Misja Fitzgerald Michel / Encounter

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Misja Fitzgerald Michel (g)
Drew Gress (b)
Jochen Rueckert (ds)
Ravi Coltrane (ts on 1, 9)

Rec. February 24-25, 2005, at Context Studio, NY
Engineer: Bobo Fini (Sunnyside SSC3040)

渾身の4ビートが炸裂するハードボイルドな男ジャズ

 こんなまっすぐな4ビートはひさしぶりに聴いた。エネルギッシュで熱くてダーク、超おすすめのハードボイルドな男のジャズだ。フランス人ギタリスト、ミシャ・フィッツジェラルド・ミシェルの4枚目のリーダー作である。ドリュー・グレス (b)、ヨッケン・リュッカート (ds)のリズム隊に、2曲でラヴィ・コルトレーン (ts)を加えた魅惑のキャストだ。

 ミシェルは巨匠ジム・ホールの弟子で、音色やタッチはなるほどジム・ホール~パット・メセニー直系を思わせる。メセニーをちょっと男っぽくしたようなギターを弾く。スタイルは現代風だが、マインド的には1950~60年代の熱かったジャズの息吹がする。4ビートを基調にしたどストレートと変化球で押しまくり、荒々しく暴力的に猛り狂うようなパッションを感じさせる。今どきのクールに澄ましたコンテンポラリー系ジャズとはまるで対照的だ。

 彼はスコット・コリー (b) らと1998年にレコーディングした「Live at la Villa」でデビューした。続く2002年にはラヴィ・コルトレーン (ts)、ドリュー・グレス (b)、ナシート・ウェイツ (ds)を擁し、セカンド・リーダー作「On The Edge」を録音。2004年にはドリュー・グレス(b)とのデュオにより、サードアルバム「Expectations」を発表している。最新作は2002年リリースの5枚目「Time of No reply」だ。

 1973年オランダ生まれ。サックス奏者、Francois Jeanneauの指導の下、フランス国立高等音楽院(CNSM)でジャズを学んだ。のちフランス文化省からラヴォアジエ奨学金を授与され、ニューヨークのNew Schoolでジム・ホール、ジョン・アバークロンビーらに師事している。

脳天カラタケ割りな圧巻の疾走感

 本作はオリジナル5曲のほか、6曲の強力な援軍を動員した。オーネット・コールマンの「Chopin」と「Lonely Woman」、ジョン・コルトレーンの「Countdown」、「Central Park West」のほか、ビル・スチュワート「Think Before You Think」、ウェイン・ショーター「Umbo」の合計11曲だ。

 アルバム初っばなから、いきなり脳天カラタケ割りのかっこいい4ビートがくる。コールマンの「Chopin」だ。冒頭でテナーとギター、ベースがユニゾンで妖しいテーマをぶっ放したかと思えば、ドラムスの合図で全員がいっせいに走り出す。疾走感のあるすばらしい演奏だ。冷静なヨッケン・リュッカートにしては派手なプッシュに煽り煽られ、この1曲でリスナーはもう「どうにでもしてちょうだい」状態になる。

 一方、M-3のオリジナル曲は、パット・メセニーの名盤「Question And Answer」 (1990)を思わせる。ギターとベースがユニゾンで弾くフレーズが刺激的だ。曲の中盤でソロを繰り出すドリュー・グレスのなんとまあ凶暴でハジけてること。ほかにテナーとギターがツインでソロを競うM-9、ウェイン・ショータ作品らしくとぼけた味のM-10、涼やかで美しいバラードのM-11も聴き物だ。

 ギターがとにかくホットなのは冒頭に書いた通りだが、グレスとリュッカートの躍動するエネルギー感がアルバムの熱気に火をつけている。このところ繰り返し聴いて初めてよさがわかるクール系のジャズばかりだったので、一聴してぶっ飛ぶ経験をしたのはひさしぶりだ。このアルバムを聴いて「つまらない」という人がいたらぜひお目にかかりたい。
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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Marc Copland Trio / Haunted Heart

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Marc Copland (p)
Drew Gress (b)
Jochen Rueckert (ds)

Rec. April 2, 2001, at The Studio, NY
Engineer: Jon Rosenberg (HatOLOGY 690)

静謐な音の断片が生み出す空気感

 このアルバムは演奏を聴くというより、「空気感を味わう」という表現の方がふさわしい。

 マーク・コープランド (p) が操るピアノからポツリ、ポツリとたどたどしく断片的な音符が立ち上る。それらの音は尾を引くような余韻に包まれ、空間にぽっかり浮かんでは消える。

 音と音のはざまには間(ま)がたっぷりあり、その何もない空間とそこに置き去りにされた音、そして静謐感にあふれた余韻が織り成す独特の「空気の感じ」。それを体感するのがこのアルバムの醍醐味だ。

 コープランドが仕掛ける異空間に放り込まれた数々のスタンダード曲が、予想もしない方法論によって翻訳され、まったく新しい楽曲に生まれ変わる。そんなコープランドの創造の瞬間に立ち会える名作である。

