Alex Sipiagin / Balance 38-58

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Alex Sipiagin (tp, flh)
David Binney (as, ss)
Adam Rogers (g)
John Escreet (p)
Matt Brewer (ac-b, el-b)
Eric Harland (ds)

Recorded: October 6, 2014 at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1378)

男臭さムンムン、新境地を開拓した最新作

 エレクトリック・ベースがメカニカルなフレーズを刻むナンバーで幕が開く。男臭さがムンムンする苦み走ったテイストだ。アダム・ロジャースのかっこいいギターが空間を切り裂く。ロック的な要素を取り入れるなど新境地を開拓したトランペット奏者、アレックス・シピアギンが放つ最新作である。

 メンバーはデビッド・ビニー(as)やアダム・ロジャース(g)、ジョン・エスクリート(p)など、クリスクロス・レーベルではお馴染みのメンバーが揃った。リズムセクションはマット・ブリューワー(b)とエリック・ハーランド(ds)が務める。

 シピアギンのオリジナル5曲にビニーが2曲を持ち寄り、合計7曲。アダム・ロジャースが必殺のソロを決めるM-1や、ふんわりゆらめく魅惑のバラードM-2、畳みかけるようなキメと緩急を使い分けた変化に富むM-3あたりが楽しめた。また全体にダークな色彩が濃いのはいつも通りだが、今回は数曲でエレクトリック・ベースを採用するなど新味を出そうと工夫している。ロックっぽいナンバーM-7の導入もそのひとつだ。

 そんな最近のシピアギンを聴いて思うのは、放っておいても自然にほとばしり出てくる楽想を書き留めて曲にしたというよりも、後天的に身に付けた曲作りのノウハウをマニュアル的に駆使してアルバム作りをしているな、ということだ。

 もちろんそれが悪いわけではなく、プロとはある意味そういうものだ。狙って新しい要素を取り入れながら意図的に目先を変え、リスナーに飽きられることなく 「業」 を営む。それがプロである。

 とはいえそれが高じると、小手先の工夫に囚われすぎ 「仏作って魂入れず」 になってしまうことがある。例えば本作でいえばアレンジしすぎて冗長になったM-4の終盤や、ビニーが作曲したリフを繰り返すだけの単調なロック・ナンバーM-7あたりだろう。

「ロックの分野ならもっと面白い曲がいくらでもたくさんある」、「これを聴くなら本物のロックのほうを聴く」 と私なら思ってしまうので、このM-7にはあんまり乗れない。それより70年代のリトルフィートやジェシ・エド・デイヴィスを1日ぼんやり聴いていたほうがよほど楽しい。もちろん個人的な意見だ。

 そんなわけでシピアギンがプロのノウハウを駆使して作った最新作。プロらしくきっちり一定水準はクリアしており、全体をならしてみれば充分に楽しめる。私みたいに余計なことを考えないほうが、世の中は楽しいのかもしれない。

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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Alex Sipiagin / From Reality & Back

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Alex Sipiagin (tp)
Seamus Blake (ts)
Gonzalo Rubalcaba (p, el-p)
Dave Holland (b)
Antonio Sanchez (ds, Per)

Rec. February, 2013, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Mike Marciano (5Passion 040232013645)

プロの職人が作った秀作でも凡作でもない 「ふつうの作品」

 ひとことで言って単調なアルバムだ。同じようなテンポ、同じようなノリ、同じようなメロディーの楽曲が続き、全体がなんとなく終わってしまう。1曲だけ聴けば 「すごくいい」 と感じるが、アルバムを通して聴くと1曲1曲に思わず目を見開かされるようなサムシングがない。といってデキが悪いわけでもなく、さりとて特段優れているわけでもない。いわばプロの職人がノウハウを駆使し、表面的に拍子を変えながら平均点を目ざして作った 「ふつうの作品」 といった印象である。

 主役のアレックス・シピアギン (tp) が、この最新作でそろえたメンバーは豪華そのものだ。ベースにはあのデイヴ・ホランドを招き、シーマス・プレイク (ts)、ゴンサロ・ルバルカバ (p, el-p)、アントニオ・サンチェス (ds, Per) らスターが勢揃いした。加えてエンジニアは名手、マイケル・マルシアーノという必勝パターンである。

