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David Binney / Graylen Epicenter

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David Binney (as, ss, vo)
Gretchen Parlato (vo)
Ambrose Akinmusire (tp)
Chris Potter (ts)
Wayne Krantz (g)
Craig Taborn (p)
Eivind Opsvik (b)
Brian Blade (ds)
Dan Weiss (ds)
Kenny Wollesen (per, vib)
Rogerio Boccato (per)
Nina Geiger (vo)

Released. 2011, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Mike Marciano (Mythology Records MR0008)

キラ星のようなメンバーが眩しいビニーの力作

 アルト奏者、デヴィッド・ビニーが (おそらく) 自分のやりたいことをやった上で勝負した作品としては最高ランクに位置するのではないか? あのクリスクロス・デビューを飾ったアルバム 「Bastion of Sanity」 (レヴュー記事はこちら) がセールスを考えた上での 「狙った傑作」 だとすれば、本作は彼が真っ向勝負してできた傑作といえるだろう。

 ヴォーカルあり、白熱の掛け合いあり、10分を超す長大な楽曲あり。アレンジも凝りまくりでバラエティに富む。7分以上もあるM-9のように盛り上がりながら難解モードに突入しても、途中で曲調をガラリと変え、聴き手を飽きさせない工夫をしている。翳りを帯びたメロディとちょっとシュールな雰囲気はいつも通りだが、「今回は引き出しを全部あけました」という総まくり感が賑々しい。

 全10曲すべてオリジナル。クリス・ポッター (ts) 以下、多彩な参加メンバーがそれぞれよさを発揮している。ウェイン・クランツ (g) はM-2で、空間を感じさせるスペイシーなギターソロを弾く。M-3ではビニーとクレイグ・テイボーン (p) が渾身のバトルを繰り広げ、かたやM-8ではグレッチェン・パーラトが相変わらずのワン・アンド・オンリーな痺れるヴォーカルを聴かせている。

 圧巻は2人のドラマー、ダン・ワイスとブライアン・ブレイドによるM-1とM-9のツイン・ドラムスである。M-1は壮大なスケール感で、M-9は楽曲冒頭の掛け合いの妙味がとても効果的だ。

 ワイスに刺激されたのか、ブレイドのドラミングがすごくいい。M-3のバスドラを踏むタイミングやリズムパターンもおもしろい。ひさしぶりにブレイドのすごさを聴かせてもらった感じだ。

 レコーディング・エンジニアは、名手マイク・マルシアーノ。だが惜しいかな、音が中高域に偏り低域が弱いため、アイヴィン・オプスヴィークが弾くベースに量感が足りない。また曲によってはドラムも遠い。

 例えばM-5とM-6ではドラムの音量がけっこう違う。そのため 「アルトはすごく手前で聴こえるが、ドラムははるか後方で鳴っている」 みたいな現象が起こる。まあそれだけ「奥行き感がある」ともいえるが、低域の量感不足を除けば解像感もあり音質はいいだけにもったいない感じがした。

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『David Binney / Barefooted Town』
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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Loren Stillman Quartet / How Sweet it is

1

Loren Stillman (as)
Russ Lossing (p)
Scott Lee (b)
Jeff Hirshfield (ds)

Rec. May 15, 2001, at Acoustic Sound, NY
Engineer: Michael Brorby (Nagel Heyer 2031)

浮遊する虚脱した奇妙なアルト

 ふわふわした浮遊感に乗り、奇妙でこっけいなメロディが続く。要所でラス・ローシングがド速いパッセージの超絶ピアノソロを見舞う。またあるときは曲の途中でテンポが失なわれ、フリー・インプロヴィゼーション寸前へ行く。トンガリ感満点、アルト奏者ローレン・スティルマンの初期傑作である。

 クールに醒めた吹きぶりはリー・コニッツを思わせる。だが反面、調子っぱずれでユーモラスなところはオーネット・コールマン~ジョー・ロヴァーノ系でもある。温かみをまったく感じさせない音色や、エネルギー感のない虚脱したプレイスタイルがいかにもNYコンテンポラリー的だ。

 全8曲すべてオリジナル。M-1とM-2の味のある妙なテーマは惹きが強い。本作のベストトラックだろう。一方、M-5は非常に美しいバラードであり、メロディメーカーとしての才能も見せつける。最近のプレイヤーに顕著な傾向だが、演奏者としてだけでなく作曲もこなすオリジナル志向を強く感じさせる。「オレの世界を聴いてくれ」ってなノリである。

 アルバム全編に漂う浮遊感を演出するのはリズム隊だ。特にスコット・リーのベースが利いている。そこにひょうひょうと泳ぐスティルマンのファニーなアルトが乗り、バンド全体でゆらゆら揺れる不安感を醸し出す。リズム隊がそうしたスティルマンの狙いを完全に理解し、ぴったり意思統一している感じだ。

 この2年後にFSNTから出た 「It Could Be Anything」 (2005年、レヴュー記事はこちら)とくらべ、いい意味で完成されてない危うさ、脆さ、破天荒な勢いが強烈な魅力を放つ。どちらも秀作だが、生々しい剥き出しのスリルを味わいたいなら本盤かもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Dan Weiss Trio / Timshel

