【2016 イチ押し新譜ベストテン】 年間ランキング ~こいつは聴き逃すな

【1位】A Lifetime Treasure / Yasushi Nakamura (レビュー記事)

01.jpegストレートに躍動する中村節

Yasushi Nakamura (b)
Lawrence Fields (p)
Clarence Penn (ds)

ベーシックなジャズのよさを見直した年だった

 2016年最大のトピックはジャズ業界においてでなく、自分の中で起こった。それは何気ないベーシックなジャズを聴いて、ふと「いい」と感じるようになったのである。50年代的な王道ジャズはもう聴き飽きていたはずだった。なのに2016年の新譜を探しているとき、明らかに50年代のハードバップに影響を受けた盤を聴き「いい」と感じた。

 それからというもの、やたらそっち系の音が気になるようになってきた。予定調和じゃないNYコンテンポラリー以外はバカにしていたはずなのに、である。その証拠に今回の年間ベストランキングでも、1位、3位、6位にそれぞれオーソドックスな系統がランクインしている。6位のピーター・バーンスタインなんて以前ならスルーしていそうだが、聴けば聴くほど味が出ておいしくてたまらないのだ。

 この変化はいったい何だろう?

 ひとことでいって「年を取った」のだ。例えて言うなら、若いうちはやたらハデな色のトンがった服を着ていたヤツが、年を取ったら急に「なんでもないこと」のよさに目覚めてボタンダウンのシャツを着始めた、みたいなものだろう。と、ポジティブな解釈をしておこう(おい)。

 てなわけで来年から本ブログでは、いかにも2017年代のカッティング・エッジな盤も従来通り紹介するが、加えて2017年の新譜でありながら、ちょっと大人っぽいオーセンティックなアルバムも少しは混じってくるかもしれない。まあそう大きく変わらないとは思うが、その辺りよろしくお願い致します。

【2位】David Gilmore / Energies of Change (レビュー記事)

02.jpegギルモアの自身最高傑作が登場

David Gilmore (g)
Marcus Strickland (ss, as, ts, bcl)
Luis Perdomo (p)
Ben Williams (b)
Antonio Sanchez (ds)
Kofo Wanda (talking ds on 3)

【3位】Jae Sinnett / Zero to 60 (レビュー記事)

03.jpegレアステーキのようなこってり盤

Jae Sinnett (ds)
Ralph Bowen (ts)
Allen Farnham (p)
Hans Glawischnig (b)

【4位】Stephan Plecher Trio feat. Bert Joris / Jungfernballett (レビュー記事)

04.png欧州風味の端麗なピアニズム

Stephan Plecher (p)
Benjamin Zalud (b)
Peter Primus Frosch (ds)
Bert Joris (tp on 1, 3, 4 and 7)

【5位】Aki Rissanen / Amorandom (レビュー記事)

05.jpeg映像的スリルで魅せる音の迷宮

Aki Rissanen (p)
Antti Lötjönen (b)
Teppo Mäkynen (ds)

【6位】Peter Bernstein / Let Loose (レビュー記事)

06.jpegオーセンティックであることの誇り

Peter Bernstein (g)
Gerald Clayton (p)
Doug Weiss (b)
Bill Stewart (ds)

【7位】Joonas Haavisto Trio / Oku (レビュー記事)

07.jpeg北欧の湖面が目に浮かぶ繊細さ

Joonas Haavisto (p)
Antti Lotjonen (b)
Joonas Riippa (ds)

【8位】Donald Edwards / Prelude To Real Life (レビュー記事)

08.jpegエッジの利いた現代ジャズ

Donald Edwards (ds)
Walter Smith III (ts)
David Gilmore (g)
Orrin Evans (p)
Luques Curtis (b)

Nicholas Payton (key on M-1, 3, 6)
Vivian Sessoms (vo on M-3, 5, 10)
Antoine Drye (tp on M-12)

【9位】Klemens Marktl Sextet / December (レビュー記事)

09.jpegアレンジ凝りまくりのNYコンテンポラリー

Klemens Marktl (ds)
Seamus Blake (ts, ss)
John Ellis (ts, ss, bcl)
Aaron Goldberg (p)
Joe Locke (vib)
Harish Raghavan (b)

