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【’90〜2000年代・名盤100選】Chris Cheek / Vine

​Chris_Cheek_Vine

Chris Cheek (ts, ss)
Brad Mehldau (p, fender rhodes)
Kurt Rosenwinkel (g)
Matt Penman (b)
Jorge Rossy (ds)

Recorded: December 20-21, 1999 at Avatar Studios, NY
Engineer: James Farber (FSNT 086)

2000年代の新感覚クール・ビューティー誕生

 それまでの「ジャズ」の概念を打ち砕き、まったく新しいジャズを生み出した記念碑的な傑作だ。この音を好むか好まざるかにかかわらず、聴く者をたちどころに瞬殺するインパクトがある。サックス奏者、クリス・チークが2000年にリリースした3枚目の金字塔である。

 4ビートなどカケラもない。バップフレーズよ、さようなら。まったく聴いたことのない斬新なアレンジが空間を切り裂く。プレイヤーは絶対に熱くなることなどなく、あくまでクールに淡々と音を紡ぐ。

 ベースとドラムがのたうつようなリズムを打ち出し、サックスとギターがユニゾンで奇妙なテーマ風フレーズをリピートする。バッキング時のギターは遠慮なくアルペジオを繰り出し、それらの上に乗るサックスは、その後2000年代を席巻することになる浮遊感のあるウネウネした不思議なノリでソロを取るーー。

 '90〜2000年代に大手を振ってジャズ界を闊歩したパット・メセニーとジョン・スコフィールドが旧世代の巨頭だとすれば、ブラッド・メルドーとカート・ローゼンウインケル、ジョシュア・レッドマンはそれに続く新御三家だった。だが彼らとはまったく異なる奇抜なアプローチで新大陸を発見したのが本アルバムである。

 メンバーはごらんの通り。ブラッド・メルドー(p)とカート・ローゼンウインケル(g)、マット・ペンマン(b)、ジョージ・ロッシ(ds)という、2度と実現不可能な当代きっての大物たちが勢揃いしている。なかでも特にローゼンウインケルの時代を切り裂くような革新的なギタープレイが印象に残る。

 当たり前のように計8曲すべてチーク自身のオリジナル。現代ジャズの特徴であるコンポーザー志向の走りだ。うち半分の4曲でメルドーがフェンダー・ローズのエレキ・ピアノを弾いているのも新しい。

 まちがいなく2000年代の新感覚ジャズはここから始まった。本盤を聴かずしてコンテンポラリー・ジャズは語れない。

 クリス・チークは1968年セントルイス生まれ。1988年にバークリー音大に入学し、1992年にニューヨークへ移住した。1997年にFSNTから『I Wish I Knew』でアルバム・デビュー。FSNTから本作も含め『A Girl Named Joe』(1997)、『Blues Cruise』(2005) の4枚のリーダー作を発表している。





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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Paul Grabowsky / Big Adventure

Paul_Grabowsky_Big_Adventure.jpeg

Paul Grabowsky (p)
Philip Rex (b)
Niko Schauble (ds)

Recorded: February 21-22, 2003 at the Australian Broadcasting Corporation's Studio 345, Melbourne
Engineer: Mal Stanley (ABC 476 283-5)

圧倒的なリアリティで物語を紡ぐピアノトリオ

 しずしずと物語を紡ぐ音だ。1音1音の背後に何らかのストーリーが秘められ、ピアノの調べがその物語を音符に翻訳しながらアルバムは進行する。7曲のオリジナル楽曲が放つ音魂は圧倒的なリアリティがあり、眼前に情景がありありと浮かんでくる。

 リスナーはイマジネーションの羽を広げ、流れくるメロディにインスパイアされて自分だけの物語を見る。そんなアルバムだ。オーストラリアの個性派ピアニスト、ポール・グラボウスキーが2004年にリリースした問題作である。

 グラボウスキーは1958年生まれ。ピアニストであると同時に映画や劇場・オペラの著名な作曲家でもある。メルボルン大学音楽院でピアノ上級講師マック・ジョストに師事。その後、NYCのジュリアード音楽院で学んだ。1980年にロンドンへ飛び、1985年までドイツ・ミュンヘン在住。2016年9月には来日し、東京のコットンクラブ等に出演している。

