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Bad Touch / Like A Magic Kiss

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Loren Stillman (as)
Nate Radley (g)
Gary Versace (org)
Ted Poor (ds)

Rec. February 10-11, 2008, at Yonas Media, NY
Engineer: Ryan Ferreira (Bad Touch Music 884501032704)

スティルマンが仕掛ける新プロジェクトの光と影

 冒頭のM-1からいきなり攻撃的でかっこいいキメが続出する。テッド・プアが狂ったように叩きまくっている。えっ? これホントにあの根暗なローレン・スティルマンのプロジェクトだっけ? だが聴き進むうち、いつもの奇妙でこっけいなメロディが随所に登場し納得する。屈折した暗さも相変わらずだ。ふむ、スティルマン、きっと今回は抗鬱剤でも飲みすぎてハイになっちゃったんだろう。

 てなわけでスティルマンが中心となったグループ 「Bad Touch」 のデビュー盤である。メンバーはローレン・スティルマン (as) にゲイリー・ヴァセイシ (org) 、ネイト・ラドリー (g)、テッド・プア (ds) といういつもの面々が揃う。スティルマンの最新アルバム 「Winter Fruits」 (2009年。レヴュー記事はこちら) と同じメンツである。

 本作を聴いて思うのは、曲順の決め方の重要性だ。1曲目のド派手で暴力的な 「Bad Touch」 に耳を奪われ、「うわぁ、刺激的だなぁ。なんかいつもと様子がちがうぞ」 とアルバムの印象が強く決定づけられる。だがM-2以降をよく聴いてみると、やっぱりスティルマンの世界なんだな、これが。

 本作は収録曲6曲のうち、テッド・プアが毛並みのちがう活発な2曲 (M-1とM-4) を提供している。残りの4曲はスティルマンの作曲だ。つまり冒頭と真ん中にバランスよく配した元気なM-1とM-4により、「おっ、スティルマンは変わったぞ」 と感じさせる。だがそれ以外の4曲はいつもの彼らしく、静かでアブストラクトなスティルマン節である。

 ただし彼は今回ソリストというより、舞台装置を作る一職人として参加している。スティルマンが作ったスペースにヴァセイシとラドリーが入り込み、主旋律にからみつく。プアもバスドラでプッシュする。行儀よく順番にソロを回したりする瞬間はまったく訪れない。ステキな無秩序であふれている (実は計算されているのだが)。すなわち前出のアルバム 「Winter Fruits」 と似た構造の世界が繰り広げられる。違うのはこっちの方が殺気に満ちていることだ。

 特筆すべきはプアのドラミングである。この人はとにかく音が太くてスケールが大きい。特にM-1で披露した激しく食いまくるバスドラは劇的だ。彼のプレイを初めて聴いたのはマイク・モレノの 「Another Way」 (2012年。レヴュー記事はこちら) だった。正直、なぜかピンとこなかったのだが、その後参加作を何作か聴くうち印象がみるみる変わって行った。すごいわぁ、この人。本盤はそんなプアのダイナミックなドラミングがしこたま聴けてお腹いっぱい。スティルマンの変人っぷりも相変わらずです。興味のある方はぜひどうぞ。

*本作は自主製作盤のため入手しにくいが通販サイト 「CDbaby」 でゲットできる。

【関連記事】

『Loren Stillman Quartet / How Sweet it is』

『Loren Stillman / It Could Be Anything』
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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Loren Stillman / Winter Fruits

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Loren Stillman (as)
Nate Radley (g)
Gary Versace (org)
Ted Poor (ds)

Rec. June 4-5, 2008, at Bennett Studios, NJ
Engineer: Jason Seizer (Pirouet Records PIT3042)

空間の創造者、スティルマンのアルトが静寂を演奏する

 ローレン・スティルマンは静寂を演奏する若手サックス奏者だ。10枚目の最新リーダー作に当たる本盤でもそれは同じである。間を生かして必要以上に音を刻まず、粛然とした何もない空間を作り出す。いわば空間の創造者である。

 本作はギター入りのオルガン・トリオにサックスを加えた編成だが、オルガン・ベースの音圧が (意図してかどうか) かなり低い。つまり低音部を埋めず余白を残す音作りをしており、たっぷりとしたスペース・メイキングがますます生きている (まるでベースレスのようだ)。

 そのためスティルマンならではの奇妙な味のあるテーマやキメが、従来作以上に何もない空間にぽっかり浮かび上がる仕掛けになっている。このアレンジ手法がアルバム全編にちょっとシュールな雰囲気を漂わせている。

 メンバーは別プロジェクトのグループ 「Bad Touch」 の顔ぶれと同じだ。ゲイリー・ヴァセイシ (org) 、ネイト・ラドリー (g)、テッド・プア (ds) といういつもの面々が共演した。

 メンバーのプアによる2曲に加え、スティルマンのオリジナル6曲の合計8曲。サウンド面では、中高音部を受け持つヴァセイシのオルガンとラドリーのツボを押さえたバッキングが重要な役割を担う。

