始まった。本盤を聴かずしてコンテンポラリー・ジャズは語れない。

 クリス・チークは1968年セントルイス生まれ。1988年にバークリー音大に入学し、1992年にニューヨークへ移住した。1997年にFSNTから『I Wish I Knew』でアルバム・デビュー。FSNTから本作も含め『A Girl Named Joe』(1997)、『Blues Cruise』(2005) の4枚のリーダー作を発表している。





スポンサーサイト

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Roman Otto / If You Lived Here You'd be Home by Now

Roman_Otto_If_You_Lived_Here~

Roman Ott (as)
Kurt Rosenwinkel (g)
Manuel Schmiedel (p)
Lars Gühlcke (b)
Peter Gall (ds)

Recorded: November 27-28, 2012 at Recpublica Studio, Poland
Engineer: Marco Birkner (FSNT 446)

ローゼンウインケル参加、うねる傑作現代ジャズ

 カート・ローゼンウィンケル(g)が参加し、まったりした非4ビート系ジャズが続いて行く。時折混ざるゆったりバラードが実にいいあんばい。カートがうるさい弾きまくりでなく、ツボを心得たうっとりするような名演を繰り広げているのが聴きものだ。ドイツを拠点に活動するアルト・サックス奏者、ロマン・オットのFSNT第二弾である。

 主役のオットはベルリンの音楽院を卒業し、2003年に自己のバンド「イナー・シェイプ」を結成して高評価を得た。特にカート・ローゼンウィンケルをフィーチャーした2009年のアルバム「Seeing People」(FSNT 346)がベストセラーを記録している。

 自身のオリジナル7曲に「Love Thy Neighbor」(revel / gordon) を加えた合計8曲。本作はとにかくオリジナル曲の出来がよく、曲が変わるたびに新しい発見がある。そのためアルバムをまったく飽きさせない。ボッサ調の穏やかな1曲目で早くもノックアウトされてしまう。そのほかにも哀愁あり、美メロあり、ノリのいい4ビートありで一気に最終曲まで聴かせてしまう。

 主役のオットーはマーク・ターナー風のうねうねサックスだ。彼のこのプレイがゆったりリラックスできる曲調に実にマッチしている。そこにカートが毎曲かっこいいギターソロをバシバシ決めて行くのだからたまらない。

 ここでのカートのギタープレイは、ある種ナーバスな自身のアルバムとはまったく異なり落ち着いた大人の演奏を聴かせている。本盤での名演は、数ある彼の客演のなかでもベストプレイに挙げられるのでなないか。カート・ファンにはうれしいプレゼントである。







テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Rick Germanson Trio / Off The Cuff

Rick_Germanson_Trio_Off_The_Cuff.jpeg

Rick Germanson (p)
Gerald Cannon (b)
Louis Hayes (ds)

Recorded: January 6-7, 2009 at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Mike Marciano & Joe Marciano (Owl Studios OWL00127)

ストレート・アヘッドな王道路線を行け

 昨年の後半くらいからメインストリーム系のジャズがすっかりおもしろくなり、そっち方面が多いスモールズ・ライブを漁っていて出会ったピアニスト、リック・ジャーマンソンである。

 彼は中堅トランペッター、ブライアン・リンチ(1956年生まれ)のピアニストとして頭角を現し、本盤でもフィーチャーされているベテラン・ドラマー、ルイス・ヘイスのグループでも活動している。

 本作はそんなジャーマンソンがFSNTからリリースしたデビュー盤『Heights』(2001年録音)、およびセカンド盤『You Tell Me』(2004年録音)に続く3作目である。ストレート・アヘッドな王道路線だ。

 自身のオリジナル6曲にフレディ・ハーバート「Up Jumped Spring」のほか、「Autumn in New York」など全10曲。オリジナル志向で、独特のメロディー感覚をもっている。ふとした瞬間にぽっかり空いた異次元へもって行かれるような不思議な感覚が味わえる。

 ノリのいい曲もあるのだが、どちらかといえばしっとり系だ。バップ系のピアニストだが、本盤では割と大人しく控えめな渋いプレイを披露している。雰囲気作りが実にうまいプレーヤーである。

 ちなみに彼の演奏を初めて聴いたのは4作目『Rick Germanson Quartet / Live at Smalls』(2011年録音)だった。本盤とは対照的にノリノリの雰囲気のなか、トランペッターのエディ・ヘンダーソンが熱のこもった演奏でえらくかっこよかった。ギンギンな感じで楽しみたいならこちらもおすすめだ。