 ただ旋律が美しいだけでなく、時おり混じる不協和音的な危ない音が刺激的だ。サポートするドリュー・グレス (b) 、ヨッケン・リュッカート (ds) の場の作り方もすばらしい。特にピアノ独奏のルバートから、リズム隊が入ってインテンポになる瞬間がスリリングである。平凡なプレイヤーなら、こんな独特のタイム感をもつピアノに合わせ、楽曲として成立する形にして演奏するのはむずかしい。

 儚い系ピアノトリオが辿り着いたひとつの究極。「繊細な」とか「叙情的」などと平凡な言葉をいくら並べたところで、この圧倒的な空気感の前にはただ空疎なだけだ。文字表現の無力を思い知らされる名盤である。前回のレヴュー作に引き続き、本作も2000年代のエポックメイキングな1枚であることはまちがいない。

(追記)

 2002年にリリースされた本盤オリジナルのタイトルは、「Haunted Heart and Other Ballads」 (hatOLOGY 581)。その後、2010年にタイトルを「Haunted Heart」と短くし、(HatOLOGY 690)として再発された。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Will Vinson / Stockholm Syndrome

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Will Vinson (as,ss)
Lage Lund (g)
Aaron Parks (p)
Orlando LeFleming (b)
Kendrick Scott (ds)

Rec. June 2, 2010, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1330)

豪華メンバーが揃ったコンテンポラリージャズの傑作

「コンテンポラリーなジャズってどんな感じ?」と聞かれたら、黙ってこのアルバムを差し出せばいい。熱くならずに感情を抑制し、眉ひとつ動かさず人を斬るクールな演奏。コンテンポラリージャズの見本のような傑作である。イギリス人アルト奏者、ウィル・ヴィンソンの4枚目に当たる2010年の最新アルバムだ。

 ラーゲ・ルンド(g)にアーロン・パークス(p)、オルランド・レフレミング(b)、ケンドリック・スコット(ds)という今を時めく豪華メンバーが揃っただけでもすごい。そんな彼らが喜怒哀楽をいっさい出さず、ただひたすら淡々と無機的に演奏するさまは壮観である。メカニカルな機能美を極めた今どきのジャズならではだ。

 アルバム全体が冷たい寒色系のベールに覆われ、人間の焦燥感をかき立てるようなナーバスな音使いの演奏が続く。まるで「現代人が抱える漠然とした不安」をテーマにした演劇を見ているかのようだ。アルバムタイトルの「ストックホルム・シンドローム」とは、被害者であるはずの人質が犯人に抱く不条理な連帯感や好意の心理を指す精神医学用語だが、ひょっとしたらヴィンソンは心理学に興味があるのかもしれない。

 ロンドン生まれのヴィンソンは、1999年にニューヨークへ移り住んだ。2004年に初リーダー作 「It's For You」 をリリースし、セカンドアルバム 「Promises」 (2008)、ライブ盤 「The World (Through My Shoes) 」 (2010) と順調にキャリアを積み上げている。

 デビュー作は未聴だが、ライブの 「The World」 はおすすめだ。ドラムスにヨッケン・リュッカートを起用し、パークスが抜けた以外は本作と同じメンバーである。ライブ盤らしい温度感の高い演奏が繰り広げられる。一方、セカンドの 「Promises」 はドラマーのロドニー・グリーン、アリ・ホーニグ以外すべて本作のメンバーだ。こちらはややキャッチーでフュージョンライクだが、技達者なメンバーのテクニカルな演奏が堪能できる。

パークスとルンドのコンビネーションが核だ

 本作はヴィンソンのオリジナルが4曲、ルンドの曲が1曲、その他4曲の合計9曲。暖かみがありリラックスできるスタンダードのM-7 「Everything I Love」とビル・エヴァンスのM-9 「Show Type Tune」は、寒色系で緊張感が高く4ビートじゃないオリジナル曲とかなり毛並みが違う。だがいい箸休めになり、アルバムを通して違和感なく聴ける。

 全体にかなり緻密にアレンジされた楽曲が多く、その意味ではアーロン・パークスとラーゲ・ルンドのコンビネーションがチームの核だ。パークスのピアノとルンドのギターが殺し合わず、それどころか完璧な相互補完の関係を成立させている。がっちり噛み合った2人のバッキングがセットになり、たがいに楽曲に貢献している。特にパークスはここまで無機的な役柄を演じていながら、かつ、これだけシリアスで玄妙なピアノを弾けるのか、というすばらしい演奏をしている。

 一方、オルランド・レフレミングとケンドリック・スコットのリズム隊も聴き物だ。彼らはちょうどこのアルバムを境にブレイクした印象がある。レフレミングは太くゴリッとした質感のベースで、弾けるような躍動感がある。かたやスコットはハイハットとスネアのコンビネーションが独特だ。ブラインドで聴いてもすぐ彼とわかる強い個性を放っている。タイトで張り詰めたビートを叩き出すいいドラマーである。

