このピアニストが好きだ

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メルドー、パークス、コープランドの牙城は固い

 マイ・フェイヴァリットなミュージシャンをランキングする第2弾は、ピアニストとギタリスト編であります。(管楽器は決めあぐね、なかなか出さないのは秘密です)

【ピアニスト編】

1. ブラッド・メルドー
2. マーク・コープランド
3. アーロン・パークス
4. ジェイソン・モラン (サイド参加限定)
5. ケヴィン・ヘイズ
6. ダニー・グリセット
7. ロバート・グラスパー
8. ジェラルド・クレイトン
9. ピート・レンディ
10.ラリー・ゴールディングス

 やはりランキングとなるとメルドーの軍門に下りました。4位のジェイソン・モランはすごいとは思うけど、リーダー作の世界について行けないのでサイド参加作限定です。ラリー・ゴールディングスはむしろオルガンで弾くベースラインが好きだったりするのですが、ジョンスコ 「Hand Jive」 (1994) でのピアノ・プレイで見直した経緯があります。

 若手の大穴は9位のピート・レンディ。この人はすごくいいからぜひ聴いてください。ホントはモンクとエヴァンスも入れたかったんだけど、時代がちがうのでバランス悪いし、まあいいかと。

【ギタリスト編】

1. ラーゲ・ルンド
2. マイク・モレーノ
3. アダム・ロジャース (サイド参加限定)
4. カート・ローゼンウィンケル
5. ジュリアン・レイジ
6. パット・メセニー
7. ジョン・スコフィールド
8. ウォルフガング・ムースピール
9. ジョナサン・クライスバーグ
10.ミシャ・フィッツジェラルド・ミシェル

 1位と2位の順位をどっちがどっちとつけられず困りました。アダム・ロジャースは大好きだけど、ジェイソン・モラン同様リーダー作にはついて行けないのでサイド参加限定です。彼らコンテンポラリー・ジャズギタリスト三羽烏のあとにはローゼンウィンケルが滑り込みました。

 5位のジュリアン・レイジは期待値込み。「 Dayna Stephens / Today Is Tomorrow 」のM-4を聴いた瞬間にやられたし、2枚のリーダー作もすごく鮮烈です。しかしこうしてみるとギタリストは若くていいのが次々出てるわけじゃないのがわかる(私が知らないだけ?)。メセニーやジョンスコあたりは、ほかの楽器ならそろそろハジかれる年代なのですが。

 さて残るは難題の管楽器か。決められなぃ。

(追記) 2012年6月20日付

 ギタリスト編では、Jesse van Rullerを見逃していた。リーダー作ではオーソドックスなスタイルの楽曲が多いのでなんとなく敬遠していたが……じっくり聴くと、よく歌ういいギターで歌心のあるすごいテクニシャンだ。あとSteve Cardenasも忘れてました(^^;
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Mike Moreno / Another Way

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Mike Moreno (el-g, ac-g)
Aaron Parks (p)
Warren Wolf (vib)
Mat Brewer (b)
Ted Poor (ds)

Chris Dingman (vib on 4)
Jochen Rueckert (ds on 1)

Rec. Aug 17-18, 2009 & Aug 16, 2011, at Avatar Studios, NY
Engineer: Anthony Ruotolo (World Culture Music)

モレノが仕掛ける夢幻の世界

 夢見るように時が過ぎて行く4枚目のニューアルバムだ。カート・ローゼンウィンケルを継ぐ若手No.1ギタリスト、マイク・モレノが仕掛ける夢幻の世界にたっぷり浸れる。翳りと愁いのある眩暈のしそうな佳曲が続き、コンテンポラリー・ジャズファンにはたまらない。

 テイスト的にはダークでミステリアス、ふんわり浮遊するノリが特徴だ。まだ彼が現代ブルックリン派丸出しでソフィスティケートされてなかった頃の初リーダー作 「Between The Lines」 (2007) に近いが、よりエレクトリックで線の太い演奏を楽しめる。

 本作は、ネットユーザにアルバム制作費のカンパを呼びかける資金調達サイト 「KICKSTARTER」 から生まれた。先日リリースされたジョナサン・ブレイクの新作といい (別頁あり)、この種のシステムでこのレベルの作品が誕生するのは歴史的だろう。インターネットのおかげで世の中はすごいことになってきた。