【10位】Florian Hoefner Group / Luminosity (レビュー記事)

10.jpeg渋さを極めたコンポラの秀作

Seamus Blake (ts, ss)
Florian Hoefner (p)
Sam Anning (b)
Peter Kronreif (ds)
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【2015 イチ押し新譜ベストテン】 年間ランキング ~こいつは聴き逃すな

【1位】Jeremy Udden - Nicolas Moreaux / Belleville Project (←クリックするとレヴュー記事へ。以下、同)

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Jeremy Udden (as, pump organ, Prophet 5)
Nicolas Moreaux (b, toy piano)
Robert Stillman (ts, p, pump organ)
Pierre Perchaud (ac-g, el-g, banjo)
RJ Miller (ds)
Pete Rende (CS-60, Prophet 5, pump organ, organ)

ミクスチャー職人が大活躍した2015年

 2015年は、ジャズと他ジャンルをミクスチャーした斬新な作品群が新しいうねりを生み出した年だった。ミュージシャン名を挙げれば、ジェレミー・ユーディーンやクリス・モリッシー、マーク・ジュリアナ、クリス・ライトキャップあたりである。

 彼らの作品にはジャズとポストロック、インディー・フォーク、カントリー、スローコア/サッドコア、エレクトロニカなど種々雑多な音楽が万華鏡のようにブレンドされ、もはや音楽をジャンルで語るのが不毛になった感すらある。

 そこでは歴史的にジャズのトレードマークとされてきたテクニカルなインプロヴィゼーションやインタープレイの意義が薄れ、構成の妙やアンサンブルなど、むしろ楽曲自体の存在価値がみるみる高まってきた。自分のアルバムにスタンダードや往年のジャズメン・オリジナル等を入れず、自身が書き下ろしたオリジナル楽曲で勝負するミュージシャンがふえたのもその流れだろう。

 そんななかにあって、ジェレミー・ユーディーンが今年前半にリリースしたこのアルバム「Belleville Project」は、彼のミクスチャー芸がもはや究極にまで昇華した自身最高傑作といっていい作品である。こけ脅しの奇抜さや大仰さがまるでなく、だれもが楽しめる自然なリラックス感がウリ。手軽にiPodにでも入れ、春になったらオープン・カフェでなごんでくださいな。

【2位】Danny Grissett / The In-Between

2 コンポラ路線に舵を切った野心作

Danny Grissett (p)
Walter Smith lll (ts)
Vicente Archer (b)
Bill Stewart (ds)

【3位】Jesse Van Ruller / Phantom -The Music of Joe Henderson

1 ジョー・ヘンダーソンへ捧げるオマージュ

Jesse Van Ruller (g)
Clemens Van Der Feen (b)
Joost Van Schaik (ds)

【4位】Matthew Stevens / Woodwork

4 若手ギタリスト待望のデビュー作

Matthew Stevens (g)
Gerald Clayton (p)
Vicente Archer (b)
Eric Doob (ds)
Paulo Stagnaro (per)

【5位】Dayna Stephens / Reminiscent

5 漂流感のあるグルーヴが心地いい

Dayna Stephens (ts, ss, bs)
Walter Smith III (ts)
Aaron Parks (p)
Mike Moreno (g)
Harish Raghavan (b)
Rodney Green (ds)

【6位】Alex Norris / Extension Deadline

6 現代オルガン・ジャズの威力

Alex Norris (tp, fl)
Gary Thomas (ts)
George Colligan (org)
Rudy Royston (ds)

【7位】Rotem Sivan Trio / A New Dance

7 ささやくようにギターを弾くイスラエル人

Rotem Sivan (g)
Haggai Cohen-Milo (b)
Colin Stranahan (ds)

【8位】Chris Carroll / Current Shifts

8 怪人レズ・アバシ参加の快作コンポラ

Chris Carroll (ds)
Rez Abbasi (g)
Apostolos Sideris (b)
Roman Filiu O Reilly (as, ss on 4, 5, 6)
Alejandro Aviles (as on 2, 3, 7)
Milton Barreto (ts on 2, 3, 7)