 個人的には本盤は、「こんな世界もあるのか!」と最近のジャズにハマるきっかけになった記念碑的なアルバムだ。「エポックメイキングな2000年代の作品を10枚挙げろ」と言われれば、迷わず本作を推すだろう。何かおもしろい盤はない? という人にはぜひ聴いてほしい逸品だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jason Seizer / Serendipity

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Jason Seizer (ts)
Marc Copland (p)
Henning Sieverts (b) 
Jochen Rueckert (ds)

Rec. August 10, 2003, at Pirouet Tonstudio, Munich
Engineer: Stefan van Wylick (Pirouet Records PIT3008)

コープランド (p) とヨッケン・リュッカート (ds) がおいしい

 ドイツのテナー奏者、ジェイソン・ザイツァーの5枚目になるリーダー作だ。脇を固めるマーク・コープランド(p) の妖しい音使いと、ヨッケン・リュッカート(ds) のメリハリの効いた俊敏なプッシュが脳にくる。音圧が低すぎるのはPirouet盤の難点だが、まあボリュームを大きくすればすむ。内容がいいのでよしとしよう。

 ザイツァーのテナーはコンテンポラリー系プレイヤーのように、抑えたクールさで聴かせるわけじゃない。かといって躍動感にあふれて熱くブロウするタイプでもない。いやどちらかといえば前者に近いが、このほどほどな中庸感がリラックスできる。反面、強烈な個性がないため存在感やインパクトに欠け、やや脇に食われている感もないではない。だがアルバムとしては軽く水準をクリアしている。

 ザイツァーは1996年にデビュー作「Patience」を発表して以降、最新アルバムの「Time Being」(2008)まで6枚のリーダー作を出している。

 シュトゥットガルト出身で4歳からリコーダーとフルートを始めた。以後、クラシックのコンテストで受賞歴を重ねたが、コルトレーンのアルバム 「バラード」を聴いてショックを受け、23才でサックスに転向したという遅咲きのプレイヤーだ。

翳りと愁いのあるヨーロッパらしいジャズ

 本作はザイツァーのオリジナル4曲に加え、参加メンバーのコープランドが3曲、ベーシストのヘニング・ジーヴェルツ(1966年ベルリン生まれ)が1曲を持ち寄った。

 翳りのあるテーマがスタイリッシュなM-1や、一転して明るくファンキーなM-2、疾走感のあるテンポがいいM-4、モーダルでテンションの高いM-7、明るいボッサ調のM-8が印象に残った。

 M-2はブルース進行の能天気な明るさと、にもかかわらずあくまでいつもの自分のペースで危ない音を選んでバッキングしようとするコープランドとのギャップがおもしろい。バッキングだけでなくピアノソロまでも、「この曲でそのノリと音使いのソロを取るのか?」と聴き手の意表をつくコープランドがすごい。空間にポツリ、ポツリと音を置いて行く彼のタイム感はやっぱりオンリーワンだ。常に自分の相撲を取るコープランドはえらい。

 ドラマーのヨッケン・リュッカートは、いままで聴いた中ではたぶんベストプレイに近い。メリハリの効いたいいドラミングをしている。強弱のアクセントがはっきりしていて、スネアやタムのアタック感もスパンと決まり気持ちいい。この人はエリック・ハーランドみたいに沈み込むような重さはないし、むしろ対照的にあっさり淡白な軽量系ドラマーだ。だが俊敏さと軽快さ、細かく分割して行くリズムの解釈、メリハリ感で楽曲に生気をもたらしている。

 さて主役のザイツァーは本作の4年前にサードアルバム「Sketches」 (2000)で、ラリー・ゴールディングス(org)とピーター・バーンスタイン(g)、ビル・スチュワート(ds)という超マンハッタンなオルガントリオと共演しているが……まるっきりそのときと同じ人とは思えないアルバムになっている。あのNYCなサードアルバムとくらべ、本作ははっきりヨーロッパの音だ。翳りと愁いのあるしっとり落ち着いたこういう盤もいい。

「NYコンテンポラリーなジャズを中心に」なんて言いつつ最近めっきりドイツづいているが、いいものに国境やカテゴリーなんて関係ない。いいものはいいのだ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Brad Shepik / Human Activity Suite

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Brad Shepik (el-g, ac-g, tambura, el-saz)
Ralph Alessi (tp)
Gary Versace (p, org, accordion)
Drew Gress (b)
Tom Rainey (ds)

Rec. June 14-15, 2008, at Brooklyn Recordings, NY
Engineer: Andy Taub (Songlines Recordings SGL SA1576-2)

ワールドミュージック的な草食系ギタリスト

 ブラッド・シェピックはワールドミュージック的なセンスをもち、中近東やバルカン風の音を多用するギタリストだ。「俺が俺が」じゃない草食系のギターを弾く。その特徴がよく表れているのが、2009年にリリースしたこのアルバムだ。

