Will Vinson / Live at Smalls

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Will Vinson (as)
Lage Lund (g)
Aaron Parks (p)
Matt Brewer (b)
Marcus Gilmore (ds)

Rec. December 4-5, 2012, at Smalls Jazz Club, NY
Engineer: Jimmy Katz (Off Minor OFM-041)

NYコンテンポラリー最前線、クールに醒めた緊張感の高いライヴ

 決して熱く躍動しない。あくまでクールに醒めているところがかっこいい。いかにもNYコンテンポラリー最先端の音だ。自身の最新スタジオ盤 「Stockholm Syndrome」 (2010年、レヴュー記事はこちら) の世界を緻密にステージで再現したようなアルト奏者、ウィル・ヴィンソンの最新ライヴ盤である。

 音の温度感は寒色系でひんやり冷たい。わかりやすくどかどかハジけまくるのでなく、ノリのいい楽曲をやっていながらどこか冷徹さを忘れない。深く思索するような緊張感の高い演奏である。ちょうどラーゲ・ルンドの最新作 「Foolhardy」 (2013年、レヴュー記事はこちら) と目ざすゴールが近い。

 メンバーは絢爛豪華だ。前作 「Stockholm Syndrome」 でもコンビを組んだラーゲ・ルンド (g) とアーロン・パークス (p)。リズム隊はマット・ブリューワー (b) にマーカス・ギルモア (ds)。まさにニューヨーク・オールスターズである。

 オリジナル4曲に、ラーゲ・ルンドのアルバム 「Unlikely Stories」 (2010) 収録の 「Swagger」、ベニー・ゴルソン 「Stablemates」、デューク・エリントン 「Morning Glory」 の合計7曲。アルバムはフュージョン・ライクで清涼感のあるM-1で幕を開ける。いきなりエレクトリック・ベースだ。ブリューワーとギルモアの煽り合いがすさまじく、パークスもクールな彼にしては高揚感のあるいいソロを聴かせている。

 一方、M-3はギルモアの渋いドラムソロで始まる。テーマのあと、ヴィンソンのソロは例によって呆けたように醒めて漂う。続くルンドのソロも徹底的に甘さを排除している。打って変わって暖かみのある既成曲M-4でほっとひと息、続いて 「Stockholm Syndrome」 収録のM-5へ。次のM-6でまた既成曲をはさみ、ヴィンソンのセカンド・アルバム 「Promises」 (2008) に入っていた 「Albemarle」 で幕を閉じる。

 それにしてもヴィンソンとパークス、ルンドは非常に相性がいい。リズム隊の作る土台の上で彼ら3人がワンユニットになり、音の温度感や方向性を決定づけている。特にパークスとルンドが2人1組で展開するバッキングがすばらしい。ギルモアが繰り出す細かい刻みもヴィンソンの音楽性にぴったりマッチしている。

 このテのジャズは聴く人を選ぶが、好きな人ならたまらなく好きなワン&オンリーの個性がある。ヴィンソンは傑作 「Stockholm Syndrome」 で確立した世界をすっかりものにしたようだ。
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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Will Vinson / Stockholm Syndrome

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Will Vinson (as,ss)
Lage Lund (g)
Aaron Parks (p)
Orlando LeFleming (b)
Kendrick Scott (ds)

Rec. June 2, 2010, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1330)

豪華メンバーが揃ったコンテンポラリージャズの傑作

「コンテンポラリーなジャズってどんな感じ?」と聞かれたら、黙ってこのアルバムを差し出せばいい。熱くならずに感情を抑制し、眉ひとつ動かさず人を斬るクールな演奏。コンテンポラリージャズの見本のような傑作である。イギリス人アルト奏者、ウィル・ヴィンソンの4枚目に当たる2010年の最新アルバムだ。

 ラーゲ・ルンド(g)にアーロン・パークス(p)、オルランド・レフレミング(b)、ケンドリック・スコット(ds)という今を時めく豪華メンバーが揃っただけでもすごい。そんな彼らが喜怒哀楽をいっさい出さず、ただひたすら淡々と無機的に演奏するさまは壮観である。メカニカルな機能美を極めた今どきのジャズならではだ。

 アルバム全体が冷たい寒色系のベールに覆われ、人間の焦燥感をかき立てるようなナーバスな音使いの演奏が続く。まるで「現代人が抱える漠然とした不安」をテーマにした演劇を見ているかのようだ。アルバムタイトルの「ストックホルム・シンドローム」とは、被害者であるはずの人質が犯人に抱く不条理な連帯感や好意の心理を指す精神医学用語だが、ひょっとしたらヴィンソンは心理学に興味があるのかもしれない。

 ロンドン生まれのヴィンソンは、1999年にニューヨークへ移り住んだ。2004年に初リーダー作 「It's For You」 をリリースし、セカンドアルバム 「Promises」 (2008)、ライブ盤 「The World (Through My Shoes) 」 (2010) と順調にキャリアを積み上げている。

 デビュー作は未聴だが、ライブの 「The World」 はおすすめだ。ドラムスにヨッケン・リュッカートを起用し、パークスが抜けた以外は本作と同じメンバーである。ライブ盤らしい温度感の高い演奏が繰り広げられる。一方、セカンドの 「Promises」 はドラマーのロドニー・グリーン、アリ・ホーニグ以外すべて本作のメンバーだ。こちらはややキャッチーでフュージョンライクだが、技達者なメンバーのテクニカルな演奏が堪能できる。

パークスとルンドのコンビネーションが核だ

 本作はヴィンソンのオリジナルが4曲、ルンドの曲が1曲、その他4曲の合計9曲。暖かみがありリラックスできるスタンダードのM-7 「Everything I Love」とビル・エヴァンスのM-9 「Show Type Tune」は、寒色系で緊張感が高く4ビートじゃないオリジナル曲とかなり毛並みが違う。だがいい箸休めになり、アルバムを通して違和感なく聴ける。

 全体にかなり緻密にアレンジされた楽曲が多く、その意味ではアーロン・パークスとラーゲ・ルンドのコンビネーションがチームの核だ。パークスのピアノとルンドのギターが殺し合わず、それどころか完璧な相互補完の関係を成立させている。がっちり噛み合った2人のバッキングがセットになり、たがいに楽曲に貢献している。特にパークスはここまで無機的な役柄を演じていながら、かつ、これだけシリアスで玄妙なピアノを弾けるのか、というすばらしい演奏をしている。

 一方、オルランド・レフレミングとケンドリック・スコットのリズム隊も聴き物だ。彼らはちょうどこのアルバムを境にブレイクした印象がある。レフレミングは太くゴリッとした質感のベースで、弾けるような躍動感がある。かたやスコットはハイハットとスネアのコンビネーションが独特だ。ブラインドで聴いてもすぐ彼とわかる強い個性を放っている。タイトで張り詰めたビートを叩き出すいいドラマーである。

 個人的には本盤は、「こんな世界もあるのか!」と最近のジャズにハマるきっかけになった記念碑的なアルバムだ。「エポックメイキングな2000年代の作品を10枚挙げろ」と言われれば、迷わず本作を推すだろう。何かおもしろい盤はない? という人にはぜひ聴いてほしい逸品だ。

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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