 だが満を持して起用したはずの巨匠ホランドが (もちろん狙ってやっているのだろうが) 同じフレーズの繰り返しばかりで曲を組み立てており、楽曲をすっかり単調なものにしてしまっている。

 ベースのリフは耳につくためインパクトが強い。うまく使えば曲にトンガった味付けができる。だが本作のようにアルバム全編似たようなリフだらけでは、かえって逆効果だ。作品の個性が死に、アルバム全体がのっぺり無表情になってしまう。

 そのため冒頭のテーマが終わり、ソロ・パートに入るともうどれも同じ曲に聴こえる。バラードと、そうでないものくらいの区別しかつかない。いや別にメロディがキャッチーかどうか? みたいな次元の話じゃなく、本当に曲の識別がむずかしい。

 反対にリフを使わず、漂うような気だるいムードのM-3やM-7は、トランペッターのジェレミー・ペルトが最近やっていたような60年代マイルス風で非常にいい。ところがM-1やM-4、M-5、M-6のようにベースの繰り返しでしつこく展開するとたちまち同じような感じになり、楽曲が色あせてしまう。

 もちろんホランドのせいばかりじゃない。コンポジション的にも同じことがいえる。曲に統一感があるといえば聴こえはいいが、裏を返せば変化に乏しい。拍子は違っていてもテイストが同じだ。コンポーザーとしてはシピアギンは、飛び抜けているわけではないがコンスタントに水準点のものを作れる職人ゲイリー・バートンに近いものを感じる。

 さて楽曲のほうはこんなふうだ。では大物プレイヤーたちの個人技はどうだろうか?

 出番たっぷりの主役シピアギンはさて置くとしても、相方のシーマス・プレイクには驚くほど存在感がない。またホランドは前述の通りだ。M-2の唸るようなベースラインは魅力的だが、M-5とM-8のベース・ソロはどうもパッとしない。かたやアントニオ・サンチェスはずっしり重いリズムキープに加え、M-1とM-4終盤ではソロ的な白熱の技巧派プレイを見せている。だがコンポジション的にはドラマーがあの 「アントニオ・サンチェス」 である必然性は特別感じられない。

 そんななか、気を吐いているのはルバルカバだ。M-2とM-3、M-4、M-5、M-8で聴ける彼のピアノ・ソロには本当にぞくぞくさせられる。取ってつけたようなラテン風味などカケラもないモーダルな演奏だ。それだけでなくバッキング時のコードワークもすばらしい。本作で初めて彼のプレイを聴き、今後ルバルカバのフォロワーになるジャズ・ファンも多いのではないだろうか?

 とはいえ繰り返しになるが、本作は決して悪いデキではない。飛び切り多作なシピアギン作品の中では 「ワン・オブ・ゼム」 であるだけだ。

 たとえば前々回リリースした傑作 「Overlooking Moments」 (2013年、レヴュー記事はこちら) のようにピンと張り詰めた緊張感があるわけではない。また秀作 「Generations - Dedicated to Woody Shaw」 (2010) ほど耳に残る際立った個性もない。粗製濫造とまではいかないが、鳥肌が立つような突き抜けた感じが伝わってこない。いってみれば高性能でよく走るエンジンだけど、「走ることの味わい」 がない、みたいな感じだ。

 シピアギンはアルバムをリリースするサイクルがちょっと短すぎるのではないか。 「どうだい? アレックス。少し時間を置き、アイデアを寝かせてから作品を発表しては?」 などと彼に言うのは失礼に当たるだろうか。

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ジャンル : 音楽

Alex Sipiagin / Live at Smalls

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Alex Sipiagin (tp)
Seamus Blake (ts)
Divid Kikoski (p)
Boris Kozlov (b)
Nate Smith (ds)

Rec. June 25-26, 2012, at Smalls Jazz Club, NY
Engineer: Tyler McDiarmid (Off Minor OFM-039)

シンプルにぐいぐい押しまくるライヴの醍醐味

 最新スタジオ盤 「Overlooking Moments」 (2013年、レヴュー記事はこちら) では、ピンと張りつめた緊張感でヒリヒリするナーバスなジャズをやっていたアレックス・シピアギン。だが出たばかりの本盤では打って変わって熱くエキサイティングなライヴを聴かせている。同じ Smalls Live から同時リリースされたウィル・ヴィンソンのクールなライヴと好対照だ。