 南アメリカ、アフリカなど地球の各大陸をテーマにした楽曲で構成し、ギタリストとしてだけでなくコンポーザーとしての能力も見せる。ギターのインプロを聴くためのアルバムというより、トータルコンセプトで見せる作品だ。

 シェピックは1997年にデビュー盤「The Loan」を発表し、以来、2011年の最新作「Across The Way」まで7枚のリーダー作をリリースしている。

 ワシントン生まれで、1990年にニューヨークへ進出。2年後にポール・モチアンのアルバム「Paul Motian And The Electric Bebop Band」のレコーディングに参加した(クレジットはBrad Schoeppach)。このバンドはカート・ローゼンウィンケルとのツインギター編成で、あのジュシュア・レッドマンも在籍していた。

 続く96年には同じモチアンバンドでアルバム「Flight Of The Blue Jay」を録音する。参加メンバーにはローゼンウィンケルのほか、クリス・ポッターやクリス・チーク、スティーブ・スワロウらが名を連ねた。このほかシェピックはチャーリー・ヘイデンやジョーイ・バロン、カーラ・ブレイ、デイヴ・ダグラスなどとも共演歴がある。

民族音楽のエッセンスが織り成す万華鏡の世界

 本作は全10曲すべてがシェピックの手によるものだ。彼はギターだけでなくタンブーラ(インドの弦楽器)やエレクトリック・サズ(トルコの弦楽器)も駆使し、民族音楽的なエッセンスが織り成す万華鏡のような世界を構築している。

 オルガン奏者のゲイリー・ヴァセイシも、ピアノやアコーディオンをフルに使って辺境音楽的な雰囲気を演出する。特にアコーディオンが効いたM-1、M-6は秀逸だ。トランペットのラルフ・アレッシはもともと自身の世界に近いせいか違和感なく溶け込んでいるし、ベーシストのドリュー・グレスもマルチな才能ぶりを発揮している。

 シェピックは曲によってはエレクトリック・ギターの音をけっこう歪ませ、まるで70年代のロバート・フリップみたいな音色で弾いている。ただギタリストとしてのシェピックを堪能したいなら、綿密に作り込まれた楽曲とアレンジで聴かせる本盤より、最新リーダー作の「Across The Way」の方がストレートでいいかもしれない。

 また最近の彼の参加作としては、ヨッケン・リュッカートの「Somewhere Meeting Nobody」(2011年、レヴュー記事はこちら)でも、異端な変人ぶりがよく出た個性的なギターを聴かせている。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Ignaz Dinne / Back Home

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Ignaz Dinne (as)
Pete Rende (p)
Matt Penman (b)
Jochen Rueckert (ds)

Rec. January 22-23, 2004, at Tonstudio Vagnsson, Hannover
Engineer: Hrolfur Vagnsson (Double Moon Records DMCHR 71038)

クールな温度感が2000年代的である

 ドイツ人アルト奏者、Ignaz Dinneのデビュー作だ。突き放したような醒めた温度感と、抑制的でクールなところが今っぽい。音数少なく間を掴むタイム感も個性的だ。マット・ペンマン(b)、ヨッケン・リュッカート(ds)という「ROOT 70」のリズム隊に、最近マイブームなピアニスト、ピート・レンディの参加がうれしい。

 ちょっとリー・コニッツを思わせるあっさり淡白なアルトだが、音楽的にはモンクに深く影響を受けており、セカンド・リーダー作の「The Next Level」 (2008)ではモンクの曲を2曲取り上げている。本作の面子からベーシストだけをロン・カーターに替えたメンバーだ。

 Ignazは1971年ブレーメン生まれ。93年に渡米し、バークリー音大で学んだ。のちニューヨークへ進出し、ロン・カーターのクインテットやセロニアス・モンクの息子のドラマー、T.S.モンクのセクステットなどで活動した。現在ベルリンに住んでいる。

 父はジャズ・トロンボーン奏者のEd Krögerで、Edのリーダー作「Interplay」 (2008)、「Another Step」 (2003)でも共演している。このほか参加作としては、ジョナサン・ロビンソンの「Spatial Stasis」 (2009)などがある。

トリスターノ派や新主流派の影響も見える

 本盤はIgnazのオリジナル5曲のほか、参加メンバーのピート・レンディ曲、その他3曲の計9曲だ。アルバム全体を通してみると、トリスターノ派や60年代新主流派の影響も見える。

 NYC的な翳りのある屈折風味がかっこいいM-1や、ベースのリフが催眠のようなM-2、不思議なテンポでかすかにクラシックっぽいM-3、荘厳な夜明けのイメージのM-5が耳に残った。箸休めのM-6 「Body and Soul」、M-8のウェイン・ショーター作「Toy Tune」もくつろげる。

 M-2、M-3、M-5ではピート・レンディのピアノソロが効いている。M-2とM-3はリリカルに儚く美しく、M-5では決して弾き過ぎず、空間を背負いながらのたうつようにほふく前進する様がたまらない。