 スティルマンが作ったスペースにヴァセイシとラドリーが代わる代わる顔を出し、印象的なフレージングとコードワークでアルバムに 「顔」 をつけて行く。2人の音使いはスティルマン同様アンダーグランドな色があり、この味付けがアルバムカラーを完全に決定付けている。ただし本作はNYの若手によくある暗くダークな音でなく、むしろクールに突き抜けた奇妙な明るさが印象的だ。

 一方、彼らを支えるプアのドラムは太くどっしりした安定感がある。ややため気味の重いプレイが特徴の彼のドラミングには壮大なスケール感があり、ニューヨークの若手の中でははっきりトップクラスである。

 それにしても、この変てこなメロディーを生み出すスティルマンのセンスにはまったく脱帽だ。 「技術」 は人の心を動かす道具のひとつだが、彼が発散する奇態な 「感性」 も技術に劣らず重要なツールとして機能する。後天的なトレーニングでは身に付けられないサムシングを、スティルマンが持っているのは明らかだ。

【関連記事】

『Loren Stillman Quartet / How Sweet it is』

『Loren Stillman / It Could Be Anything』

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Loren Stillman Quartet / How Sweet it is

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Loren Stillman (as)
Russ Lossing (p)
Scott Lee (b)
Jeff Hirshfield (ds)

Rec. May 15, 2001, at Acoustic Sound, NY
Engineer: Michael Brorby (Nagel Heyer 2031)

浮遊する虚脱した奇妙なアルト

 ふわふわした浮遊感に乗り、奇妙でこっけいなメロディが続く。要所でラス・ローシングがド速いパッセージの超絶ピアノソロを見舞う。またあるときは曲の途中でテンポが失なわれ、フリー・インプロヴィゼーション寸前へ行く。トンガリ感満点、アルト奏者ローレン・スティルマンの初期傑作である。

 クールに醒めた吹きぶりはリー・コニッツを思わせる。だが反面、調子っぱずれでユーモラスなところはオーネット・コールマン~ジョー・ロヴァーノ系でもある。温かみをまったく感じさせない音色や、エネルギー感のない虚脱したプレイスタイルがいかにもNYコンテンポラリー的だ。

 全8曲すべてオリジナル。M-1とM-2の味のある妙なテーマは惹きが強い。本作のベストトラックだろう。一方、M-5は非常に美しいバラードであり、メロディメーカーとしての才能も見せつける。最近のプレイヤーに顕著な傾向だが、演奏者としてだけでなく作曲もこなすオリジナル志向を強く感じさせる。「オレの世界を聴いてくれ」ってなノリである。

 アルバム全編に漂う浮遊感を演出するのはリズム隊だ。特にスコット・リーのベースが利いている。そこにひょうひょうと泳ぐスティルマンのファニーなアルトが乗り、バンド全体でゆらゆら揺れる不安感を醸し出す。リズム隊がそうしたスティルマンの狙いを完全に理解し、ぴったり意思統一している感じだ。

 この2年後にFSNTから出た 「It Could Be Anything」 (2005年、レヴュー記事はこちら)とくらべ、いい意味で完成されてない危うさ、脆さ、破天荒な勢いが強烈な魅力を放つ。どちらも秀作だが、生々しい剥き出しのスリルを味わいたいなら本盤かもしれない。

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Loren Stillman / It Could Be Anything

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Loren Stillman (as)
Gary Versace (p)
Scott Lee (b)
Jeff Hirshfield (ds)

Rec. April 21, 2005, at Skyline Productions, NJ
Engineer: Paul Wickliffe (FSNT 230)

先鋭的なアルトが生み出すアブストラクトな世界

 アンダーグラウンドな香りが漂う妖作だ。エネルギッシュに躍動することを禁じたストイックな音楽の面白さ。しんと静止したような独特のグルーヴに引き込まれる。アルト奏者、ローレン・スティルマンがピアノトリオを従えた作品だ。

 ひょうひょうと浮遊する神経質なアルトの響きが、ゆらゆら揺れるリズム隊と共同でアブストラクトな世界を構築して行く。ときにカン高い音で繰り出す速いパッセージがツンと脳にくる。

 ピアニストとして参加しているゲイリー・ヴァセイシの任務も重要だ。バッキング時にはひらひらと蝶のように舞うコードワークで浮遊感を演出し、ソロを取れば突き放した妖しい音使いでクールな雰囲気を漂わせる。

 スティルマンのオリジナル8曲に、ベーシストのスコット・リーが2曲を持ち寄った計10曲。どこまで聴き進んでもキャッチーなメロディーなど出てこない。聴き手を拒むかのように哲学的だが、ハマるとくせになるアルバムである。

 主役のスティルマンは80年ロンドン生まれ。2002年モンク・コンペで最終選考に残り注目を浴びた。ゲイリー・ヴァセイシ (org) やネイト・ラドリー (g)、テッド・プア (ds) らと組んだグループ 「Bad Touch」でも作品をリリースしている。先鋭的な現代ジャズ界では見逃せない存在だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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