 参加メンバーはヒット作請負人のアーロン・パークス(p)のほか、ウォーレン・ウルフ(vib)の顔も見える。リズム隊は若手ベーシストのホープ、マット・ブリューワー(b)と、リーダー作 「All Around」 (2004) もあるNYの若手ドラマー、テッド・プワ(1981年生まれ)だ。ヨッケン・リュッカート(ds)も1曲だけ参加している。

楽曲の求心力が強くコンポジションに惹きつけられる

 全9曲すべてがオリジナル。自分の色を出し、ヘンにセールスを考えてないコンポジションだ。ピアノが光るM-1や、メランコリックなM-3~6が味わい深い。要所でパークスが絶妙のソロとバッキングを決めている。特にM-1、M-6、M-9のソロを聴いてほしい。

 おそらくパークスは、アレンジ面など裏であれこれ動いているのだろう。その証拠にキラー・チューンのM-6は、同じくパークスの参加作であるウィル・ヴィンソンの 「Stockholm Syndrome」 (2010) を思わせるアレンジが随所に見えた。モレノとパークスは雰囲気作りも近く、持ち味的に相性バッチリだ。

 もちろん主役のモレノは陰影感のあるいつものソロを連発している。特にM-4やM-6、M-9のパークスにインスパイアされたかのようなプレイは神々しく、神様が出そうだ。柔らかく広がりのあるバッキングもいい。ヴィブラフォンのウォーレン・ウルフもモレノ色に合わせて仕上げているし、ベースのマット・ブリューワーが非常にうまく曲の骨格を作っている。

 ドラマー2人は曲別のクレジットがないが、どの曲のドラマーがどっちかなんてどうでもよくなる。それほど楽曲の求心力が強く、コンポジションに惹きつけられる。

 ミディアム~スローの似た曲調が続き、やや変化に乏しいが、そんなこともどうだっていい。ただひたすら味わうのみ。ぶっちゃけ、過去作でいちばんキャッチーだったカバー中心のセカンド盤 「Third Wish」 (2008) みたいな親しみやすさはない。リスナーを突き放し、聴き手を選ぶ作品である。だがそのぶん飽きにくく、いつまでも味が出るスルメ化の香りも漂う。というか、まちがいなく最高傑作といっていいデキだ。

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マイ・フェイヴァリット・リズム隊ってだれ?

REUBEN ROGERS THINGS I AM

第1回人気投票ではハーランド&ロジャースが圧勝!

 ちょっと備忘録的に、好きなミュージシャンを書き留めてみます。私の場合、興味の大半はリズム隊なので、まず1回目はリズム隊編で。以下、各ミュージシャンを好きな順に並べてみた。「うまい順」じゃなく好みの順です。

【ドラマー編】

1.エリック・ハーランド
2.ケンドリック・スコット
3.グレッグ・ハッチンソン
4.ジョナサン・ブレイク
5.ビル・スチュワート
6.ヨッケン・リュッカート
7.ブライアン・ブレイド
8.ジャスティン・ブラウン
9.アントニオ・サンチェス
10.アリ・ホーニグ

※1位はハーランドの圧勝。上位は黒人ドラマーが並ぶ。この1~3位の時点でもうおなかいっぱいかも。ブレイド、サンチェス、ホーニグはもっと上でもおかしくないが、んなこた考えてたらキリがないのでこんなとこで。

【ベーシスト編】

1.ルーベン・ロジャース
2.ドリュー・グレス
3.ジョー・サンダース
4.ベン・ウィリアムス
5.マット・ブリューワー
6.ヴィセンテ・アーチャー
7.ラリー・グレナディア
8.マット・ペンマン
9.クリスチャン・マクブライド
10.オルランド・レフレミング

※1位は、不動のルーベン・ロジャース。あとは順不同でよし……じゃなかった(^^; サンダースとウィリアムス、ブリューワーは当ブログいち推しの若手なので、ややオマケ気味で妙に上位をマーク。グレナディア、ペンマン、マクブライドあたりは別にうちが推さなくても名前は売れてるのでこんなところか。

 さて、気が向いたらサックス編とかギター編とかも後日アップします。

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Gerald Cleaver / Gerald Cleaver's Detroit

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J.D.Allen (ts)
Andrew Bishop (ss,ts,bcl)
Jeremy Pelt (tp,flh)
Ben Waltzer (p)
Chris Lightcap (b)
Gerald Cleaver (ds)

Rec. December 18, 2006, at Barbes, NY
Engineer: Jon Rosenberg (FSNT 301)