 ジャーマンソンは1972年ミルウォーキー生まれ。1998年にニューヨークへ進出し、1996年にはアメリカン・ピアニスト協会のジャズピアノコンクールで大賞受賞。2004年には米NYCのジャズ・ニュースサイト『All About Jazz』 から「Best of New Talent」を贈られている。



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Noah Haidu / Infinite Distances

Noah_Haidu_Infinite_Distances.jpeg

Noah Haidu (p)
Sharel Cassity (as)
Jon Irabagon (ss, ts)
Jeremy Pelt (tp,flh)
Peter Brendler (b on M-1, 2, 3, 7)
Ariel Alejandro de la Portilla (b on M-4, 5, 6, 8, 9, 10, 11)
John Davis (ds on M-4, 5, 6, 8, 9, 10, 11)
Mark Ferber (ds on M-1, 2, 3, 7)

Recorded: June 24, 2015 & Feb 15, 2016 at Skyline Productions, NJ
Engineer: Paul Wickliffe (Cellar Live Records CL080216)

緻密なアレンジで現代ジャズに踏み込む野心作

 十重二十重(とえはたえ)に張り巡らされた緻密なアレンジが圧倒的で、聴く者はただひれ伏すのみ。作品性の高いアルバムだ。過去作とくらべ、みなぎる緊張感でピリピリしている。エンターテインメントとしてのジャズに「芸術」をふりかけたようなアルバムだ。ブルックリン在住の若手ピアニスト、ノア・ハイドゥがリリースしたばかりの3枚目のリーダー作である。

 デビュー盤の『Slipstream』(2011年、レヴュー記事はこちら)では2管を配した大らかな現代版ハードバップを提示し、セカンド盤『Momentum』(2013年、レヴュー記事はこちら)ではコンセプトはそのままにピアノトリオで同じ表現をした。で、迎えた本作では、デビュー盤でもフィーチャーしたジョン・イラバゴン(ss,ts)とジェレミー・ペルト(tp)を配し、よりコンテンポラリーな方向に舵を切っている。

 本盤を入手する前、断片的にネット試聴したときには「ああ、この人はまたきっちり水準をクリアする作品を作ってきたな」と感じた。フタをあけてみれば案の定、すごい凝りようだ。

 ただ肩に力が入っているぶん、過去作のように理屈抜きでは楽しめないようなところがある。少なくともハードバップ的な大らかさや能天気さとは無縁だ。おそらく50年代の古き良きジャズしか聴かない層にとっては「頭でっかちなジャズ」と映るかもしれない。まあ好みの問題である。

 全11曲のうち、ジョー・ヘンダーソン「Serenity」以外の10曲すべてが自身のオリジナルと気合いを入れてきた。過去作で提示した2000年代版メインストリームな世界に新味を加え、化学反応を起こすことでより現代的なジャズに軸足を移した。アレンジの緻密さまで含め、作り込みの深さでいえば傑作と呼べるだろう。

 それほど細部まで念入りに作られた世界を構築している。力作だ。ただそのぶん「笑い」がない。わざとあいまいにしておいたパートが結果的に生み出す「余裕」や「ゆらぎ」みたいなものはない。作者が計算した通りに解釈してください、という音だ。その意味では1度や2度聴いたくらいじゃよさがわからず、聴き込むことを要求する作品といえるかもしれない。

 肩の凝らないジャズを聴きたい人にはやや重く、ちょっと聴き疲れするかも? だがそのぶん芸術としての完成度は高いし聴き応えがある。いつの時代も、芸術にエンターテインメントを差し込むときのサジ加減はむずかしいものだ。

ここで全曲試聴できます。



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

David Hazeltine Trio / Perambulation

David_Hazeltine_Trio_Perambulation

David Hazeltine (p)
Peter Washington (b)
Joe Farnsworth (ds)

Recorded: May 28, 2005, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Max Bolleman (Criss Cross 1276)

喉越しスッキリ、王道系ピアノトリオが行く

 4ビートのリズムをバックに、コロコロとよく転がるノリのいいピアノが遊ぶ。小粋なメロディについうっとり。渋さを極めた大人の味だ。メインストリームを行く現代ジャズの代表的ピアニスト、デヴィッド・ヘイゼルタインがCriss Crossレーベルから2006年にリリースした優良盤である。

 デヴィッド・ヘイゼルタインは1958年ミルウォーキー生まれ。21才でニューヨークに進出し、マリーナ・ショウのピアニスト兼アレンジャーとして活躍したのち自身のトリオで活動している。

 主役を支えるリズム隊は、ヘイゼルタインとともに人気ジャズ・ユニット「One for All」のオリジナル・メンバーとしても知られるピーター・ワシントン(b)とジョー・ファンズワース(ds)。現代メインストリーム系リズムセクションのなかでは人気、安定感ともに最も図抜けた才能たちである。