 オリジナル楽曲7曲に「Fool on a Hill」を加えた合計8曲。リリカルで繊細な美しさをもち、耳に残るメロディが印象的だ。だが時にはアブストラクトで聴き手を突き放すようなところもある。楽曲によっては挑戦的で、ある種の攻撃性を秘めてもいる。

 リリカルで美しいという意味では北欧あたりのピアノトリオと共通点があるが、はっきり違うのは一種の演劇性だ。例えば冒頭にあげたジャケ写を見てほしい。モノクロームのブレた映像がリスナーに何かを訴えかけてくる。手を上げてタクシーを呼び止める女性の後ろ姿からストーリーが匂う。いったいどんな物語がそこにあるのか? そんな楽しみ方ができるアルバムである。

 グラボウスキーは1986年にオーストラリアに戻り、The Paul Grabowsky Trioを結成。ファーストアルバム『Six by Three』(1989)、2nd『When Words Fail』(1996)がARIA Music Awardsを受賞した。彼のピアノトリオ盤は一時ほとんど廃盤になりレア盤として中古市場で高値がついていたが、そんななか2014年に前出『Six by Three』が復刻された。

 現在、新品入手可能な彼のピアノトリオ作を選ぶなら本盤のほか、なにより美しさ優先なら比較的わかりやすい『Three』(2000)がいい。名盤『Six by Three』はM-1のみフリー的要素を盛り込んでいるが、M-2以降は本作と並びリリカルでおすすめできる。他の盤も中古が出回っているのでディスクユニオンかアマゾンあたりで検索してみてほしい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Kasper Villaume Trio / 117 Ditmas Avenue

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Kasper Villaume (p)
Jesper Bodilsen (b)
Jeff 'Tain' Watts (ds)

Recorded: June 23, 2004, at Systems Two, NY
Engineer: Michael Marciano (Stunt Records STUCD04122)

ジェフ・ワッツ参加、躍動する4ビートのシャワーを浴びる

 たまには肩の力を抜き、スタンダードなピアノトリオでも聴いてみるか? という人におすすめなのがこれ。デンマーク出身の若手ピアニスト、キャスパー・ヴィヨームの2004年録音盤だ。よく歌い、よく転がるノリのいいピアノと、ぐいぐい聴き手を惹きつける4ビート中心のゴキゲンな選曲。わかりやすく、力強く、理屈抜きに楽しめる1枚である。

 本盤は主役のキャスパーがベーシストのイェスパー・ボディルセンとともにニューヨークへ渡り、売れっ子ドラマーのジェフ・ティン・ワッツとレコーディングした一作だ。エンジニアは名匠マイケル・マルシアーノ。ワッツについては説明するまでもないが、ベースのボディルセンはモルテン・ルンド(ds)と組んだステファノ・ボラーニ・トリオでも知られる北欧を代表する名ベーシストである。

 キャスパーのオリジナル1曲を含むスタンダードなど合計9曲。オープニングを飾るM-1から早くも4ビートの悦楽が全開になる。音は北欧というより完全なアメリカンだ。明るく陽気で開放的なジャズの醍醐味が押し寄せてくる。とても華やいだ雰囲気である。

 ぴったり同じベクトルを向いたノリノリの3人が、躍動する音符を洪水のように浴びせかける。ピアノのキャスパーがいいのは無論だが、サッカーでいえば中盤に位置し、全体のバランスを取りながらトリオに推進力をもたらすボディルセンのベースがすばらしい。ムチのようにしなる弾力があり、よく弾むこと弾むこと。

 それになんといってもやはりワッツだ。ボディルセンと組むこの超強力なリズム隊がキャスパーを煽り、3人のテンションとグルーヴが見る見る天高く舞い上がって行くのがわかる。音のハジけ方がハンパない。

 M-3もオープニング同様、奔流のようにあふれ出る強烈な4ビートである。終盤のリズムが変わった後のピアノソロもガッツがあり秀逸だ。続くM-4の静かなバラードでホッとひと息つくが、それにしてもキャスパーはすばらしく描写力のあるピアノを聴かせる。後半のM-7、M-9も息が止まりそうになるような迫真の4ビートが炸裂し大満足。一気にアルバム1枚を聴かせてしまう。