ペルト作品を思わせるダークな裏名盤

 何度聴いても飽きない裏名盤だ。ジェレミー・ペルト・バンドでの活動でも知られるドラマーのジェラルド・クリーヴァーが、2007年にリリースしたセカンド・リーダー作である。メンバーが似ていることもあり、ペルトのバンドに近いダークなテイストがいい。

 参加メンバーはサックスにJ.D.アレンとアンドリュー・ビショップ、トランペットにジェレミー・ペルトの3管を配した。ピアノはベン・ウォルツァー、クリス・ライトキャップがベースを弾いている。

 本作はクリーヴァーが、移り行く自分の故郷・デトロイトにささげたオマージュだ。ブルックリンのジャズ・クラブ、Barbesでライブ録音されている。

 全13曲すべてがオリジナル。楽曲自体やベースライン、サックスのメロディーには、地獄で鬼が笑っているような乾いたユーモアが感じられる。4ビートや非4ビート、変拍子、ポリリズムといろんなものが混在するコンテンポラリー調だが、アルバムを通して聴くとはっきり統一感がある。

 フリージャズから歌伴まで雑食性の活動をしてきたクリーヴァーだが、本作は(背景に複雑な音楽的要素が隠されていても)一聴してわかりやすく、理屈ぬきで楽しめる内容にまとめている。むずかしいことをわかりやすくやって見せるのは、芸術においていちばん高度なことである。

 楽曲別ではベースのリフレインがユーモラスなM-2や、哀愁漂うバラードのM-3、奇妙な明るさのあるウォーキングベースのM-4、引っ掛かるようなリズムがおもしろいM-7、冒頭のバスクラリネットが印象的なM-8、速いテンポで畳みかけるM-10あたりが印象に残った。

メンバー全員が味を出し切った演奏だ

 クリーヴァーは1963年生まれ。元ウディ・ショウ・クインテットのビクター・ルイスに師事した。80年代から活動しており、90年代にはミシガン州立大学ジャズ学部で教鞭を取ったこともある。初リーダー作はFSNTからリリースした「Adjust」(2001)、本作はそれに続く第二弾だ。

 クリーヴァーはぞろぞろっ、ぞろぞろっ、という感じのルーズで独特なドラミングをする。こういうタイプのドラマーは初めて聴く。個性的だが、慣れればクセになるタイプだ。他のメンバーでは脱力系テナーのJ.D.アレンがおいしいのはもちろん、ジェレミー・ペルトが特にM-8、M-9でいい吹きぶりをしている。

 またピアノのベン・ウォルツァーもすごくよかったので、FSNTから出ているリーダー作何作かを試聴したが、別人みたいな内容で乗れなかった。残念だ。ベースのライトキャップはコリッとしたタイトな質感で、同じく印象に残った。ペルトのバンドのドウェイン・バーノより明らかに好みだ。

 最後になんといってもこのアバンギャルドなM-1に、ジェラルド・クリーヴァーの人生や生き様がすべて表れている。こんなつかみの悪い曲を冒頭に選ぶなんて、まったくどうかしてる。ふつうド頭の1曲目はキャッチーで売れ筋の曲を選ぶのがセオリーなのに。

「1曲目は耳に残る曲にし、ネット試聴してもらえたとき、つかみをよくしよう」とか、「街角の店先で1曲目を流してもらえたとき、通行人の印象に残る曲にしておこう」なんてことはカケラも考えてないのだ。この人はきっと「売れよう」なんて思ってないのだろう。

 というかどう考えても、彼はわざわざこの不気味な曲を1曲目に選んでいる。「お前ら、買うなよ」とでもいうかのように。お客を拒み、コマーシャリズムを大仰に否定してみせるかのように。ジャズ屋さんは変わった人が多いようだ。

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Marlon Browden Trio

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Pete Rende (p,wurlitzer)
Matt Pavolka (b)
Marlon Browden (ds)

Rec. December 14-15, 2000, at Avatar Studio, NY
Engineer: Aya Takemura (FSNT 115)

FSNTの隠れ名盤ピアノトリオ

 どストライクのピアノトリオだ。

 アマゾンでたまたま見かけ、ピアノがピート・レンディだったので試聴してみたら一発でツボにきた。FSNT方面に出没している若手ドラマー、マーロン・ブロウデンの初リーダー作である。かっこいいベースのリフレインを土台に、愁いのあるピアノが舞う新しいタイプのピアノトリオだ。