 メンバーは主役のシピアギン (tp) にシェイマス・ブレイク (ts) の2管+デヴィッド・キコスキー (p)。リズム隊はボリス・コズロフ (b) とネイト・スミス (ds) だ。

 全5曲、すべてオリジナル。のっけからラテン調のフュージョンぽいカッ飛んだ曲で幕が開く。M-2もラテン系でめっぽうノリがいい。ぐいぐい力で押しまくるステージ構成である。

 個々のメンバーを見ると、まずキコスキーがバッキングに、ソロにと、八面六臂の活躍を見せている。地味な印象のある彼だが本作では非常にいい演奏をしており、完全に認識を改めた。またクールなイメージのシェイマス・ブレイクもここではけっこう熱い演奏を繰り広げている。

 一方、ドラマーのスミスは黒人ドラマーの典型で、ズンズン押しまくる攻撃的なタイプだ。彼がバンド全体のイニシアチブを握り、流れの中でノリを決めている。山場でスミスがドカドカ行けば全員がいっせいに反応し、彼がぐっと抑えるとバンド全体がひたひたと静かに沈み込んで行く。ベースのコズロフとのコンビネーションもよく、非常に躍動感のあるリズム隊である。

 本作はだれもが親しみやすく楽しめる、聴き手を選ばない構成だ。だがそのぶん前作のようなユニークな強い個性は感じられず、この作品がシピアギンである必然性はうすい。ノリはいいけれどひねりがなくストレートで単調だ。前作で見せた醒め切っていながら異様に緊張感の高いスリリングな世界はシピアギンにしか構築できないだけに、あれをライヴでどう見せるか? もぜひ聴いてみたかった。

 この演奏を生で聴いた観客は確かに乗ると思うが、CDになった盤を自宅で冷静に聴いてしまうと単調さが耳につく。とはいえストレートにぐいぐい押して目の前のお客さんを楽しませるためのライヴなんだから、「これはこれ」 だろうか。悪く言えば、よくある凡百の楽しいライヴである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Alex Sipiagin / Overlooking Moments

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Alex Sipiagin (tp,flh)
Chris Potter (ts, ss)
Scott Colley (b)
Eric Harland (ds)

Rec. October 15, 2012, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1354)

クリポタ、ハーランドら豪華メンツが放つ緊張感が凄い

「圧倒的」 としか言いようのない作品だ。ヒリヒリするような極度に緊張感の高い演奏が続く。それがアルバム1枚通してだから思わず息が詰まりそうになる(もちろんいい意味で)。トランペット奏者、アレックス・シピアギンがリリースしたばかりの最新作、クリスクロス10作目になるリーダー作だ。

 メンバーは売れっ子クリス・ポッター(ts, ss) に、リズム隊がこれまた人気者のスコット・コリー (b) とエリック・ハーランド (ds) の最強布陣。オリジナル4曲にメンバーが持ち寄った3曲、奥さんであるMonday満ちるの作品1曲の合計8曲だ。

 興味深い点は、これだけのメンバーがハイテンションな演奏を繰り広げているにもかかわらず、演奏がわかりやすく躍動してないところだ。「止まっている」 かのような不思議なノリ、とでもいえばいいだろうか。楽曲そのものは静かなわけでもないのだが、演奏が明るくノーテンキに跳ねたり弾んだりしていない。ひたひたと深く静かに哲学的な思考をするかのようだ。

 ハーランドなどは常にブチ切れて行きまくるイメージがあるが、本作ではエネルギーを内に秘めながらも微妙に抑えて叩いているかのような、「寸止めの美学」 とでもいうような凄まじい悟りの境地に達している。

 プルージーで明るいM-4でホッとひと息つくが、M-5からはまたすごい緊張感に支配される。特に終盤のM-7が放つ、静的でありながら壮絶なテンションには本当に息が止まりそうになった。

 ピアノ・ギターレスでコード楽器がないのも理由だろうが、「緩み」 とか 「なごみ」 みたいなものとはまったく縁がない。このテの演奏が好みでない人には聴き疲れするかもしれないが、私はすごく楽しめた。

 前作の 「Destinations Unknown」 (2011) も本作同様、神経質でやや聴き疲れする内容だったが、アレンジがよりシンプルになり、前作の路線を継承しながらいい形で昇華した。シピアギンの作品としては、2作前の 「Generations - Dedicated to Woody Shaw」 (2010) 以来の傑作としておきたい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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