 主役のキャスパー・ヴィヨームは1974年生まれ。これまでに7枚のリーダー作をリリースしている。ピアノトリオでのプレイも聴かせるが、ここはあえてLars Moller(ts)入りで元気のいいカルテット作品「Outrun」(2000)、「#2」(2003)をおすすめしておこう。

1
Kasper's Web Site: http://villaume.dk/

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Frederic Borey Group / Maria

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Frederic Borey (ts, ss)
Pierre Perchaud (el-g, ac-g)
Clement Landaies (b)
Eric Bedoucha (ds)

Recorded: November 4-5 2005, at Studiolane, FR
Engineer: Bruce Cherbit (FSNT 295)

10月の秋空のように涼やかなコンテンポラリー

 フランス人サックス奏者、フレデリック・ボレイが、2007年にFSNTデビューを飾った3枚目のリーダー作だ。哀愁のあるメロディと10月の秋空のように涼やかな演奏がいい。全員がさらりとクールに決めたコンテンポラリー・ジャズである。

「エネルギッシュに躍動する」とか、「白熱のプレイに手に汗握る」なんて場面はまったく出てこない。全身の力を抜き、力まず淡々としたプレイが展開する。フランス人ではあるが、NYCのコンテンポラリー・シーンの一断面を垣間見せるような演奏だ。

 トリスターノ門下の筆頭格、ウォーン・マーシュをフェイバリット・アーティストに挙げている点からも、主役のボレイがどんなプレイをするかは想像できるだろう。そう、マーク・ターナーっぽいクールな脱力系である。本作は1曲を除きすべてオリジナルの計8曲で構成されているが、楽曲のテイストもプレイとまったく同じ。暑苦しさのない醒めたテイストが心地いい。

 メンバー全員がそんなアルバム・コンセプトを理解し、揃って低い温度感の演奏をする。リズム隊も「ブンブン行きまくる」なんてことは絶対ない。あっさりしたプレイスタイルでサポートしている。ノリノリで聴くジャズも楽しいけれど、ときにはこういうクールな演奏もいいものだ。

 ちなみに彼はFSNTから「The Option」(2012)、「Lines」(2010)などのリーダー作も出しているが、個人的には本盤がいちばん彼らしさが出ているように思う。

 フレデリック・ボレイは1975年生まれ。リック・マーギッツァやジェリー・バーガンジに師事し、ONJ(オーケストラ・ナショナル・ドゥ・ジャズ)、Y'akasaxなどのユニットを経て、2002年から自身のバンドを率いて活動している。リーダー作5枚のほか、これまでにユニット名義の作品を3枚リリースしている。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Emmanuel Vaughan-Lee / Borrowed Time

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Mark Turner (ts)
Dayna Stephens (ts on 5)
Erik Jekabson (tp, flh on 1,3,7,9)
Albert Sanz (p, el-p)
Emmanuel Vaughan-Lee (b)
Ferenc Nemeth (ds)

Rec. May 26 & 28, 2004, at Bay Records, CA
Engineer: Justin Morell (FSNT 209)

現代的な「先っぽ感」と美メロが絶妙にバランスした秀作

 こんなお宝が埋もれているからFSNTは侮れない。アメリカ人若手ベーシストのエマニュエル・ヴォーン・リーが公式デビューした隠れ名品だ。この人はけっこうなメロディ・メイカーで耳に留まるテーマがそこかしこに。捨て曲はただの1曲もなし。ミディアム・テンポの気だるい佳曲がずらり並んでいる。

 渋い作風なのでパッと聴きでは通り過ぎてしまいそうになるが、聴いてるうちにあちこちに潜む絶妙の仕掛け(アレンジ)に気づきハマって行く。何度聴いても飽きないどころか、加速度的にスルメ度が進行する秀作である。

 メンバー的には、マーク・ターナー (ts) とアルバート・サンス (p) のおいしいところがたっぷり出ている。もう煮汁うまうま、みたいな感じだ。ターナーは浮遊感たっぷりに脱力してゆらゆら漂う。かたやサンスは、モノクロームな美的フレージングが自己ベストに近いレベルで仕上がっている。

 オリジナル5曲にメンバーが3曲を持ち寄った。ほかにスティングの名曲 「La Belle Dame Sans Regrets」 も含む計10曲だ。まず冒頭を飾るM-1は、ひときわ現代的なトンガリ感を放つ。7拍子でアップテンポに叩くフェレンク・ネメスのドラムスだけがぽっかり浮いたように聴こえる不思議な世界が広がる。

 かと思えば次曲以降はがらりとムードが一転し、穏やかな美メロの嵐が押し寄せる。ただし手垢のついたベタな美しさでなく、どこかクールに突き放したような都会的で醒めた衣装をまとっているのがミソだ。

 ピアノのきれいなイントロで始まる楚々としたバラードのM-2は、次に入ってくるテナーのフレーズとたおやかなタイム感がなんともいえない。M-4は妖しくダークに泳ぐマーク・ターナーの魅力が満点。続くサンズのピアノ・ソロも行きそうで行かない焦らし方がたまらない。

 一方、不安を煽るM-5のイントロは巧妙に絡まる2本のテナーとピアノ、ドラムスの噛み合わせが緻密にアレンジされている。空間を生かした音数の少ないピアノ・ソロも秀逸だ。中盤のM-6では、本作を象徴するかのような翳りと愁いに満ちたスティング作の壮麗なバラードに圧倒される。ピアノ・トリオによるシンプルな構成もすばらしい。

 全体にうまいアレンジが光るが、かといって個々人のイマジネーションやインプロ度も決して低くない。相反するふたつのエッセンスがきわどくバランスした良盤だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Mike Baggetta Quartet / Small Spaces

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Mike Baggetta (g)
Jason Rigby (ts)
Eivind Opsvik (b)
RJ Miller (ds)

Rec. April 14, 2008, at Accoustic Recording, NY
Engineer: Michael Brorby (FSNT 339)

セルフプロデュースの功と罪

 現代NYジャズの 「ある一面」 を切り取って見せたような音である。ニューヨークを拠点に活動するギタリスト、マイク・バジェッタのサード・アルバムだ。1曲を除きすべてオリジナル、かつセルフプロデュース。彼としてはFSNTレーベルからのデビュー作に当たる。

 本作は 「ガメラ対ギャオス」 の劇中曲みたいなオドロオドロしいM-1さえなかったら、アルバムの印象がガラリと変わっていただろう。なぜならM-2以降は、ふつうにデキのいいコンテンポラリー・ジャズだからだ。

 とすれば取っ付きにくい悪趣味なM-1をボツにし、キャッチーで美しいメロディのM-7あたりを1曲目にもってくれば、それなりに売れる作品になっていただろう。だが本人がやりたい音楽はまさにそのM-1なんだろうから、仕方がないといえば仕方ない。

 さて、ここでふたつの論点が浮かび上がる。どちらも音楽 (というか芸術) の世界ではおなじみの永遠のテーマである。

 ひとつはレーベル・サイドの問題だ。M-1をボツにすれば売れる可能性は高くなる。ならばなぜ彼らは楽曲構成に介入し、そうさせないのか? というポイントが一点目。ここでは本作がセルフプロデュースであることの功罪が浮かび上がる。

 そしてもうひとつはプレイヤー本人のスタンスの問題だ。M-1をボツにし、M-7的な方向性で行けばそれなりのセールスを上げて音楽家としてのし上がれるかもしれない。なのに、なぜ彼はそうしないのか? というお題である。

 まず前者のレーベルの問題については、新人を発掘するレーベルであるFSNTの性質上、ミュージシャン自身が目指す方向性をねじ曲げるような介入をする、というのは会社の方針としてありえないのかもしれない。もしそれをやると、新しい音楽を掘り起こすというこのレーベル自身の存在意義がなくなってしまう。とすればやりたいことができる同レーベルは、ミュージシャンにとっては本望この上ない。

 だが同時にその種の介入をしなかったために、当然、レーベル側としてはビジネス的な成功を得られない (CDが売れず収益を上げられない) というリスクを抱える。

 また介入しなかったせいで、そのミュージシャンは食えない無名の存在として皿洗いかなんかしながら業界に居続けるか、はたまた音楽をやめて田舎に帰るかせざるをえなくなる可能性が高まる、という点においては、レーベルが作品を 「校閲する編集者的」 な介入をしないのは幸か不幸かわからなくなる。

 では一方、後者についてはどうか? こっちは本人の自己決定の問題である。

「俺はこういう音楽がやりたいんだ」 と、このM-1をまさに最も目立つM-1の位置に配置し、そのことによって自分は売れることなくアルバイトしながら四畳半ひと間風呂なしのアパートに住み続けるのが俺の生き方なんだ、ということであればもちろんそれはそれでありえる話だ。

 なぜならそうすることでほかならぬM-1が仮にヒットすれば、本人にとっては自分がいちばんやりたいことをやりながら何不自由なく食える状態になる、という芸術家にとっての理想を実現できる可能性が生まれるから。だがこの場合、自己責任として、一生、皿洗いを続けることになるリスクも当然発生する。

 一方、逆に自分のやりたいM-1を自分の手でボツにし、売れそうなM-7を自分の手でアルバム冒頭にもってくる、という自主規制も無論ありえる。この選択をした場合、「俺は本当はM-1をやりたかったのに」 という内なる自己矛盾に煩悶しながら、だがしかしウマウマと売れセンに乗っかり金と名声を手に入れて贅沢三昧の人生を送ることができるかもしれない。すなわち彼は志より、金銭的な成功を取ったわけだ。

 はてさて、ではレーベル側は果たしてミュージシャンに介入するのが正解なのか? またミュージシャン本人は、自分の手でM-1をボツにするのが生き方として正しいのか?

 あなたならどう思いますか?

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Bill Gerhardt & Cotangent / Stained Glass

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Bill Gerhardt (p)
Marc Mommaas (ts)
Mike Holstein (b)
Tim Horner (ds)

Ron Horton (tp, fl)
Mark Reboul (waterphone)

Rec. October 2005, NY
Engineer: Michael Marciano (SteepleChase SCCD 31629)

マーク・モマース(ts)参加、精巧なキメが連続するNYコンテンポラリー

 複雑なメロディのキメがそこかしこに散らばる。NYコンテンポラリーならではのクールな音だが、決して無機的ではない。もちろんコテコテの黒っぽい熱さなどとはまるで無縁。きわめて現代的でちょっと哲学チックな作品だが、なぜか構えず楽しめる。ニューヨークを拠点に活動するピアニスト、Bill Gerhardtのセカンド・リーダー作である。

 メンバーはBillのカルテット「Cotangent」のメンバーであるマーク・モマース(ts)、マイク・ホルスタイン(b)、ティム・ホーナー(ds)のほか、ゲストにロン・ホートン(tp, fl)の顔も見える。ホートンはBillの3作目「Thrive」にもゲスト参加している。やり慣れたメンバーだ。

 オリジナル4曲のほか、メンバーが持ち寄った3曲の合計7曲。ピアニストが主役なのに、売れる美メロを駆使するわけでもない。いやむしろキャッチーなメロディなんてどこにも出てこない。徹底して甘さを排除した硬派な作品だ。

 この作風は、当ブログで過去に紹介したドラマーのトニー・モレノによるピアノトリオ作「Trio Music」に近い。この盤にもBillとマイク・ホルスタイン(b)が参加しているが、Billはアレンジもやるので似ていて当然だろう。

 全編にピリピリした緊張感が漂うが、なぜか不思議とリラックスできる。マーク・モマースの決して熱くならない醒めたテナーがバンドの演奏を沈静化させ、アルバム全体のカラーを支配しているからだ。

 全体にかなり凝ったアレンジが施されており、テクニカルなキメも続出する。ゆえに全員が丁々発止で自由にワザを披露し合うような展開ではない。むしろ逆にバンド全体のアンサンブルでかっちり聴かせるタイプのジャズだ。その意味ではNYコンテンポラリーの「ある断面」を切り取ったような作品といえる。