【9位】Mark Guiliana Jazz Quartet / Family First

9 ミクスチャー系ジャズの華

Mark Guiliana (ds)
Chris Morrissey (b)
Shai Maestro (p)
Jason Rigby (ts)

【10位】Chris Lightcap's Bigmouth / Epicenter

10 才人ライトキャップの摩訶不思議な世界

Chris Lightcap (b, ac-g, org)
Craig Taborn (el-p, ac-p, org)
Tony Malaby (ts)
Chris Cheek (ts)
Gerald Cleaver (ds, per)

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2度めの「モテ期」を謳歌するビル・スチュワート

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*ダニー・グリセット(p)の新譜「The In-Between」

ビルの参加作が立て続けに雨あられのリリース

 このところ、ビル・スチュワート(ds)が参加したニューアルバムを聴く機会が多い。

 レヴューはまだ書いてないが、最近ではダニー・グリセット(p)の新譜とジョン・スコフィールド(g)の新譜を立て続けに聴いた。

 どちらもいい作品だが、特にグリセットのアルバムでは、ビルがまさに水を得た魚のような状態でエネルギッシュに叩きまくっている。ちょうどあのジョンスコのライブ盤「EnRoute」(2004年)や、シェイマス・ブレイク(ts)の名盤「Bellwether」(2009年)で聴かせていた彼のベストプレイといえる客演と同レベルの快演ぶりである。

1
*ジョン・スコフィールド(g)の新譜「Past Present」

90年代から2000年代にかけ一時代を築いた名ドラマー

 ビル・スチュワートといえば、90年代後半から2000年代にかけて一時代を築いた名ドラマーだ。誰かの新譜が出れば、その作品ではたいていビルが叩いているーー。そんな乱れ咲きのような引っ張りだこの有様だった。

 だがその後エリック・ハーランド(ds)が台頭するにつれ、今度は出る新譜、出る新譜、みんなハーランドが参加している「第二のビル」状態になり、相対的にビル・スチュワートの出番が減って行った。いやハーランドのドラミングは確かにすごいが、ノリのよさを前面に出した楽しいプレイではビルもぜんぜん負けていないし、なのにまるで火が消えるかのようにビルの参加作を見かけなくなって行くのが正直さみしかった。

 別にドラミングのスタイルが古くなったとかいうわけでも何でもなく、単にマスコミが人工的に作り出すアイドル・タレントのブームみたいに火がついたり消えたりするのがなんだかとても腹立たしかった。

 だが、ここへ来て冒頭に挙げた2作品での立て続けの爆発である。思わず快哉を叫んだのは言うまでもない。

 そんな感慨に耽りながらこれら2作品を聴くと、本当にビルのワザのパターンのすごい豊富さに改めて驚かされる。ぜひこのペースでガンガン演ってほしいし、ハーランドといい意味で「殴り合いのケンカ」をしながら互いに高みを究めてほしい。

 がんばれ、ビル。

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旅ができるような音が好きだ

JAKOB_BRO
ヤコブ・ブロ「Balladeering」(2009年)


霧が立ち込めてくるような空間系ギタリスト

 いまいちばん我が家のステレオ占有率を高めているのがヤコブ・ブロだ。デンマーク出身の空間系ギタリストである。

 アルバムでいえば、特に「Pearl River」(2007年)、「The Stars are All New Songs Vol.1」(2008年)、「Balladeering」(2009年)あたりの過去作をもっぱらたしなんでいる。ビルフリやクリス・チーク、マーク・ターナーら強豪たちが次々にフィーチャーされたおいしい時期の盤である。

 特によく効くのが早朝だ。

 目が覚めてすぐ、まだ頭がボーッとしているうちに聴くのがいい。するとブロ特有の、リズムレスでほんわか霧が立ち込めてくるような音に包まれ、すっかり気持ちよくなってくる。朝酒と同じだ。

 目を瞑ると、蜃気楼のように北欧の景色がまぶたの裏に降りてくる。スティーヴ・カーディナスと同じく、私は風景が見えてくるギタリストが好きなのだ。

 さてこのヤコブ・ブロ月間が終われば、次はどのギタリストと旅へ行こうか。

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ミクスチャー系ミュージシャンの光と影


※インディー・フォークのIron & Wineのアルバム「Our Endless Numbered Days」(2004年)