 さて本作はスッキリ喉越しがいいヘイゼルタイン盤の中でも特にスイスイ聴きやすく、かつ味わい深い。クセのない入りやすさが魅力的だ。ただし何気ないようでいてアレンジや選曲がよく、スタンダードを網羅した盤にありがちな「おやじジャズ」的な耳タコ感がない。そのため何度聴いても聴き飽きない。適度なノリのよさもあり、ソファーにゆったりめり込んでくつろげる落ち着きがある。

 それになんといっても疲れたとき、小音量で軽くあっさり流しておくのにいい。ひとクセある最近のコンテンポラリー・ジャズではとてもこうは行かない。たちまち消化不良を起こしてしまう。「疲れたとき聴くのにいい」というのは、このテのストレート・アヘッドなジャズの大きな特徴だろう。

 オリジナル3曲にスタンダード等を加えた合計9曲。ジャズの中心部を射抜く王道的ラインナップの中でも、例えばM-8はファンキーでかっこいいぶっ飛びオリジナル。なるほど彼はコンポーザーとしての才もある。ただスタンダードなだけではない、役者である。


*M-3「Wonder Why」 (Sammy Cahn / Nicholas Brodsky)


*M-6「Blues For David」 (Buddy Montgomery)

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Bruce Barth / Don't Blame Me

Bruce_Barth_ Dont_Blame_Me

Bruce Barth (p)
Ed Howard (b)
Billy Drummond (ds)

Recorded: June 9, 1997 at Tedesco Studios, NJ
Engineer: David Baker (Double-Time Records DTRCD-129)

春の小川のせせらぎのようなピアノトリオ

 こんなピアノの弾き方があったのか? という感じだ。モンクやビル・エバンスの影響も感じさせるが、とにかく独特の世界観をもっている。オリジナル曲は全編これインプロみたいな起承転結でつかみどころがない。ふと気づくと彼独特の心地いい音世界に引き込まれている。

 ベテランの域に入ったピアニスト、ブルース・バースが1997年に発表したピアノトリオ作品だ。

 オリジナル5曲に加え、モンク「Evidence」、コルトレーン「Lazy Bird」など合計10曲。まったく力むことがなく、肩の力をすっかり抜いた演奏がえんえん続く。聴いてるこちらも自然とリラックスでき、ほんわか気分で1日の疲れが取れて行く。まるで温泉につかるみたいなまったりジャズだ。

 雪解けの頃の小川のせせらぎのように、ちょろちょろと細く流れるように転がるピアノの調べ。まるで羽根布団のようにふんわりしたハーモニーとコードワークを駆使し、ゆったり音を紡いで行く。あくまでも優しいタッチで、子供が大事にしている大切な宝物にでも触るかのように軽やかに。

 実はヴィセンテ・アーチャー(b)、ルディ・ロイストン(ds)と彼が演ったスモールズ・ライブ『Bruce Barth Trio』(2010年、レヴュー記事はこちら)で一目惚れし、あの盤とまったく同じスタイルでやってるアルバムを探して見つけた逸品。彼はたくさん作品をリリースしているから、宝探しはまだまだ続きそうだ。



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jochen Rueckert / Charm Offensive

Jochen_Rueckert_Charm_Offensive.jpeg

Mark Turner (ts)
Mike Moreno (g)
Orlando le Fleming (b)
Jochen Rueckert (ds)

Recorded: May 2, 2016 at Sear Sound, NY
Engineer: Chris Allen (Pirouet Records PIT3095)

漆黒の世界で繰り広げられる闇夜の饗宴

 相変わらずダークな音だ。ヒリヒリするような神経質さが聴き手の不安を煽り立ててくる。ハッキリ、過去作の延長線上にある音だ。全8曲すべてオリジナル。漆黒の世界で闇夜の饗宴が繰り広げられる。ドイツ・ケルン出身でニューヨークを拠点に活動するドラマー、ヨッケン・リュッカートが2016年にリリースした4枚目のリーダー作である。

 たまたま最近、個人的にコンテンポラリーじゃなく王道系のジャズをよく聴いているせいもあるのか、本作は彼のセカンド盤『Somewhere Meeting Nobody』(2011年、レヴュー記事はこちら)、サード盤『We Make The Rules』(2014年、レヴュー記事はこちら)とほぼ同じコンセプトでマンネリ気味に感じられる。コンテンポラリー好きにはおいしい音なのだとは思うが、これまで彼の作品を継続して聴いてきた身としてはちと物足りない。そろそろ転換期のような気がする。