 Bill Gerhardtは、1962年ミズーリ州生まれ。89年にアムステルダムへ移り、ヨーロッパのほかアジア・アフリカでも活動していた。99年からはニューヨークへ拠点を移し、テナー奏者のマーク・モマースや本作のベーシスト、マイク・ホルスタインらとともに、自身のカルテット 「Cotangent」 を率いてリーダー作を3枚、ソロピアノ作を2枚発表している。

【関連記事】

『Tony Moreno / Trio Music』

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Gary Versace / Outside In

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Gary Versace (org)
Donny McCaslin (ts, ss)
Adam Rogers (g)
Clarence Penn (ds)

Rec. April 11, 2007, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Max Bolleman (Criss Cross 1298)

世紀末っぽい陰鬱な現代オルガンジャズ

 この盤はディスクユニオンにずっと中古があったので気になっていたのだが、試聴してみたら暗い印象だったのでなんとなく手が伸びなかった。今や売れっ子のオルガン奏者、ゲイリー・ヴァセイシが2008年にCriss Crossデビューを飾った最新リーダー作である。

 さわりだけ聴いてわかる通り、旧来の熱血コテコテ系オルガン・ジャズとは対極にある現代的な演奏だ。クールでダークで重苦しい。まあヴァセイシは変人アルト奏者のローレン・スティルマンとプロジェクトを組んでいるくらいだから推して知るべしだが。

 彼は1968年4月、コネチカット生まれ。2002年にニューヨークへ進出した。デビュー作は「Winter Sonata」 (2004)だ。以後、Steeple Chaseレーベルから「Time and Again」 (2005)、「Many Places」 (2006)、「Reminiscence」 (2007)の3枚をリリースしている。

 さて本作のメンバーはご覧の通り、えらく豪華だ。サックスにドニー・マッカスリン、ギターはアダム・ロジャース、ドラムはクラレンス・ペンという人気者ばかり。クレジットを見ただけで思わず買ってしまいそうな企画である。

 全8曲、ヴァセイシによるオリジナル。アルバムを通し、いかにも世紀末っぽい陰鬱なムードが匂う。この暗さにハマれるかどうかで作品の評価が分かれるだろう。モーダルでいま風の漂うようなノリがまさにNYコンテンポラリー真っ只中、という感じだ。

 その背骨になっているのは、厭世観を漂わせるヴァセイシのコンポジションとオルガンである。M-3のようにブルースっぽい明るい曲もあるが、やはり圧倒的にネガティヴ系のダークなトーンが全体を支配している。

 個人的にはお気に入りのロジャースとペンが心なしか控えめな演奏なのがやや物足りないが、さすがはロジャース。決めるところはバッチリ決めてくれる。M-4のソロの導入部あたりはかなりゾクゾクきた。ペンもアルバム途中から尻上りに熱を帯びて行く感じだ。

 久しぶりにこのテの屈折系ジャズを聴いたが、しっくりくるまで少し時間がかかった。「どう作れば売れるのか?」などとセールスを考えず、こういうわかる人にしかわからない作品を掲げてやっていこうというのだから、ヴァセイシはある意味すごい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

George Garzone & Jacek Kochan Trio / Filing The Profile

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George Garzone (ts)
Jacek Kochan (ds)
Dominik Wania (p)
Andrzej Swies (b)

Rec. Jnne 6, 2008, at Studio Radio Gdansk, Poland
Engineer: Jacek Puchalski (Intchr 71304)

重く疾走するリズムセクションにガゾーンが咆哮する

 かっこいいテーマに乗ったスピード感のある現代ジャズだ。ダークなメロディと重みのある疾走感がガツンと脳天を直撃する。テナー奏者ジョージ・ガゾーンと、ドラマーのJacek Kochan率いるポーランド人トリオが放つワンホーン・カルテットの快作である。

 リズムセクションの好サポートを得て、御大ガゾーンがフルスロットルで吠えまくる。絶叫するように力強くブロウするその様はまるで鬼神のようだ。彼は60年間蓄積した人生の薀蓄を本作で出し切ったと言えるだろう。それくらいの快演だ。