トップランナーのジェレミー・ユーディーンはまちがいなく本物だ

 このところジャズの側から、ミクスチャー系のミュージシャンや作品が数多輩出している。

 で、ポストロックやインディー・フォーク、スローコア/サッドコア、エレクトロニカ近辺を聴く際には、自然と特にジャズとのかかわりを注視するようになってきた。

 するとよくわかるのだが、ジャズ側にいるそれ系ミュージシャンの中にはハッキリ本物と偽物がいるということだ。

 本物のトップはジェレミー・ユーディーンだろう。彼の作品は、アルバム「Around the Well」(2009年)があるインディー・フォークのIron & Wineやオーストラリアのスローコア・ユニットDirty Three、またポストロックの走りであるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響が濃いMazzy StarやソロでのHope Sandovalあたりと境界線を越えて完全に交わっている。

 かたやクリス・ライトキャップはジャズの立場からポストロックに対する答えを得ようとしているのがわかるし、逆にクリス・モリッシーはポストロックの側から見たジャズへの回答を出そうとしている。


※Mazzy StarのボーカリストHope Sandovalの初ソロ作「Bavarian Fruit Bread」(2001年)

この数年で単なるモノマネと本物の対比が暴き出される

 と同時に一部のジャズ・ミュージシャンがやっている、いかにも「それ風」の音楽が単なるマネゴトにすぎないことをあらためて実感したりもする。

 すでに終わったブラッド・メルドーが「時代に乗り遅れまい」と必死に背伸びしてマーク・ジュリアナと作ったMehlianaなんかまさにそれだ。まあ高度なテクニックや理論が災いし、ジャズ側の知識やセンスがかえって障害になっちゃうんだと思うけど……いってみればおカタいNHKが無理して若者に媚び「ヤング・ミュージックショー」なんて番組作っちゃうのに似ている。


※ポストロック・バンドTristezaを脱退したジミー・ラヴェルが始めたソロプロジェクトTHE ALBUM LEAF

 Mehlianaのカラっぽな絵空事を聴くなら、ロックの連中がやってることのほうがよほど真っ直ぐで気持ちいい。例えばエレクトロニカ的なポストロックのTHE ALBUM LEAFあたりのほうが100万倍、音楽的刺激がある。「こいつ、先端にいるよなぁ」てな感じがビンビンくる。

 おそらくこの5年、10年で他ジャンルとの融合が進む現代ジャズははっきり様変わりするだろう。そのとき残酷にも暴き出されるのは、「俺ってイマ風でしょ?」と口先だけでうそぶく偽物と本物との鮮やかな対比かもしれない。

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【2014 イチ押し新譜ベストテン】 年間ランキング ~これだけは聴いとけ

【第1位】 Mark Turner Quartet / Lathe of Heaven (←クリックするとレヴュー記事へ。以下、同)

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Mark Turner (ts)
Avishai Cohen (tp)
Joe Martin (b)
Marcus Gilmore (ds)

2014年、マーク・ターナーの第二期黄金時代が始まった。

 2014年の1年間でインパクトの強かった作品を順に並べて行くと、奇しくも1~3位はすべてマーク・ターナー(ts)の参加作になった。出る新譜、出る新譜、めぼしい盤には彼が関わっている、注目作がリリースされると必ず彼がサックスを吹いている――そんな1年だった。2014年はターナーの第二期黄金時代が幕開けを告げた年といえるだろう。

 それにしてもこのブログでは意識してどこかしらトンがったものを紹介するようにしているつもりだが、いざ年間ベストテンを選ぶとなると結局は誰が聴いても「いい」と言いそうな作品が並んでいる(1位以外)。不思議なものだ。これが人間のバランス感覚のなせる技か。まあそれだけ普遍性のあるランキングなんだとポジティヴ・シンキングしておこう。

【第2位】 Tom Harrell / Trip

2 音で物語を表現したハレルの意欲作

Tom Harrell (tp, flh)
Mark Turner (ts)
Ugonna Okegwo (b)
Adam Cruz (ds)