 同じダークなコンセプトでも、前作みたいに救いようのない暗闇の世界をさまようような疾走感、スピード感がない。かと思えば前々作のように噛めば噛むほど旨味が出るビターな味わいもない。2、3作目とくらべ個性が薄く、小さくまとまっている。おなじみのメンバーにしても、今までと同じ路線に基づき惰性でやってる感じが伝わってくる。

 ギターのマイク・モレノはそつなくプレイしているが、2作目のブラッド・シェピックや3作目のラーゲ・ルンドのような突き抜けた感じがない。このテの路線をやるなら、モレノよりルンドのほうがハマってる感じだ。

 また珍しくモレノとマーク・ターナーの掛け合いがあるのだが(彼らはそういう予定調和を嫌う)、クールな彼らがまあハード・バップのように熱いバトルで燃え上がるなんてことはないにせよ、なんというか腹八分目で「まっ、これくらいでいいか」的な空気を感じてしまう。

 結論としてこのテが好きな人には及第点かもしれないが、これまでリュッカートが構築してきた世界にもうひと声プラスアルファがほしい人にはやや物足りない。次回作での新展開に期待したい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Noah Haidu / Momentum

Noah_Haidu_Momentum.jpeg

Noah Haidu (p)
Ariel de la Portilla (b)
McClenty Hunter (ds)

Recorded: June 25, 2012 at Acoustic Recording, NY
Engineer: Michael Brorby (Posi-Tone Records PR8109)

メインストリームに新味を加えた大人の大吟醸

 ツヤと潤いのあるピアノの音色にうっとりさせられる。​ストレート・アヘッドで​ちょいバップ的ななかにも、キラリと光るアレンジで新味を感じさせる。単なる懐古趣味に終わらせない。ブルックリン在住の若手ピアニスト、ノア・ハイドゥが2013年にリリースしたセカンド作である。

 彼の存在はデビュー盤『Slipstream』(2011年、レヴュー記事はこちら)で見つけマークしていたが、いつのまにか知らない間にセカンド盤を出していた。うっかりだ。聴いてみたらば前作に負けず劣らずすごくいい。デビュー作では2管をフィーチャーしていたが、今回はシンプルなピアノトリオで攻めてきた。

 オリジナル4曲に、「I Thought About You」(Jimmy Van Heusen)、「A Child Is Born」(Thad Jones)、「Rainbow」(Keith Jarrett)、「Serenity」(Joe Henderson)など計9曲。メインストリームな世界に軸足を置きながら、でもちょっとどこかが新しい。デヴィッド・ヘイゼルタインほど保守的じゃないが、いい意味でコンサバティブな流れはキッチリ抑えている。そんな現代型ハード・バップから進化した正統派のピアニズムが心地いい。

 それにしても彼はいいリズム隊を見つけたものだ。いい意味でアクがなく主役であるピアノのよさを引き立ててくれる。それでいてテクニカルで決して聴き手を飽きさせない。渋くて巧くて出しゃばらない。NYCには味なスゴ腕がいるものだ。

 ノア・ハイドゥは1972年7月・ヴァージニア生まれ。Bill CharlapやKenny Barron、Bruce Barthらを師と仰ぎ、ニューヨーク州立大学で音楽学修士号を取得した。2017年2月10日(予定)には、ジョン・イラバゴンやジェレミー・ペルトをフィーチャーしたサードアルバム『Infinite Distances』の発売を控えている(アマゾンのページはこちら)。

*ファースト&セカンド作はここで試聴できます。



テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Bruce Barth Trio / Live at Smalls

Bruce_Barth_1.jpeg

Bruce Barth (P)
Vicente Archer (b)
Rudy Royston (ds)

Recorded: September 29-30, 2010 at Smalls Jazz Club, NY
Engineer: Jimmy Katz (SmallsLIVE SL0019)

なにげない、さりげないジャズのコク

 これだけ地味で、これだけ味のある渋い盤は初めて聴いた。なにげなく、さりげないのだがそこがいい。かすかにブルージーだがこってりした暑苦しさなどまるでなく、むしろサラサラとあっさり軽めに流れて行く。だから何度でも繰り返しずっと聴いていたくなる。不思議なアルバムだ。ニューヨークを拠点に活動するピアニスト、ブルース・バースのスモールズでのライヴである。

 バースは1958年カリフォルニア生まれ。8才でNYCに移住した。フレッド・ハーシュ、ノーマン・シモンズらに師事。1988年にスタンリー・タレンタインのグループに参加し、90年にはテレンス・ブランチャード・クインテットに加わった。エンヤからリリースした初のリーダー作『In Focus』(1993)、『Morning Call』(1995)はいずれもニューヨーク・タイムズが選ぶトップ・テン・リストにランキングされている。