 3人とも派手なことはしないが、全員がユニットとしてがっちりまとまり、バンドの音楽になっている。ドラマーのブロウデンはリーダー作だがドラムソロをやるわけでもなく、まったく気負わずプレイしている。「ソロ? いや俺らのアンサンブルを聴いてくれよ」みたいなスタンスがとっても渋い。

 事実上の主役であるピアノのピート・レンディは音数少なめ、意味もなく速くたくさん弾いたりしない。大向こうを唸らせるようなアクロバチックな技巧でなく、味わいのあるおいしいフレージングと絶妙な間の取り方で勝負している。新しいタイプのピアニストである。

 彼の参加作 「Ignaz Dinne / Back Home」 (別頁あり) ほかですでに堪能していたが、ピアノトリオでじっくり聴いたのは今回が初めて。ぜひリーダー作を出してほしいし、もっとメジャーになっていいピアニストだ。

 また本作の核になる印象的なリフを弾き出すベーシストのマット・パヴォルカも、けっこうソロは取るが飽きさせず、コンパクトにうまくまとめている。

 ブロウデンのオリジナルが4曲のほか、Bjork曲、Avi Lebovich曲、Guillermo KleinとMiles曲メドレーの計7曲。尻切れトンボっぽく唐突に曲が終わったり、どこが頭でどこがお尻かわからなくなるM-6など、控えめでありながら耳を幻惑するアレンジもおもしろい。

 このアルバム、検索してもほとんど情報がないが、こんないい盤が人知れず埋もれているならFSNTは全試聴しなきゃだめだなぁ、てな気にさせられた1枚だった。

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Adam Kromelow / Youngblood

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Adam Kromelow (p)
Raviv Markovitz (b)
Jason Burger (ds)

Rec. April 9-10, 2011, at Tedesco Studios, NJ
Producer: Arturo O'Farrill (Zoho Music ZM201202)

ドラマチック(?)なNY最先端ピアノトリオ

 ピアノトリオというよりジャム・バンドに近いか? マンハッタン音楽院卒で、ヴィジェイ・アイヤーやジェイソン・モランに師事したというNYのピアニストAdam Kromelowのトリオ・デビュー作だ。「ピアノトリオでもこんなにうるさく演奏できるのか」という曲が多く、個人的にはちとキツかったが、あとはアレンジ次第だろう。

 HMVには「M,M&W的」、ディスクユニオン新宿ジャズ館ブログには「NYコンテンポラリーサウンドを展開」とあったので、どんなもんかと蛾が明かりに吸い込まれるかのごとく購入した。最初はやたらにうるさく感じ、放り出しかけたが繰り返し聴くうちいくぶん慣れてきた。

 これは少なくとも「ピアノトリオ」などという旧来の文法では言い表せない音だ。聴いていて思い浮かぶのは、ポストe.s.t.の呼び声が高いスイスの若手ピアニストStefan Rusconi率いるRusconi Trioとか、チェコの若手ピアニストIgor Prochazkaのトリオ。そのほかキリギスタン出身の若手ピアニストEldar Djangirovあたりとも共通項がありそうだ。ジャズよりむしろロックやフュージョンのノリにアンテナが向いていそうなポップさが近い。

問題は素材をどう料理するか 

 オリジナル6曲とビートルズ、セロニアス・モンク、ピーター・ガブリエル各1曲づつの合計9曲。本作としては珍しくオーソドックスな4ビートのM-2、美しいM-3(ただし前半限定。後半は異常にうるさい)、静かでメロディアスなM-7、とぼけた味のメロディーが非常にいいM-8が印象に残った。

 M-3の前半やM-7、M-8を聴くとAdam Kromelowにメロディメイカーとしての才能があるのは明らかだが、あとは素材をどう料理するかだろう。キャッチーにしようとして妙にこけおどし的になったり、意味もなくやかましくなったりしている感じがする。アレンジ過多なのだ。

 例えば曲の後半で盛り上げようとアップテンポになったりするが、作り手の狙い通りにはリスナーの気持ちが高ぶらないまま、単にうるさいだけで終わっていたり。ひとつ余分に弄くりたがるところが若気の至りというか、タイトル通り、まさにヤングブラッドである。

 M-3などはその典型で、最初はきわめて美しいメロディーをピアノが深々と奏で始める。で、おお、きれいな佳曲だなぁと思っていたら……途中からやたらドラマチックに一変し、うるさくなる。前半~中盤の静かな部分だけで締めたほうがはるかにいいのに捻り過ぎ、と思えてしまう。

 メロディーセンスはあるのだからもっと素材のよさを生かし、アレンジを抑えてしっとり作ればふつうの売れ筋ピアノトリオがいっちょう上がり、なのだが、でも彼らはきっとM,M&Wとか、トンガったほうに行きたいわけなんだろうな、たぶん。

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ジャズ業界は「破綻スパイラル」に突入してないか?

売れるのは50年代の巨匠の名盤か、甘いピアノトリオだけ

 ジャズ業界を本格的にフィールドワークしてそろそろ3年になるが、だいたいこの業界の構造が見えてきた。どうやら救いようのない破綻スパイラルに入っているようだ。

 売れるのは50年代の巨匠の名盤か、甘いピアノトリオだけ。お金は絶えず、もう死んでいるミュージシャンのアルバム購入に割かれている。このボリュームゾーンでは「復刻」などと銘打ち、手を変え品を変え何十年間も同じアルバムを売り続けている。ある意味楽な商売だ。

 その結果、若くて才能はあるのに誰もCDを買ってくれず、食えない有望ミュージシャンがあふれ出す。彼らはいつもハラを空かし、あえいでいる。

 マイク・モレーノやジョナサン・ブレイクみたいにセッションとなれば必ず呼ばれるNYの売れっ子クラスでも、自分のやりたいことはなかなかできない。レーベルから売れセンの物作りを要求され、自分を通そうと思えばネットでアルバム制作費のカンパを募らなきゃならない。でなければやりたいことができない。

 で、若く才能のあるミュージシャンが業界に定着せず、ニューヨークに出てきても数年で故国へ帰ってしまう。慢性的に人が育たない。もう死んでいる巨匠が売れ続けるだけで、若く将来性のあるプレイヤー層が(ビジネス的には)完全に空洞化している。このぽっかり空いた穴は非常に深刻だ。

 今ある果実をもぎ続け、未来を見据えた種まきをしないとどうなるか? いつかは収穫する果実がなくなる。だが新芽もまったく育ってないのだ。いったいどうするのか? その業界はただ消滅するだけだろう。

生きてるミュージシャンは誰も食えない恐怖のサイクル

 極論すれば、50年たってもマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスだけが売れ続け、生きているミュージシャンは誰も食えない。そんな破滅スパイラルに局面は入っている。

 とはいえゴッホや、往年の巨匠の画家あたりはみな死んでから売れた才人ばかりだ。芸術家はいつの時代も食えないもの。だがそれにしてもジャズの世界はひどすぎる。往年の名盤ばかりを持て囃し、新規需要を開拓しパイを広げてマーケットを育てる努力をずっと怠ってきた、日本のジャズ・ジャーナリズムの責任は途方もなく大きい。

 かと思えば他方、ひと握りの「上がった人」は往年の豪華メンバーで黄金のピアノトリオを結成し、年金稼ぎに余念がない。「復刻」の名盤を喜んで買う層はこういう黄金カードにからきし弱い。彼らは何の疑問もなく買ってくれる。

 で、こういうひと握りの幸運者はアルバムを出せば自動的に売れる成功スパイラルに入れる。ここにハマればだれだって抜け出せないし、別にそうする必要もない。いっちょう上がりだ。

この業界構造で音楽文化は育つのか?

 いや別に売れるのが悪いとかいう話じゃない。志の高い貧乏人はいつまでたっても貧乏で、ビジネスのうまい商売人が勝ち残る。往年の名盤と甘いピアノトリオを有り難がって買う側のメンタリティも、この救いようのない構造を強力に補完する役割を果たしてる。客観的に分析すれば、ただそれだけの話だ。

 だが果たしてこの構造の中で音楽文化は育つのか? さらにいえば、たとえ今はよくてもそう長続きしないだろう、という危惧もある。今は業界全体が潤わないながらもなんとかバランスを保っている。だがひとたび地滑り的な破綻が起これば、ジャズ業界がそっくりそのまま崩壊する可能性すらある。

 しかしだからといって社会主義国じゃあるまいし、「若いミュージシャンのCDを買いなさい!」なんて誰にも強制できないし、それはおかしな話だ。またジャズを楽しむために買ってるにすぎない1リスナーが、「業界かくあるべし」みたいなことを考えるのもナンセンスだってことは重々わかっている。

 だけど「好きなジャズがなくなるかもしれない」と考えると、矢も立てもたまらなくなるんだよねえ。まあ別にいいんだけどさ。

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