【第3位】 Jochen Rueckert / We Make The Rules

3 漆黒の闇夜を疾走するダークな饗宴

Mark Turner (ts)
Lage Lund (g)
Matt Penman (b)
Jochen Rueckert (ds)

【第4位】 OPUS 5 / Progression

4 クールな新世代ハードバップ

Alex Sipiagin (tp, flh)
Seamus Blake (ts)
David Kikoski (p, fender rhodes)
Boris Kozlov (b)
Donald Edwards (ds)

【第5位】 David Weiss / When Words Fail

5 煙草が香るスタイリッシュな男の美学

David Weiss (tp)
Myron Walden (as)
Marcus Strickland (ts)
Xavier Davis (p)
Dwayne Burno (b)
E.J. Strickland (ds)
Ben Eunson (g on 3, 8)

【第6位】 Stefano Bollani / Joy In Spite Of Everything

6 ビルフリ、ターナーが化学反応したECMらしからぬ解放感

Mark Turner (ts)
Bill Frisell (g)
Stefano Bollani (p)
Jesper Bodilsen (b)
Morten Lund (ds)

【第7位】 Donald Edwards / Evolution Of An Influenced Mind

7 巧妙な組織プレイが織り成すアレンジの妙

Donald Edwards (ds)
Walter Smith III (ts)
David Gilmore (g)
Orrin Evans (p)
Eric Revis (b)

【第8位】 Rodney Green Quartet / Live at Smalls

8 ロドニーは大魚をモノにした

Rodney Green (ds)
Seamus Blake (ts)
Luis Perdomo (p)
Joe Sanders (b)

【第9位】 Steve Cardenas / Melody in a Dream

9 夏草の香りがするギタリスト

Steve Cardenas (g)
Thomas Morgan (b)
Joey Baron (ds)
Shane Endsley (tp on 3,7,9)

【第10位】 Ricardo Izquierdo / Ida

10 キューバの妖星、鮮烈デビュー

Ricardo Izquierdo (ts, bcl)
Sergio Gruz (p)
Juan Sebastien Jimenez (b)
Mauro Gargano (b on 5,6,9)
Lukmil Perez(ds)

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ジャズの聴き方は2通りある

 ジャズの聴き方は大雑把にいって、2通りある。ひとつはプレイヤー個人の演奏を重視する聴き方。そしてもうひとつは楽曲の良し悪しを重んじる聴き方だ。

 前者は 「個人技こそジャズの醍醐味だ」 という価値観だから、必然的にプレイヤーのソロやインタープレイに耳をそばだてる。するとどちらかといえば、「このアルバムは似たり寄ったりの曲が多いぞ」 とか、「このアルバムは楽曲がつまらないな」 などという聴き方にはならない。

 一方、後者は曲のデキにこだわり、楽曲がよければそのアルバムは作品性が高いと評価する。すると当然、「その盤はオリジナル曲の比率が高いかどうか?」 が大きなポイントになる。

 またこのタイプはソロの出来不出来より、むしろ楽曲の構成 (作曲法) を見ながら、どちらかといえばバンド全体のアンサンブルを注意して聴く。この場合、そのアルバムにいくらすばらしい個人のソロやインタープレイがあったとしても、まず大前提として楽曲がよくなければそのアルバムを良いとは認識しない。

 ちなみにこれは 「どっちがいい悪い」 とか 、「どっちが正しい / まちがっている」 という問題じゃない。単なる価値観のちがいである。そしてこの価値判断の差異は、当然レヴューの書き方にも表れる。つまり個々人のレヴューは、かなりちがった切り口になる。

 とすれば他人のレヴューにいくら 「このアルバムは出来がいい」 と書いてあっても、それをそのまま鵜呑みにはできない。なぜなら前述の通り、人によってチェックポイントがまったくちがうからだ。

 となれば他人のレヴューをうまく読み分け、自分のCD購入の参考にするには、まずそのレヴュアーは自分と同じ価値観かどうか? をあらかじめ把握しておくことだ。(これはその人のレヴュー記事を何本か読んでいるうちに自然とわかる)

 そして自分と同じ価値観を持つレヴュアーが 「このアルバムはいい」 と書いてあれば、買う。逆に自分と正反対の価値観を持つレヴュアーが 「このアルバムはいい」 と書いてあったら、買わない。

 この方法でムダのないCDの買い方ができるはずだ。

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立ち飲みで盛り上がる「西成ジャズ」っておもしろいね

nishinari.jpg
※撮影・伊藤菜々子、朝日新聞から引用。

西成は大阪のニューオリンズだった

 大阪・西成のドヤ街にある立ち飲み屋で、最近、夜な夜なジャズのライブをやってるらしい。 「投げ銭」 がチャージ代わりで、この街に流れてきた日雇い労働者の憩いの場になってるんだとか。(引用元の朝日新聞の記事はここ)

 演奏するプロのミュージシャンもどんどん増え、今では35人。 「西成ジャズ」 と銘打ち、近くのおでん屋などにもライブ会場が広がってるらしい。

「西成ジャズ」 のブログもあって、こちらもおもしろい。ブログのサブタイトルが 「此処は大阪のニューオリンズ。演奏家も聴衆もマルハダカ」 。大阪のニューオリンズってのがいいねえ。行ってみたいなぁ。でも遠い……。

 関西の人は、ぜひ覗いてみるべし。きっとワイルドだぜー (スギちゃん風に)

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ジャズ業界は「破綻スパイラル」に突入してないか?

売れるのは50年代の巨匠の名盤か、甘いピアノトリオだけ

 ジャズ業界を本格的にフィールドワークしてそろそろ3年になるが、だいたいこの業界の構造が見えてきた。どうやら救いようのない破綻スパイラルに入っているようだ。

 売れるのは50年代の巨匠の名盤か、甘いピアノトリオだけ。お金は絶えず、もう死んでいるミュージシャンのアルバム購入に割かれている。このボリュームゾーンでは「復刻」などと銘打ち、手を変え品を変え何十年間も同じアルバムを売り続けている。ある意味楽な商売だ。

 その結果、若くて才能はあるのに誰もCDを買ってくれず、食えない有望ミュージシャンがあふれ出す。彼らはいつもハラを空かし、あえいでいる。

 マイク・モレーノやジョナサン・ブレイクみたいにセッションとなれば必ず呼ばれるNYの売れっ子クラスでも、自分のやりたいことはなかなかできない。レーベルから売れセンの物作りを要求され、自分を通そうと思えばネットでアルバム制作費のカンパを募らなきゃならない。でなければやりたいことができない。

 で、若く才能のあるミュージシャンが業界に定着せず、ニューヨークに出てきても数年で故国へ帰ってしまう。慢性的に人が育たない。もう死んでいる巨匠が売れ続けるだけで、若く将来性のあるプレイヤー層が(ビジネス的には)完全に空洞化している。このぽっかり空いた穴は非常に深刻だ。

 今ある果実をもぎ続け、未来を見据えた種まきをしないとどうなるか? いつかは収穫する果実がなくなる。だが新芽もまったく育ってないのだ。いったいどうするのか? その業界はただ消滅するだけだろう。

生きてるミュージシャンは誰も食えない恐怖のサイクル

 極論すれば、50年たってもマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスだけが売れ続け、生きているミュージシャンは誰も食えない。そんな破滅スパイラルに局面は入っている。

 とはいえゴッホや、往年の巨匠の画家あたりはみな死んでから売れた才人ばかりだ。芸術家はいつの時代も食えないもの。だがそれにしてもジャズの世界はひどすぎる。往年の名盤ばかりを持て囃し、新規需要を開拓しパイを広げてマーケットを育てる努力をずっと怠ってきた、日本のジャズ・ジャーナリズムの責任は途方もなく大きい。

 かと思えば他方、ひと握りの「上がった人」は往年の豪華メンバーで黄金のピアノトリオを結成し、年金稼ぎに余念がない。「復刻」の名盤を喜んで買う層はこういう黄金カードにからきし弱い。彼らは何の疑問もなく買ってくれる。

 で、こういうひと握りの幸運者はアルバムを出せば自動的に売れる成功スパイラルに入れる。ここにハマればだれだって抜け出せないし、別にそうする必要もない。いっちょう上がりだ。

この業界構造で音楽文化は育つのか?

 いや別に売れるのが悪いとかいう話じゃない。志の高い貧乏人はいつまでたっても貧乏で、ビジネスのうまい商売人が勝ち残る。往年の名盤と甘いピアノトリオを有り難がって買う側のメンタリティも、この救いようのない構造を強力に補完する役割を果たしてる。客観的に分析すれば、ただそれだけの話だ。

 だが果たしてこの構造の中で音楽文化は育つのか? さらにいえば、たとえ今はよくてもそう長続きしないだろう、という危惧もある。今は業界全体が潤わないながらもなんとかバランスを保っている。だがひとたび地滑り的な破綻が起これば、ジャズ業界がそっくりそのまま崩壊する可能性すらある。

 しかしだからといって社会主義国じゃあるまいし、「若いミュージシャンのCDを買いなさい!」なんて誰にも強制できないし、それはおかしな話だ。またジャズを楽しむために買ってるにすぎない1リスナーが、「業界かくあるべし」みたいなことを考えるのもナンセンスだってことは重々わかっている。

 だけど「好きなジャズがなくなるかもしれない」と考えると、矢も立てもたまらなくなるんだよねえ。まあ別にいいんだけどさ。

【関連記事】

『天才に賞味期限はあるか? -ブラッド・メルドーの軌跡』

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天才に賞味期限はあるか? -ブラッド・メルドーの軌跡

天才が囚われがちなある強迫観念とは

 人間はまったく同じ環境下で一定の緊張感を持続し、高度な作業を続けるのが心理的にむずかしい。とりわけ気まぐれな芸術家気質の人にそれは顕著だ。

 また天才的なクリエーターには、「今まで自分がやってない新しいことをやらねば」、あるいは「まだ人類の誰もがやっていないことを自分がやらなければならない」、「そうでなければ自分は生まれてきた意味がない」という、天才型の人物特有の強い強迫観念がある。

 作っては壊し、作っては壊し、を繰り返したマイルス・デイヴィスなどはその典型だろう。そして古今東西、音楽に限らず、この観念に囚われて自爆したクリエイターは数多い。無理に目先を変えようとして失敗するのだ。

 90年代に新しいジャズの地平を切り開いた3人の天才にも、この法則は見事にあてはまる。彼らはよくも悪くもピュアであり、「次は何か(天才らしく)新しいことをやらなければ」と考えてしまうのだ。

 そんな観念に囚われたジョシュア・レッドマンは、「Compass」 (2009) でダブルベース、ダブルドラムスという曲芸を実行に移し、あえなく自爆した。

 またアルバム「Our Secret World」 (2010) で若くしてセルフカヴァーなんぞをし、「もうネタ切れです。終わりました」と自ら宣言したカート・ローゼンウィンケルもそうだ。彼の場合は「ビッグバンドと共演する」という目先の変え方をし、強迫観念から逃れようとした。

 そして本題であるブラッド・メルドーは「Highway Rider」 (2010) で、室内管弦楽団をバックに演奏する、という目先の変え方をした。ブラッド・メルドー・トリオ新作 「Ode」 のレヴュー記事 (別頁あり) で、「『Highway Rider』を聴き、メルドーは終わったと思った」と書いたが、それはレッドマンやローゼンウィンケルの例と同様、あの「Highway Rider」が天才型の人物特有の強迫観念の具現化だと強く感じたからだ。

同時期に活躍し自爆した3人の天才

 さて、では彼ら3人がトップフォームで活躍した期間はそれぞれどうか? レッドマンはデビュー作 「Joshua Redman」 (1993) から、「Compass」 (2009)までは16年。だが実質的には、目先を変えようとした一度目のあがきである「Elastic」 (2002) の時点でもう終わっていたのだろうから、とすればちょうど約10年になる。(James Farmは全くいいと思わない)

 一方、ローゼンウィンケルはデビュー作「East Coast Love Affair」 (1996) から「Our Secret World」 (2010) までは14年と、レッドマンの16年とほぼ同じだ。ただし彼は初期にはふつうの曲をふつうに演奏していた。彼が本格的に革新性を発揮したのは「The Enemies of Energy」 (2000)から。もしくは完成度でいえば、次の「The Next Step」 (2000) から、としていいだろう。とすればレッドマン同様、「Our Secret World」 (2010) まではちょうど10年になる。

 ではメルドーはどうか? デビュー作「Introducing Brad Mehldau」 (1995) から「Highway Rider」 (2010) までは、他の2人とほぼ同じ15年である。とはいえメルドーも初期の頃は割にふつうの演奏だった。アルバムトータルとしての明らかな革新性や作品性を感じさせたのは「Places」 (2000)からだ。とすれば彼も「Highway Rider」 (2010) までは、ぴったり10年である。

 こんなふうに90年代から2000年代にかけ、新しいジャズの地平を切り開いた3人の天才は同じような時期、同じような期間(10年間)にわたり才能を発揮した。そして奇しくも同じ頃(2009年~2010年)に、「今までやってないことをやらねば」という観念にかられて自爆したことになる。

 彼ら3人は今後、過去の諸作をはるかに凌駕する作品をまた生み出すことはあるのだろうか? いや、どうも旬は過ぎた感がある。とすれば天才の賞味期限とは、案外、せいぜい10年ぐらいなのかもしれない。

メルドーのピークは2000年代の前半か?

 ブラッド・メルドーはロックの楽曲を積極的にレパートリーに取り入れ、ジャンルを超えた演奏をしてきた。またリズムの解釈なども革新的だった。そのため保守的で頑迷なジャズ評論家やジャズマニアからたびたび標的にされた。

 例えばメルドーの軌跡を振り返ると、デビュー作の「Introducing Brad Mehldau」 (1995年録音) からしてかなりの完成度だ。特にM-1~5におけるグレナディア / ロッシ組のリズムの解釈は非常に新しく、この時点で早くも古いジャズファンはついて行けないかもしれない。

 百歩譲ってセカンド作 「The Art of the Trio, Vol. 1」 (1996年録音)あたりまでなら、保守派、革新派(若いリスナーを仮にこう呼ぶ)の誰もが「いい」と評価しそうだ。だがニック・ドレイクやレディオヘッドの楽曲を取り上げたスタジオ録音3作目 The Art of the Trio, Vol. 3 「Songs」 (1998年録音) の時点で、はっきり「コマーシャルすぎる」、「ジャズじゃない」と叩く人が登場する。

 個人的にはロックもふつうに聴くのでこんな説にはまったく組しないが、メルドーの頂点はやはり2000年代の前半あたりだったのではないかと考えている。すなわち「Places」 (2000年録音)と、Art of the Trio, Vol. 5 「Progression」 (2000年ライブ録音)、「House on the Hill」 (2002年10月に「Anything Goes」と同時録音) の3作が立て続けに録音された時期だ。

 特に「Places」と「House on the Hill」が持つ作品性、芸術性は諸作の中で突出しており、音を聴いただけで「そこには何か得体の知れないストーリーが潜んでいるのではないか?」と感じさせる気配がある。インストゥルメンタルでありながら、音で歌詞をイメージさせるかのような奥深さをもっている。またメロディーだけでなくリズムの解釈も新しく、2000年代へと続く新しいジャズの流れを作ったといえる。

 一方、初期のライブ「Live At The Village Vanguard」 (1997年録音)、「Back At The Vanguard」 (1999年録音) は、音符をひたすら速くたくさん詰め込もうとするメルドーの若気の至りが(ライブ演奏ということもあり)爆発しており、個人的にはうるさくて聴いていられない。だが2000年にライブ録音された傑作「Progression」 はまったくそんなことはなく、抑えて弾くところは抑える、行くところは行く、というメリハリがついて円熟味を感じさせる。

 その後リリースされた「Day is Done」 (2005年録音) や 「Live」 (2006年録音) はエンターテインメントとしてふつうに楽しめるが、前出「Places」や「House on the Hill」が持っていたようなエポックメイキングな革新性や新規性、独自性はもはやない。結論的には、メルドーが芸術性や作品性を世に問い、最高にトンガっていた時期はやはり2000年代の前半までだったように感じる。

 新作の 「Ode」 はそうした神がかった崇高さのようなものからはもはや突き抜けた、キャッチーなメロディーが耳に残る優れたポップ・ミュージックといえるかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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松岡美樹

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