 1曲を除きすべてオリジナルの合計9曲。実は本作はヴィセンテ・アーチャー(b)、ルディ・ロイストン(ds)という魅惑のリズム隊に惹かれて手に取った。だが初めてひと通り聴いた瞬間、正直「こりゃお蔵入りだな」と思った。強く印象に残る部分がまったくなかったからだ。ところがなぜか、ダメモトでふともう一度聴いてみる気になった。で、2回目に聴いたら、それまで顔が見えなかった盤にハッキリ目鼻立ちが通った。「いい」のである。

 なにしろ本作は、耳に残るフレーズがほとんど出てこない。だから1回聴いたくらいじゃ、よさがわからない。例えばアルバム冒頭、さりげない導入部で始まる静かなM-1は次第に熱を帯び、ピアノの打鍵が力強くなっていく。だが主役のバースは決してわかりやすい単純なフレージングに逃げない。クールで激しく熱くなることもない。ここが本盤をわかりにくくしている本尊なのだが、しかし同時に聴けば聴くほど味の出るスルメ化ポイントになっているともいえる。

 だから本盤のよさを言葉で表現するのはむずかしい。ゆったりしたノリで、まるで太平洋のド真ん中に浮き輪ひとつでのんびり浮かんでいるような気分になれる。そんな感じだ。激しさや煩ささがまったくないので、仕事で疲れている時に小音量で流しておくのにもいい。究極のリラクゼーションをあたえてくれる盤、それがこのアルバムだ。


テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Paul Grabowsky / Big Adventure

Paul_Grabowsky_Big_Adventure.jpeg

Paul Grabowsky (p)
Philip Rex (b)
Niko Schauble (ds)

Recorded: February 21-22, 2003 at the Australian Broadcasting Corporation's Studio 345, Melbourne
Engineer: Mal Stanley (ABC 476 283-5)

圧倒的なリアリティで物語を紡ぐピアノトリオ

 しずしずと物語を紡ぐ音だ。1音1音の背後に何らかのストーリーが秘められ、ピアノの調べがその物語を音符に翻訳しながらアルバムは進行する。7曲のオリジナル楽曲が放つ音魂は圧倒的なリアリティがあり、眼前に情景がありありと浮かんでくる。

 リスナーはイマジネーションの羽を広げ、流れくるメロディにインスパイアされて自分だけの物語を見る。そんなアルバムだ。オーストラリアの個性派ピアニスト、ポール・グラボウスキーが2004年にリリースした問題作である。

 グラボウスキーは1958年生まれ。ピアニストであると同時に映画や劇場・オペラの著名な作曲家でもある。メルボルン大学音楽院でピアノ上級講師マック・ジョストに師事。その後、NYCのジュリアード音楽院で学んだ。1980年にロンドンへ飛び、1985年までドイツ・ミュンヘン在住。2016年9月には来日し、東京のコットンクラブ等に出演している。

 オリジナル楽曲7曲に「Fool on a Hill」を加えた合計8曲。リリカルで繊細な美しさをもち、耳に残るメロディが印象的だ。だが時にはアブストラクトで聴き手を突き放すようなところもある。楽曲によっては挑戦的で、ある種の攻撃性を秘めてもいる。

 リリカルで美しいという意味では北欧あたりのピアノトリオと共通点があるが、はっきり違うのは一種の演劇性だ。例えば冒頭にあげたジャケ写を見てほしい。モノクロームのブレた映像がリスナーに何かを訴えかけてくる。手を上げてタクシーを呼び止める女性の後ろ姿からストーリーが匂う。いったいどんな物語がそこにあるのか? そんな楽しみ方ができるアルバムである。

 グラボウスキーは1986年にオーストラリアに戻り、The Paul Grabowsky Trioを結成。ファーストアルバム『Six by Three』(1989)、2nd『When Words Fail』(1996)がARIA Music Awardsを受賞した。彼のピアノトリオ盤は一時ほとんど廃盤になりレア盤として中古市場で高値がついていたが、そんななか2014年に前出『Six by Three』が復刻された。

 現在、新品入手可能な彼のピアノトリオ作を選ぶなら本盤のほか、なにより美しさ優先なら比較的わかりやすい『Three』(2000)がいい。名盤『Six by Three』はM-1のみフリー的要素を盛り込んでいるが、M-2以降は本作と並びリリカルでおすすめできる。他の盤も中古が出回っているのでディスクユニオンかアマゾンあたりで検索してみてほしい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

最新記事
カテゴリ
ブログ内検索
全記事一覧・表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR