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Christoph Siegrist / Welcome To The Blue World

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Christoph Siegrist (tp)
Mark Turner (ts)
Aruan Ortiz (p, rhodes)
Massimo Biolcati (b)
Richie Barshay (ds, per)
Joshua Kwassman (as)

Rec. May 11-12, 2009, at Samurai Hotel Recording Studios, NY
Engineer: David Stoller (FSNT 389)

マーク・ターナー全面参加、60年代マイルスの世界

 鮮やかなアルバム・ジャケットとは対照的に、ダークでくすんだスモーキーな演奏が展開される。まるで60年代マイルス・クインテットの世界だ。ニューヨークで活動するスイス人トランペット奏者、クリストフ・シーグリストの初リーダー作である。

 しかしマーク・ターナーにこういうのを吹かせると右に出る者はいない。あるときは妖しく、またあるときはひょうひょうと個性的なプレイが冴え渡っている。楽曲的には、トランペッターのジェレミー・ペルトがやっているようなカラーに近い。

 メンバーはマーク・ターナー (ts) が全面参加しているほか、1995年にキューバ音楽シンポジウムでベスト・キューバン・コンポジションを受賞しているアルアン・オルティスがピアノを弾く。またバークリー出身のスウェーデン人ベーシスト、マッシモ・ビオルカティと、ハービー・ハンコック・カルテットでの活動で知られるドラマーのリッチー・バーシェイがリズム隊を組む。

 主役のシーグリストは力強く文句なし。反対にピアノのオルティスはアタックが弱く1音1音の粒が立っておらずやや物足りない。ベースのビオルカティは今まで聴いた中ではいちばん自分のキャラに合うプレイをしており、ドラマーのバーシェイは小ワザ満載で引き出しの多さが光っている。

 オリジナル6曲とマイルス曲2曲の計8曲。「キリマンジャロの娘」収録のM-4、「Workin’」収録のM-8を取り上げているところを見ると、やはりマイルスに対する想いが強いのだろう。オリジナル曲はどれもビターで緊張感の高いテイストで統一されている。マイルスの、というより60年代のウェイン・ショーターが好みの人ならツボにきそうだ。
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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Richard Andersson / Sustainable Quartet

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Tony Malaby (ts)
Sullivan Fortner (p)
Richard Andersson (b)
Roggerio Boccato (ds)

Rec. May, 2009, at Acoustic Recording, NY
Engineer: Michael Brorby (blackout 024)

トニー・マラビーが咆哮するフリーとスタンダードの融合

 フリージャズがだめな人でもこいつはイケる。マンハッタン音楽院出身のデンマーク人ベーシスト、リチャード・アンダーソンの初リーダー作。トニー・マラビーの 「これでもか」 という圧倒的な存在感が光っている。

 フリー・インプロヴィゼーションによる3曲を、オーネット・コールマン作の3曲とスタンダードの合間にうまく散りばめ聴きやすく構成した。M-1はスティーヴ・スワロウ作曲の名曲 「Falling Grace」 。M-6のオリジナルは非常に美しく、肉感的に歌うテナーがズシンと脳にくる。

 それにしてもマラビーはさすがだ。艶と潤いのあるおおらかな音色で、波のようにぐいぐい聴き手を引きずり込んで行く。フリー・インプロではイマジネーション豊かに切れまくり、普通の4ビートでもエネルギー感たっぷりにグルーヴする。

 モーダルで挑戦的なピアノを弾くサリヴァン・フォートナーもいい。彼はロイ・ハーグローヴのクインテットで毎年のように来日しているようだ。一方、主役のアンダーソンとリズム隊を組むブラジル人ドラマーのホジェリオ・ボッカートはパーカッショニストとしても知られており、最近ではデヴィッド・ビニーの 「Graylen Epicenter」 (2011) にも参加していた。

 デンマークの Blackout レーベルからリリースされた本作は音質も素晴らしく、広がりと立体感のある演奏が楽しめる。 「フリーはちょっと」 という人でもお近づきになれそうな1枚だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Danny Grissett / Stride

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Danny Grissett (p)
Vicente Archer (b)
Marcus Gilmore (ds)

Rec. January 17, 2011, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1337)

熱くならない抑制の効いた現代ピアノ・トリオ

 ダニー・グリセットのリーダー作の中で最も賛否の分かれそうな最新作だが、個人的にはいちばん面白みを感じる。ひとことでいえば端整でクールな作品だ。

 それまで熱く躍動するふつうのピアノ・トリオをやっていたグリセットが、3管セクステットに挑んだ前作 「Form」 (2009) あたりで 「今までとちがうことをやろう」 と考え始めたのだろう。で、今回はレギュラートリオのドラマーを熱血系のケンドリック・スコットから屈折系のマーカス・ギルモアに替え、淡々と熱くならない抑制の効いた現代的なピアノ・トリオをやっている。

 グリセットは王道路線だった過去のリーダー作もよかったが、サイド参加しているジェレミー・ペルト・グループでの漂うような気だるいプレイが気に入っていたので本作はタイムリーだった。

 全8曲中オリジナルは3曲と少ないが、他人の楽曲もアルバム・コンセプトに合わせてうまく消化している。ショパンの曲まであるが本作のテイストに馴染んでおり、まったく違和感はない。パッと聴いてすぐ 「いい!」 と感じるキャッチーなアルバムとちがい、こういう玄妙な作品は聴けば聴くほど味が出る。

 それにしてもマーカス・ギルモアの繊細で細やかなドラミングにはうっとりさせられる。音数は多いがそれがまったく嫌味にならず、うるさく感じさせない。アタック感が軽やかで耳に障らず、1打1打に微妙な抑揚をつけて変化を持たせている。

 かたやヴィセンテ・アーチャーのベースは音の太さとノリ、音色が理想に近く文句なし。本作は 「熱くハジけるふつうのジャズには飽きたなぁ」 という人にはうまくハマるかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Nate Radley / The Big Eyes

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Nate Radley (g)
Loren Stillman (as)
Pete Rende (fender rhodes)
Matt Pavolka (b)
Ted Poor (ds)

Rec. September 21-22, 2010, at Exile Recording, NY
Engineer: Matt Marinelli (FSNT 395)

これぞブルックリン、奇妙な味の思索系ギタリスト

 不思議なメロディーとグルーヴが連鎖する催眠のような音の断片。物語性のあるテーマとリフが頻出する。そこにはどんなストーリーが隠されているのか? 頭で考えさせられる思索系の現代ジャズだ。ブルックリンを拠点に活動するギタリスト、ネイト・ラドリーの初リーダー作である。

 躍動感とは程遠い今にも止まりそうなグルーヴがぎくしゃく波打ち、いかにもブルックリンな先っぽ感を演出する。魂を抜かれたかのように無機的なギターとアルトがユニゾンでテーマを奏でたり、彷徨うようにソロを取る。非4ビートを中心に全9曲すべてオリジナル。クールに醒めたストイックなコンテンポラリー・ジャズだ。

 メンバーは、まずリー・コニッツを思わせるアルト奏者、ローレン・スティルマン。次にピアノのピート・レンディとベースのマット・パヴォルカは若手ドラマー、マーロン・ブロウデンのリーダー作 「Marlon Browden Trio」 (2001年、レヴュー記事はこちら)でも顔を合わせている。

 最後にドラマーはマイク・モレノの 「Another Way」 (2012年、レヴュー記事はこちら)にも参加していたテッド・プアだ。彼はため気味のバスドラとスネアで独特のグルーヴを生み出し、メリハリの利いたいいドラミングをしている。

 主役のラドリーはボストンのニューイングランド音楽院で学び、ジョン・アバークロンビーやボブ・ブルックマイヤーなどに師事。その後、ローレン・スティルマンのバンド 「バッド・タッチ」 に参加している。ちなみにテッド・プアやゲイリー・ヴァセイシなども 「バッド・タッチ」 のメンバーである。

 ラドリーは、パット・メセニーやギラッド・ヘクセルマンのようにうまくて速い華麗な王道系ギタリストとは対極に位置している。音をのったり置きに行くことで奇妙な味を醸し出す。ブラッド・シェピックあたりと同様、ハマるとクセになりそうな個性派ギタリストだ。ブルックリン、思索的、ストイックというキーワードにピンときた人にはおすすめである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

John Yao Quintet / In the Now

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John Yao (tb)
Jon Irabagon (ss, as)
Randy Ingram (p, fender rhodes, org)
Will Clark (dr)

Rec. August 30-31, 2011, at Systems Two, NY
Engineer: Michael Marciano (INNOVA 823)

ジョン・イラバゴンが猛り狂う2管クインテット見参!

 ニューヨークで活動するアジア系トロンボーン奏者、ジョン・ヤオのデビュー盤だ。どことなくブラックユーモアを漂わせる作風である。全8曲オリジナルだが、アレンジで楽曲に変化をつけて聴き手を飽きさせない。コンポーザーとしての引き出しが多く、アルバムを通してかなりバリエーション豊富な印象を与える。

 わりにオーソドックスな都会派現代ジャズをベースに、アレンジでひと捻りして聴かせるコンテンポラリー・ジャズだ。予想したほどブルックリンっぽいトンガった感じはない。アドリブ部分ではヤオとイラバゴンがもつれながらバトルするパターンを多用し、演奏をヒートアップさせている。 

 メンバーはサックスに2008年モンクコンペ優勝者のジョン・イラバゴンのほか、モーダルで印象的なピアノを弾くランディ・イングラムにも注目したい。主役のヤオは1977年シカゴ生まれ、2005年にニューヨークへ進出している。

 M-1はベースの冷静なリフレインが印象的だ。途中で速いウォーキングベースになり意表を突かれる。曲想がおもしろい。M-3は美しく静かに幕を開けるが、むせび泣くようなトーンから次第に狂ったように吹きまくるイラバゴンと、ヤオの掛け合いが聴き物だ。ベースソロも聴ける。

 M-4は怪しいベースのリフレインに乗り、イラバゴンがねじれるように荒れ狂う。一方、ダークな雰囲気をまとうベースのリフがかっこいいM-8は、速射砲のようなイラバゴンがすごいことになっている。先発ソロのヤオもいい。

 このほか妖しいピアノソロが聴けるM-5とM-6、漂うような美しいバラードのM-7も印象に残った。エンジニアのマイケル・マルシアーノが手がけた音質もよく、退屈な曲は1曲もない。万華鏡のようなめくるめくコンポジションに乾杯だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Clarence Penn / Dali in Cobble Hill

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Clarence Penn (ds, per)
Chris Potter (ts, ss, bcl)
Adam Rogers (g)
Ben Street (b)

Rec. February 2, 2012, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1350)

ポッター&ロジャース炸裂、苦み走ったハードボイルド野郎たちの饗宴

 ブラックコーヒーのように苦み走った作品だ。冒頭から暗くダークな演奏がアグレッシヴに疾走する。最近のNYの若手のように淡白な草食系でなく、脂ギッシュなコクうま系である。

 思わずメンツ買いしてしまいそうな顔ぶれも目を引く。アダム・ロジャースのギターはひさしぶりに聴いたが、相変わらず素晴らしい。クリス・ポッターもダイナミックに吹きまくっている。彼ら2人のよさが際立つ。

 主役のクラレンス・ペンも劣らずエネルギッシュなドラミングを見せており、ベースのベン・ストリートがひたすら全体のバランスを取っている。基調になるリズムは凝っているが、あまり細部までかっちりアレンジしてしまわない自由度の高い演奏だ。

 オリジナル8曲にその他2曲の計10曲。後半にブルース調の明るい楽曲を配置している。全員が突っ走るノリのM-1では、手探りしながら入ってくるアダム・ロジャースのギターソロが痺れる。M-2は吹きまくるポッターに続き、静々とスタートするロジャースのソロがいい。途中でおもしろいキメが入る。

 ほかにはポッターが躍動的な吹きぶりを見せるブルース調のM-5、めまぐるしく速いテーマがスリリングなM-6、冒頭からサックスとギターのコンビネーションがシュールなM-7が耳に残った。

 エンジニアのマイケル・マルシアーノはカラッと乾いたハッキリ感のある音質に仕上げているが、右chのシンバルがやや耳につく。ジョー・サンダースの 「Introducing Joe Sanders」(2012年、レヴュー記事はこちら) を手がけた時と同じく、帯域バランスが少し高域寄りで低域が薄い。

 そのせいでベン・ストリートのベースの音質がふだんとかなりちがう。いつもは密度感のあるぶっとい輪郭の見えない音だが、本作では量感がなく微かにエッジが感じられる。ベン・ストリートのこういう音を聴いたのは初めてだ。前出、サンダース作品のレヴュー記事で「マイケル・マルシアーノは波がある」と書いたが、本作も痛し痒しの音質といえるかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Matteo Sabattini MSNYQ / Metamorpho

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Matteo Sabattini (as)
Mike Moreno (g)
Aaron Parks (p)
Matt Clohesy (b)
Obed Calvaire (ds)
Chris Potter (ts on 4)

Rec. 2011, at Park West Studios, NY
Engineer: Jim Clouse (FSNT 401)

モレノ、パークスらNYオールスターズが贈るバラード集

 ニューヨークで活動するイタリア人アルト奏者、マッテオ・サバティーニのセカンド・リーダー作だ。デビュー作は同じFSNT発の 「Dawning」 (2010年、レヴュー記事はこちら)。前作よりしっとりした内容になっており、大人のバラード集という趣だ。

 メンバーは前作に引き続きマイク・モレノ (g)、マット・クローシー (b)、オベド・カルヴェール (ds)に加え、新たにアーロン・パークス (p)が参加している。またゲストとしてクリス・ポッターがM-4で吹いているのも話題だ。

 まず一聴してパークスが入るとこんなにバンドが締まるのか、という感じ。前作とくらべ、かっちりアレンジされた比率が高くなっている。おとなしい曲が多く前作のような派手さはないが、個人的にはこちらの方が好みだ。

 なによりドラムスの出番が少ないバラードが増え、前作ではドカドカうるさかったカルヴェールのドラミングが必然的に抑えられ、楽曲が聴きやすくなったのが大きい。淡々と感情を抑制したような持ち味のサバティーニのアルトも、こういう静かな曲調のほうが明らかにマッチしている。

 ピアノとアルトだけのデュオ曲(M-5)や、アコギとアルトのデュオ曲(M-8)など、ドラム・レスの曲を入れているところを見ると、リーダーのサバティーニもドラマーの処遇を持て余しているのかもしれない。ホットに暴れるカルヴェールとクールに醒めたサバティーニでは正反対の志向性で水と油だし、今後も本作のような静的な方向で行くならドラマーがカルヴェールである必然性はまったくないからだ。アルバムタイトルの「Metamorpho」は変身、転生みたいな意味だが、「今後はバンドの方向性を変えるぞ」ということなのかもしれない。

 オリジナルが9曲に「Body & Soul」の合計10曲。M-2の 「Tears Inside」 はマイケル・ブレッカーに捧げられている。M-1ではギターとベースのリフを土台に、さっそくパークスが必殺のピアノソロを見舞う。彼はM-7、M-9でも陰影感のある痺れるソロを弾いている。

 一方、M-2はモレノの物悲しいギターソロでぐっと腰を落として聴く気にさせられる。モレノはM-9でも、先発のパークスにインスパイアされたかのような映えるソロを弾いている。なんだかパークスとモレノを聴いてるだけで満足してしまう1枚だ。

 前作ではドラムが気になり耳に入ってこなかったマット・クローシーのベースもよく聴こえる。相変わらずいいベースだ。ドラマーが曲調に合わせてアクセントをつけるだけで、これだけ同じバンドが変わるのだから音楽はおもしろい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Matteo Sabattini MSNYQ / Dawning

Matteo Sabattini MSNYQ  Dawning

Matteo Sabattini (as)
Mike Moreno (g)
Lage Lund (g on 7)
Kristjan Randalu (p)
Matt Clohesy (b)
Obed Calvaire (d)

Rec. May 25-26, 2009, at Park West Studios, NY
Engineer: Jim Clouse (FSNT 380)

ドラマーの迷演が光るイタリア人アルト奏者のデビュー作

 ニューヨークで活動するイタリア人アルト奏者、マッテオ・サバティーニのデビュー作。だがうるさいドラミングがせっかくのオリジナル楽曲を壊しており、「やっちゃった感」のある作品だ。

 メンバーはマイク・モレノ (g) 、マット・クローシー (b)、オベド・カルヴェール (ds)に加え、ラーゲ・ルンドがM-7にゲスト参加している。メンツだけ見るとマーケティング的にはおいしいアルバムといえる。

 オリジナル6曲に 「Estate」、「The Nearness Of You」の合計8曲。M-1の 「Estate」 は、テーマは耳タコだがアルト・ソロに入るとなかなか聴ける。途中からリズムが変わりモレノの弾むようなギターソロへ。選曲自体は疑問だが各人のアドリブはいい。

 M-2は音数が多くバタバタうるさいドラムスが耳障りな曲。インタープレイというより自己陶酔の世界だ。一方、ここでのモレノのソロは手クセが多く、手垢がついたフレーズのオンパレードで珍しく今ひとつ。

 M-3は美しいメロディーだが、一手、二手、手数が多すぎるドラムが気になり素直にテーマに乗れない。M-4はまたもドラムの音数爆弾が大炸裂。こんなデリカシーのないドラマーはひさしぶりに聴いた。やれやれ、である。

 同じように音数の多い激しいプッシュをしても、エリック・ハーランドやビル・スチュワートのように「手数が多い=うるさい」と感じさせない抑揚のついたアクセントの多彩さがあれば別の話だ。彼らは手数の多さを「興奮」へと導き出せる。だがカルヴェールはただ「手なり」で何も考えず音符を詰め込んでいるだけに見える。これだけ一本調子では疲れるだけだ。

 個人的にはマット・クローシーのベースも楽しみにしていたのだが、ドラムの音が耳障りでさっぱり聴き手の視界に入ってこない。主役のサバティーニもデビュー作をさんざん荒らされて気の毒だなぁ、と思ったら……なんと続くセカンド・リーダー作 「Metamorpho」 (2012年、レヴュー記事はこちら) でも同じドラマーを起用している。非常に驚いた。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Nathaniel Smith Quartet / Nathaniel Smith

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Jon Irabagon (sax)
Jostein Gulbrandsen (g)
Mark Anderson (b)
Nathaniel Smith (ds)

Rec. March 2007, at Kaleidoscope Sound, NJ
Engineer: Michael Brorby (FSNT 371)

ちょっとファニーで冷たく灰色にくすんだ世界

 寒さに首をすくめる主人公と淡く霞んだ配色のアルバム・タイトル。このジャケット写真が内容をよく表している。前回レヴューしたノルウェー人ギタリスト、ヨステイン・グルブランドセンの 「Twelve」 (2007年、レヴュー記事はこちら) と同様、冷たく灰色にくすんだ世界が展開される。

 メロディとリズムがファニー&ダークで今っぽい。奇妙な味の無調性っぽい音使いが連続する。ホットに躍動するジャズが好みの人にはおすすめしないが、侘びサビ系の醒めたジャズが好きな人にはたまらない。メンバーは、まずドラマーのナサニエル・スミスがリーダーを務める。また前出、「Twelve」でも顔を合わせたヨステイン・グルブランドセン (g) と、2008年モンクコンペ優勝者のジョン・イラバゴン (sax) が参加している。

 オリジナル5曲に、ギターのグルブランドセンが2曲を持ち寄り合計7曲。M-2は道をさ迷うようなリズムのギターとサックスの掛け合いになるが、往年のジャズのような「熱い応酬」でなく、とぼけた軽い感じなのが現代的でおもしろい。

 M-3は、全員が傾きながらよろけるリズムで演奏する滑稽さが味。速くて長いテーマが続きイラバゴンがドルフィー化するM-5や、本作では唯一明るい曲調でひょうひょうとしたテーマのM-6も耳に残った。どの曲も水準をクリアしている。

 サックスのイラバゴンは、オーネット・コールマンとエリック・ドルフィーを足して2で割ったような挑戦的なプレイをする。一方、ヨステイン・グルブランドセンはサイド参加とあってリーダー作ほど自分の色を出してない。楽曲のコンセプトに合わせて演奏している感じだ。とはいえ所々に空間系ギタリストとしての素顔が垣間見える。

 リーダーのスミスは自分のアルバムとは思えないほど抑えたプレイぶりがとても心地いい。軽やかなグルーヴのよいドラマーだ。コンポーザーとしてもプレイヤーとしても次回作が楽しみになってきた。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jostein Gulbrandsen / Twelve

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Jostein Gulbradsen (eg, ag, fretless g)
Jon Irabagon (ts, cl)
Eivind Opsvik (b)
Jeff Davis (ds)

Rec. March 12, 2006, at Peter Karl Studios, NY
Engineer: Peter Karl (FSNT 291)

北欧の曇り空を音にするノルウェー人ギタリスト

 ニューヨークで活動するノルウェー人ギタリスト、ヨステイン・グルブランドセンのギターをひとことで言い表すとすれば、「寂寥感」だ。いかにも北欧を感じさせる寒色系の音色で、ほとんど陽の差さないうら寂しい曇り空のようなギターを弾く。デビュー作ながら強烈な個性である。

 メンバーは、サックスに2008年モンクコンペ優勝者のジョン・イラバゴン、リズム隊はトニー・マラビーとの共演で知られるアイヴィン・オプスヴィーク (b) とジェフ・デイヴィス (ds) のコンビだ。

 グルブランドセンはマンハッタン音楽院出身で、2001年からニューヨークで活動している。本作に続き、2011年にはセカンド・リーダー作 「Release of Tension」 をリリースしており、サイド参加作としては「Nathaniel Smith Quartet」 (2011年、レヴュー記事はこちら) などがある。

 オリジナル7曲に、ロックバンド・ポリスの1曲を含む計8曲。まずM-1はギターとサックスがユニゾンで奏でるウネウネしたテーマがおもしろい。オーネット・コールマン風味のテナーと、ベースのリズムに諧謔味があるM-2も不思議な魅力にあふれている。

 M-4はオーソドックスな速い4ビートで、ギターとテナーがテンションの高いソロを決める。続くM-5はオプスヴィークが弓弾きするベースのリフレインがもの悲しく、ギターとクラリネットによるユニゾンのテーマも非常に美しいメランコリックな逸品だ。

 またポリスのヒット曲 「Message In A Bottle」 を大胆なアレンジで聴かせるM-6は、ミュートを利かせたベースと単弦弾きでパッキングするギターのからみが効果的。途中フリーっぽくなり迷宮の世界へ行くが、すぐ立ち直りストンと終わる。

 一方、アコースティック・ギターをフィーチャーしたM-3やM-8は、侘びサビに満ちあふれ味わい深い。 「アルバム構成に変化をつけるために入れました」 的な間に合わせのアコギ曲は多いが、この人のアコギ演奏ははっきり必然性を感じさせる。

 グルブランドセンはめったに速いフレーズを弾かず、独特の間を取りながら噛み締めるように音符を紡いで行く。スペースを生かしたプレイが印象的だ。彼にからむイラバゴンのテナーは時に狂気を感じさせ、オプスヴィークとデイヴィスのリズム隊は超強力で太くずっしり重い。ここ数ヶ月間でダントツに刺激的だった1枚。おすすめである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Sam Yahel / Hometown

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Sam Yahel (p)
Matt Penman (b)
Jochen Rueckert (ds)

Rec. October 22, 2007, at Acoustic Recording, NY
Engineer: Nick O'Toole (Posi-Tone Records PR8048)

ノリノリのヤエルがピアノトリオで明るく躍動する

 オルガン奏者、サム・ヤエルがピアノトリオに取り組んだアルバムだ。同じくピアノトリオ編成でリリースした次作の 「From Sun To Sun」 (2011年。レヴュー記事はこちら)と対になるような作品である。

 次作とは対照的に、明るくノリのいい楽曲構成が目立つ。両盤をくらべるとハデな本作の方が広く支持されそうだが、個人的にはヤエルのリリカルな一面をあぶり出した深みのある次作の方が好みだ。

 ヤエルとタッグを組むリズム隊は、マット・ペンマン (b) とヨッケン・リュッカート (ds)。エネルギッシュな行け行け調の本作では、特にペンマンが作り出すあの独特のグリグリした跳ねるリズムがキーになっている。

 オリジナルが3曲に、モンクやエリントン、ウェイン・ショーター曲など計10曲。M-1の「Jealous Guy」は言うまでもなくジョン・レノンの名曲だが、耳タコなテーマ部を聴くと何でいまさら感が漂う。ところがピアノのアドリブに入ると途端に叙情的なめくるめく世界になり、「さすが」と思わせる。

 ほかには陽性でブルージーだが途中から妖しいフリーの雰囲気に豹変するM-3、速射砲のような速弾きが炸裂するアップテンポのM-4のほか、リズム隊の強烈なプッシュに乗りピアノがアクレッシブに攻めまくるM-6、ショーターの「United」を躍動的に聴かせるM-8が耳に残った。

 キャッチーで明るい本作はつかみもよく、パッと聴いた瞬間に「いい!」と感じるタイプの作品だ。その意味では理屈ぬきで楽しめる1枚といえるだろう。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Toma 4

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Ivan Santaeularia (p)
Yeray Hernandez (g)
Santiago Acevedo (b)
Ramiro Rosa (ds)

Rec. February 5-6 2007 and December 10 2008, at Estudis Laietana, Barcelona
Engineer: Jordi Vidal (FSNT 316)

多国籍ギター・カルテットが演じる新しい4ビート・ジャズ

 アルゼンチンのブエノスアイレス、コロンビアのボゴタ、スペインのバルセロナ、テネリフェ出身の若手ミュージシャンが結成したギター・カルテットのデビュー盤だ。

 4人が持ち寄ったオリジナル9曲、モンクの 「Monk's Dream」 の合計10曲。4ビートをベースに現代的なアレンジを施した作風だ。といっても奇をてらったような楽曲はなく、一部にラテンのテイストを取り入れながらも割と正攻法の4ビートで攻めている。

 なかでも特にスパニッシュなテーマのM-2がおもしろい。またバラードのM-8は美しいキラーチューンで印象に残った。ピアノが余韻を生かしたいいソロを取る。対してメインのソリストはギターだが、スタイルはけっこうオーソドックスである。

 演奏は全体に各国の混成チームなこともあり、特定の「臭い」がしない無国籍的な音だ。

 ベテランが演奏するスムーズなふつうの4ビートと違い、どこかギクシャクしているのだが、そのギクシャク感は意図的に狙って作られたものだろう。ドラマーが巧妙に陰で糸を引いている。

 熱くエネルギッシュなジャズでもなければ、クールに醒めた屈折系のジャズでもない。あえてカテゴライズすれば前者だが、そっちへ分類するにはいささか熱量が足りない。そんなどっちつかずのユルユル感が彼らの個性である。そう考えれば、新しい世代による新しい4ビートの解釈を示した作品といえるかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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Author:Grass hopper
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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