 かたやマット・ペンマンとヨッケン・リュッカートのリズム隊もバランスがいい。ペンマンがぶりぶりゴリゴリと動的に主張し、それをリュッカートがふんわり軽やかに受け止めるというコンビネーションが冴えている。

 さて最終曲は故国ドイツの作曲家、クルト・ワイル(1900~1950)の作品だ。アルトとピアノが静かにデュエットし、叙情的な静謐感の中にどこかしらユーモアが漂う逸品である。この曲でアルバムを締めた効果は高い。

 Ignazはニューヨークで活動していただけに、「アメリカ人です」と言ってもだれも疑わないような演奏をしている。ボーダーレスな2000年代の世界を実感した。それでもどこかヨーロッパ人らしく、ほのかにクラシックの香りがしたが楽しめる1枚だった。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Matt Slocum / After the Storm

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Gerald Clayton (p)
Massimo Biolcati (b)
Matt Slocum (ds)

Rec. January 12-13, 2011, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Mike Marciano (Chandra Records CHR8095)

美メロ連発のリリカルな強力ピアノトリオ

 ニューヨークの若手ドラマー、マット・スローカムのセカンド・リーダー作だが、お目当てはピアノのジェラルド・クレイトンだ。リリカルで端麗な味わいを前面に出したピアノトリオである。どんな好みの人が聴いても、たぶん「いい」と言うだろう普遍性のある美しさがすごい。

 スローカムは2009年にデビュー作 「Portraits」 (レヴュー記事はこちら)をリリースしている。このときはクレイトンのピアノに加え、ウォルター・スミスⅢ (ts)、ジャリール・ショウ (as) など管も入った編成だった。そこからピアノトリオだけをおいしく抜き出したのがこの最新作だ。

 前作のスミスとショウもよかったが、ピアノトリオにして明らかに正解だろう。クレイトンの美メロが引き立つのはもちろん、トリオ編成にしたことで主役スローカムの繊細なドラミングも映えている。

叙情性と力強さを兼ね備えた打鍵感

 スローカムのオリジナルが6曲、その他3曲の計9曲。どれもデキがいいが、特に美メロの嵐なM-1とM-3、ノリのいいM-2、M-9、ベースのリフがかっこいいM-4が気に入った。録音はブルックリンのSystems Two Recording Studios、名手のマイク・マルシアーノがエンジニアを務めた。音質はとてもクリアで、立体感もあり満足度が高い。

 ピアノのジェラルド・クレイトンは、1984年オランダ・ユトレヒト生まれ。幼少時代にアメリカへ移住し、2006年のモンク・コンペで2位になっている。自身のレギュラートリオでは、ジョー・サンダース(b)とジャスティン・ブラウン(ds)という若手でピカイチのリズム隊が相棒だ。

 彼はいままでにデビュー作の「Two-Shade」(2009)、セカンドアルバム「Bond:The Paris Sessions」(2011)を発表している。どちらもおすすめだが、音楽的には断然後者を推したい。本盤はリーダー作ほど弾きまくりではないが、適度に抑えたこういうピアノも味がある。

 クレイトンは匂い立つようなリリカルな陰影感がちょっとケヴィン・ヘイズを思わせる。だが反面、ロバート・グラスパーのようなストレングス、パワフル感もある。リリカルで繊細でありながら、黒人ミュージシャン特有のアタック感と力強さが光る。美しいのに豪胆不敵、相反する要素を兼ね備えている。

 打鍵感に音の芯があり、力と美しさを併せ持つこういうピアニストって最近の人ではブラッド・メルドー以外ちょっと思い当たらない。ビル・エヴァンス~キース・ジャレット~フレッド・ハーシュ~マーク・コープランド~みたいな流れのリリカル&繊細タイプとはひと味違う。メルドー後はこの人で決まり、という感じだ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jochen Rueckert / Somewhere Meeting Nobody

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Mark Turner (ts)
Brad Shepik (g)
Matt Penman (b)
Jochen Rueckert (ds)

Rec. November 29-30, 2010, at Bennett Studios, NJ
Engineer: Jason Seizer (Pirouet Records PIT3055)

難解な哲学書を読む楽しみ

 このアルバムの存在意義は、難解な哲学書を読む楽しみに近い。濃いブラックコーヒーのように苦く口当たりの悪いこの音を聴き、「誰かわかりやすく解説してくれよ」と悲鳴を上げる人もいそうだが、答えは自分の頭で考えるものだ。その思考の過程を楽しむのもまたオツである。

 スタイル的には、テナーとギターがユニゾンでテーマを奏でる典型的な今どきのジャズだ。ただしかなり不思議系の音であり、暗く沈鬱で思索的である。「テーマなんてどこにあるの?」的な楽曲も多い。なので数回聴いたくらいじゃよさがわかりにくいが、何度も聴くうち洗脳されて手放せなくなる。最初は取っ付きにくいと思っても、ぜひ繰り返し聴き込んでほしい逸品だ。

 主人公であるドラマーのヨッケン・リュッカートは、手数は多いがアタック感がさらっと軽い。そのため音数は多くても周りの妨げにならず、楽曲のよさが映えるし他の演奏者も引き立つ。その意味では全面的にフィーチャーされたサックス奏者、マーク・ターナーのクールで無機的な魅力を存分に楽しめる作品ともいえる。

 リュッカートはドイツ・ケルン出身の1975年生まれ。現在ニューヨークで活動中だ。本作は自身のデビュー・アルバム「Introduction」(1998)に続くセカンド・リーダー作に当たる。

 彼はカート・ローゼンウィンケルのレギュラーグループにいたこともあり、またドリュー・グレス(b)とともにマーク・コープランド(p)のレギュラートリオで数作録音している。本盤のベーシストであるマット・ペンマンとは、ドイツ人トロンボーン奏者、ニルス・ヴォグラム率いるグループ「ROOT 70」でもコンビを組んでいる。

甘さのない 「不機嫌さ」 がありきたりじゃない

 リュッカートのオリジナル9曲に、その他2曲の全11曲。聴き手を拒むかのように甘さのない、不機嫌さに満ちたラインナップだ。特にM-1、M-2、M-6、M-10が印象に残った。

 アップテンポな4ビートのM-1は、元祖・浮遊派テナー、マーク・ターナーの面目躍如たる楽曲だ。ブラッド・シェピックの草食系なギターソロと、マット・ペンマンのごつごつしたベース・ソロも堪能できる。

 M-2は、ふんわり膨らむミステリアスナなテナーが心地いい。シェピックのギターソロも不思議な面白さにあふれている。ペンマンはM-1と打って変わって余韻を生かした叙情的なベースソロを聴かせる。

 涼しげなテーマが味なM-4では、またも前半でペンマンがソロを取る。引き継いだマーク・ターナーのサックスは、静的なスタイルの彼にしては意外にダイナミックだ。テナーとギターが繰り出すテーマのよさが際立つ佳作である。

 続くM-6も、ダークな本作にしてはテーマがメロディアスだ。中盤でシェピックが屈折したわびさび系のギターソロを弾く。好みがハッキリ分かれるギタリストだと思うが、彼のリーダー作がとても聴いてみたくなった。後半もテナーとギターが連動し、テーマを繰り返し強調してエンディングに行く。

 M-9は何かを訴えるようなテナーのリフレインで始まる。不安を煽り、急き立てるようなリズムの曲だ。ブラッド・シェピックのギターソロは、わかりやすくカタルシスをもたらすようなありきたりの演奏ではない。どこまでストイックに自分を抑え切れるか? で聴かせる珍しいタイプだ。バッキングもよく、マーク・ターナーと協力してモノトーンの色彩感をあたりに散りばめている。

 M-10はそのターナーを起用した理由がよくわかる曲だ。奇妙に明るいメロディーに乗り、ひょうひょうと踊るサックスが楽しめる。ベースラインは休符の使い方がいかにもマット・ペンマンらしい。彼の弾くベースがこの曲の浮遊感を決定付けている。

 さて締めのM-11にハービー・ハンコックの名作「The Sorcerer」を持ってきたあたり、このアルバムは60年代マイルスの硬質で禁欲的な世界を意識した作品だぞ、てなことなのかもしれない。はてさて。

わかる人にしかわからない世界もあっていい

 最後に断っておくが、本作には「伸びやかな明るさ」だの、「はじけるような楽しさ」なんていうわかりやすい要素はまったくない。ドライに乾いた無機的な音だ。掴もうとしても指の間からサラサラと流れ落ちてしまう、掴みどころのない砂のようなアルバムである。指でぎゅっと感触を確かめたいが、するりと逃げてそうさせてくれない。

 すなわち聴く人を選ぶ音楽であり、「キャッチー」などという言葉とはまるで対極にある音だ。ものすごく辛口の酒を客に出し、「どうだ、あんた。飲めないだろう?」というような作品である。

 きっとヨッケン・リュッカートは、「売れよう」とか「メジャーになろう」なんてカケラも考えてないのだろう。そういう生き方に強く共感を覚える。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jeremy Pelt / Soul

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Jeremy Pelt (tp,flh)
J.D.Allen (ts)
Danny Grissett (p)
Dwayne Burno (b)
Gerald Cleaver (ds)
Joanna Pascale (vo on 6)

Rec. September 29, 2011, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Joe Marciano (High Note HCD7233)

60年代マイルス風のダークな物憂さ

 注目の若手トランペッター、ジェレミー・ペルトが今年1月末に出したばかりの最新作だ。ダークで物憂い雰囲気と、決して熱くならないクールな演奏がトレードマーク。ここ数作、続けてきたいつもの作風である。惜しむらくは1曲だけ女性ヴォーカルを採用したのが疑問だが、全体的には水準を軽く超えるデキだ。

 ペルトは2008年にリリースした「NOVEMBER」から5人のレギュラーメンバーを固め、60年代マイルスにリラックス感を取り入れたようなアルバム作りをしている。この方向性で前々作「MEN OF HONOR」 (2010)、前作「The Talented Mr. Pelt」 (2011)と傑作を連発してきた。本作も基本的にはその延長線上にある。

 ペルトのオリジナルが6曲、その他2曲の計8曲。どれも甲乙つけがたいが、特にM-1~M-5が耳に残った。まずM-1は彼らしい物憂い曲調だ。J.D.アレンのテナー、それにペルトの2管がゆらゆらと漂いながらテーマを奏でる。その背後でドウェイン・バーノのベースと、ダニー・グリセットのピアノがキメをリフレインする。なんとなく聴き流してしまうが、このバンドの曲は意外に細かくアレンジされている。

 テーマのあと、いよいよペルトのソロが始まる。まどろむように力を抜き、夢の中を散策するようなリズムで吹く。続くアレンのソロもペルト同様、ゆったりリラックスしている。いい意味で脱力した彼のテナーには本当にうっとりしてしまう。アレンのプレイは自身のリーダー作より、このバンドでの演奏のほうが個人的には好みだ。

抑制的な演奏がツボにくる

 M-1と同様スローなM-3も、ペルトとアレンがいい味を出す。アレンのソロは潤いのある音色で、目いっぱい弛緩していて気持ちいい。ペルトのソロも音数が少なく、抑制的なところがツボにくる。

 一転してシリアスなM-4は、やや激しい曲だ。ドラムスのジェラルド・クリーヴァーがドカドカッと暴れて幕を開ける。クリーヴァーは前の3曲と打って変わって音数が多く、急き立てるようなリズムを叩き出す。アレンのソロもいつもの脱力した奏法でなく、やや力を込めて吹いている。ドラムスに呼応し、不安を煽るような音使いだ。グリセットのバッキングもテンションが高い。ゆるく気だるい曲が多い本作の中では、唯一、ナーバスで攻撃的な曲である。

 続くM-5はまたもゆったりしたテンポに戻り、フロント2管が心地よく揺らぐ。2管の短い掛け合いのあと、グリセットの美しいピアノソロが始まる。彼のこのソロは本作の中では飛び抜けていい。決してたくさん弾かず、音と音のあいだにできる間(ま)と漂うようなノリで聴かせる。続くアレンのサックスもグリセットと似た調子で、たゆたうように流れて行く。トリを務めるペルトのソロも力の抜き加減がたまらない。

 意外だったのはM-7だ。いかにもバップ的なありふれたブルース進行の曲で、彼らは今までこういう予定調和な曲はやらなかったので驚いた。ひょっとしたらコテコテに昔っぽいM-6の女性ヴォーカル曲と併せ、古きよき時代への回帰を強く打ち出した、みたいなことなのだろうか。

制作陣の交代で音質が見違えるほどよくなった

 サウンド面では、ここ2作続けて録音エンジニアを務めたルディ・ヴァン・ゲルダーがジョー・マルシアーノと交代した。ゲルダーの雰囲気作りはよかったが、音がこもりすぎていたのでいい決断だろう。新任のマルシアーノは、今回録音が行われたブルックリンにあるSystems Two Recording Studiosのオーナー兼エンジニアだ。業界では知られた存在である。またミキシングとマスタリングは、ペルトがMAX JAZZからリリースした「NOVEMBER」、「IDENTITY」でいい仕事をしていた内藤克彦が新たに担当している。

 制作陣の交代で音がかなりクリアになり、好評だった「NOVEMBER」の音質にぐっと近づいた。ゲルダーが録音からミキシング、マスタリングをすべて仕切った前作、前々作とくらべ、ベースの音階もはるかに聴き取りやすい。この調子で続けてほしい。

 さて一方、論議を呼びそうなのがジョアンナ・パスカルの女性ヴォーカルを取り入れたM-6である。彼女の歌は1950年代~60年代のトーチ・ソング (恋愛物のバラード) 歌手の雰囲気があり、確かにこのバンドの仮想年代とぴったりだ。だがこれは必要だったのだろうか? 私はいらないと思う。この曲を入れたことで、ごくふつうのノスタルジックな回顧調バンドに堕した感じがしてしまうのだ。

 このバンドはバリバリの現代ニューヨーカーが昔「風」の演奏をしている擬似性、ギャップが面白いのであって、何から何まで「昔そのもの」では芸がない。衣の下からチラリと新しさが覗くところがいいのである。確かに彼らは60年代マイルス風ではあるけれど、あくまで「今のバンド」なところがいいのだ。まさか「SORCERER」の『Nothing Like You』をパロったわけでもあるまいし。

 とはいえ3作前の「NOVEMBER」から、ずっと同じコンセプトで傑作をものにしてきた彼らである。90点を取り続けてきた子供が1回ぐらい85点でもいいじゃないか、とも思う。

 目新しい歌物のM-6やM-7のブルースを聴くと、「今までやってない新しいことをやらなきゃ」的な試行錯誤の跡が見え、このバンドも曲がり角かな? という気がしないでもない。だがそれでも本作がかなりのレベルであることには変わりない。ここはあえてエールを込め、「目先を変えようなんて考えるな。ブレるな、ペルト」と言っておこう。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Logan Richardson / Cerebral Flow

Logan_Richardson_Cerebral_ Flow

Logan Richardson (as,ss)
Mike Pinto (vib)
Mike Moreno (g)
Matthew Brewer (b)
Nasheet Waits (ds on 1,4,5,6,10)
Thomas Crane (ds on 2,3,7,8,9)

Rec. May 23, 2006, at Mike Sim Studio, NY
Engineer: Mike Sim (FSNT 278)

グレッグ・オズビーが激賞する若手アルト奏者

 現代ニューヨークのカッティングエッジな若手はこうだ、みたいなアルバムだ。フリーを消化したコンテンポラリージャズを目指すアルト奏者、ローガン・リチャードソンのデビュー・アルバムである。

 リチャードソンは1980年生まれで、参加メンバーのヴィブラフォン奏者マイク・ピントと同じバークリー音大卒だ。80年代にM-BASEを牽引したグレッグ・オズビーに「最も野心的で印象に残る」と賞賛され、2008年にはオズビーのINNER CIRCLE MUSICレーベルからセカンドアルバム「Ethos」をリリースしている。

 全10曲がすべてリチャードソンのオリジナルだ。フリー寄りのM-6、M-7、M-9は聴く人を選ぶが、この人はなかなかのメロディメイカーで最終曲まで聴き手を引っ張る。先の展開が読めない曲作りがエキサイティングである。アルバム全体を通してヴィブラフォンがよく効いており、その湿った音色が独特の雰囲気を演出している。

 まずM-1はノンリズムのサックス独奏に続き、ダークでかっこいいテーマで始まる。リズム隊はずっとテーマの繰り返し。シングルカット向けのつかみ曲だが威力は充分だ。

 一転してサックスが浮遊するM-2は前半こそ叙情的なバラードだが、次第に曲を崩し、怪しいリフレインが続いたかと思うと突然終わる。エンディングがショッキングだ。2分17秒の短い曲だが、なるほどこの曲は短くなければエンディングが生きない。

 M-3は弾きまくるギターのマイク・モレノがいい。彼は岩に染み入る静寂感をギターで表現できる稀有なプレイヤーだ。中盤はサックスとヴィブラフォンの激しい掛け合いから2人がユニゾンでテーマを奏で、最後は妖しいベースのリフで大団円に。このイレギュラーな楽曲の構成そのものが「不安」を暗示している。

 美しいバラードのM-5では、導入部から完全に空気をものにしたヴィブラフォンのソロがすばらしい。マイク・ピントは要チェックだ。リチャードソンのサックスも冒頭から美メロを聴かせている。終盤はサックスソロにドラムが反応し激しい盛り上がりへ。ドラマーのナシート・ウェイツを「デリカシーがない」と書いている人もいたが、まあ言いたいことはわかるけど彼はそれを狙ってやっていると思う。

展開の読めない構成がスリリングだ

 さていよいよ後半である。M-8はモノローグっぽいサックスで幕が開き、中盤でマット・ブリューワーのベースソロが聴ける。ベースの音質は適度にエッジが立ち、音の硬さも手頃でいい。

 マットは個人的にお気に入りの若手ベーシストだ。昨年秋、同じく大好きなドラマーのマーカス・ギルモアと共にゴンサロ・ルバルカバのトリオで来日していた。彼のベース・プレイは、マイク・モレノのアルバム「First in Mind」 (2011)、ウォルター・スミスⅢ 「Live in Paris」 (2009)などで聴ける。

 続くリチャードソンのサックスも何かを語りかけてくるようだ。不意に始まるヴィブラフォンのソロでは、後半のリズム隊によるリフレインがとても効果的である。おまけに最後はドラムソロまである。変わった構成の曲だ。

 切ないテーマが美しい叙情的な最終曲M-10は、「出そうだな」と思ったらやっぱりモレノのソロが出た。最後まで手探りするようにセンシティブなフレーズが展開する。モレノは本当に繊細なギターを弾く。で、そろそろ終わりかなと思ったら今度はヴィブラフォンのソロが始まった。展開がまったく読めない。あれっ、なるほど最後はテーマに戻るのね。大変失礼致しました。効果的です。

 もうエンディングか? と思いきや、誰かのソロでゾンビのように生き返る。さてこれからだと身構えれば、いきなり唐突に曲が終わる。予定調和を徹底的に拒絶するかのような奔放ぶりに、こっちはもうジェットコースターに乗った気分で身を委ねるしかない。

 前回レヴューしたラルフ・アレッシの「Cognitive Dissonance」もそうだったが、フリーのエッセンスをつまみながらもマニアックなひとりよがりに終わってないところがいい。売れることをやるのか? それとも自分のやりたいことをやるのか? これは芸術における永遠のテーマだが、プロは売りながらやりたいことを差し挟むのだ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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