 かたやポーランド人トリオに目を移せば、ピアノのDominik Waniaが群を抜いている。いかにも東欧的な翳りと愁いのあるフレージングがすばらしい。緊張感ビンビンのプレイスタンスやグルーヴ感にも痺れる。彼の演奏がもっと聴きたくなり作品を探したが、リーダー作はちょっとひねりすぎでピンとこなかった。もっとストレートに真っ向勝負してほしい逸材だ。

 一方、Jacek Kochanはかなり重いドラムを叩く。ほとんど「重たい」へ行ってしまう寸前でかろうじて食い止まっているかのようなノリだ。個性的でいいドラマーだが、あえて辛めに採点すればどの曲でも同じように重いスタイルなのでやや一本調子になりがちかも。相方のベーシスト、Andrzej Swiesは彼より軽やかによく弾み、気持ちよく躍動するいいベースだ。

 全8曲すべてドラマーのKochanによるオリジナル。プロデュースも彼が務めた。通して聴くと似たような楽曲が並んでおり変化には乏しいが、そのぶんアルバムとしての統一感はある。どの曲もスタイリッシュで粒ぞろいだ。ただし曲調が東欧ならではの重苦しさと裏腹なので人によっては少し聴き疲れするかもしれない。

 本作はぱっと見では颯爽とした「アメリカ人の音楽」のように聴こえるが、根っ子には東ヨーロッパ的な歴史を背負った沈鬱さがある。アメリカ人みたいに能天気なハジけ方じゃない。陰にこもった部分をどこかに抱えて心の底から笑えない――そんな東欧的なメンタリティが透けて見える。音楽とは、人のお国柄をはっきり映し出すリトマス試験紙みたいなものである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Tony Moreno / Trio Music

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Tony Moreno (ds)
Bill Gerhardt (p)
Mike Holstein (b)

Rec. Jun & July, 2006, at Bond Street Studio, NY
Engineer: Tom Hamilton (Art of Life Records AL1028-2)

聴き手を絶対にリラックスさせない硬派なピアノトリオ

 大仰な美メロをいっさい使わない硬派のピアノトリオである。どこまで行ってもあきれるぐらいキャッチーなメロディが出てこない。世のピアノトリオが売りにしたがる甘く美しい旋律を徹底的に排除している。ピリリと辛い山葵なジャズ。ニューヨークで活動する個性派ドラマー、トニー・モレノの初リーダー作だ。

 真冬の渓流のように冷たい無機的なテイストだが、決して味気ない音ではない。ピンと張り詰めた緊張感があり、テンションの高い演奏だ。聴き手を絶対にリラックスさせないような、緩みのないアンサンブルが最終曲まで続く。

 主役を張るピアニストは、Bill Gerhardtである。1962年ミズーリ州生まれ。89年にアムステルダムへ移り、ヨーロッパのほかアジア・アフリカでも活動した。99年からはニューヨークへ拠点を移し、テナー奏者のマーク・モマースや本作のベーシストMike Holsteinらとともに、自身のカルテット 「Cotangent」 を率いてリーダー作を発表している。

 本盤はモレノ自身のオリジナル5曲のほか、メンバーのGerhardtが3曲、Holsteinが2曲の合計10曲を持ち寄った。全編インプロヴィゼーションのように聴こえるが、よく観察するとリズム隊の演奏がピアノの細かな抑揚にぴったり合っている。実は緻密にアレンジしているのでは? とも思わせる。

 ピアノの跳ね上がりや沈み込みにドラムとベースがスキ間なく寄り添い、3者がスリリングなアップダウンを繰り返す。どこまでが譜面で、どこからがインプロなのかまるでわからない。アドリヴでこの演奏をしているならすごい。

 トニー・モレノはフロアタムを多用し、ドコドコドコッという高速連打系のオカズをよく使う。重くゆったりタメを利かせて、みたいなタイプとは対照的だ。せわしなくリズミカルな演奏をする。ズン、ズンと横に揺れるのでなく、落ち着きなくぴょぴょんタテに跳ねるような独特のグルーヴを持っている。

 特に好きなタイプではないが、この個性はとにかく強烈だ。なんせ彼と似たタイプのドラマーなんて、まったく思いつかないのだから。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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