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Jacob Sacks (p)
Thomas Morgan (b)
Dan Weiss (ds)

Rec. September, 2008, at Acoustic Sound, NY
Engineer: Michael Brorby (Sunnyside SSC1242)

静寂の向こうに風景が見えてくる実験的ピアノトリオ

 ひたひたと静寂が押し寄せてくるようなアルバムだ。ピアノトリオ編成だが、ありがちな甘ったるい音楽をやってるわけではない。トリオならではのスペースを生かし、ベースとドラムがよく遊ぶ先鋭的な実験空間を提示している。俊英ドラマー、ダン・ワイスの意欲作だ。

 相方はピアノのジェイコブ・サックスと、ベースのトーマス・モーガン。3人が代わる代わるピアノだけになったり、ベースだけになったりしながら音のない空間をたっぷり取る。音でスペースを埋めてしまわない。そのため、えもいわれぬ余韻が生まれる。尾を引いて響く音の向こうに風景が見えてくる。

 全12曲すべてオリジナル。主役のワイスが自分を丸出しにしたようなコンセプトだから当然だ。例えばM-3は人間の語り (セリフ) のリズムに合わせドラミングする奇作だが、非常に面白い効果を上げている。かたやこの曲と対になるM-6では、今度はピアノがセリフに合わせてコミカルな演奏を繰り広げる。

 一方、M-5はピアノの機械的なリフレインをバックに、ベースとドラムが音数を増やしながら跳梁する。ふつうなら退屈しそうな曲だが、あのテこのテで小技を繰り出すワイスのドラミングが創造的で、思わず聴き入ってしまう。

 全体を通して感じるのは、知的な黒いユーモアだ。また現代人の漠然とした不安を音にしたような要素もある。ジェイコブ・サックスのピアノはかすかにクラシックの匂いがし、現代音楽的な芳香を放つピアノトリオとしても堪能できる。買う前からレヴューその他でぼんやり内容を知っていたので 「キワモノでは?」 とおびえながら聴いたが、とんでもない。すごく楽しめた。

 そもそも 「実験作」 などと名づけられるシロモノは、たいてい退屈な音楽と相場は決まっている。だがこのアルバムはえらく面白い。聴く者のイマジネーションをかき立てるクリエイティヴィティがある。本作が 「実験」 というネーミングから想起されるようなマスターベーションに陥っていないのは、何を隠そう、その実験が成功しているからに他ならない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Sebastian Noelle Quartet / Across The River

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Sebastian Noelle (g)
Javier Vercher (ts on 2,4,6,8-10, fl on 1)
Donny McCaslin (ts on 1,3,5,7, ss on 1)
Ben Street (b)
Ari Hoenig (ds)

Rec. October 17-18, 2005, at Acoustic Recording Studios, NY
Engineer: Michael Brorby (FSNT 249)

アリ・ホーニッグ参加、静かに舞うNYの不思議系ギタリスト

 アルペジオでバッキングし、ソロも半分アルペジオみたいな不思議系ギタリスト、セバスチャン・ノエルが2006年にリリースしたデビュー盤だ。間合いで勝負する空間を生かしたフレージングと、ゆらゆら揺れる独特のノリが楽しめる。

 アジア・中近東をテーマにした彼のセカンド作 「Koan」 (2011年、レヴュー記事はこちら) とくらべ、音のないスペースを生かしたコンポジションが目立つ。ギターと管楽器が煙のようにたなびき、聴き手の心の隙間にじんわり染み込んで来る。

 メンバーも豪華だ。テナーに売れっ子のドニー・マッカスリンとバークリー音大出身のハヴィエル・ヴェルチャー、リズム隊にはベン・ストリート (b) 、アリ・ホーニッグ (ds) という強力コンビを起用している。

 全10曲すべてオリジナル。ノエルのソロは1音1音を確かめるように、まったり音を紡いで行く。スピードや技巧を競うのでなく、逆にギクシャクしたリズムや間を味に替える個性派ギタリストだ。同じニューヨークのプレイヤーでいえば、ブラッド・シェピックやネイト・ラドリーのようなタイプといえる。

 一方、リズム隊のプレイもすばらしい。ベン・ストリートはまさに正確無比、静的な楽曲であっても躍動感を内に秘めたビートを打ち出す。かたやアリ・ホーニッグは、適度に軽めのアタック感ですごく速いパッセージを叩き出していて驚かされる。エネルギッシュなホーニッグのプレイスタイルとは正反対の静かな楽曲が続くが、彼はそれに順応しているだけでなく、このふわふわした楽曲群の只中でもしっかり個性を主張している。やはり非凡なドラマーである。

 クールなジャズが好みの人にはジャストフィットしそうな1枚。聴けば聴くほど味が出るスルメ盤だ。それにしてもノエルがファーストアルバムでこの地点に到達していた事実には驚かされる。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jamie Stewardson / Jhaptal

1

Tony Malaby (ts)
Alexei Tsiganov (vib)
Jamie Stewardson (g)
John Hebert (b)
George Schuller (ds)

Rec. June 13, 2003, at Totally Sound, Malden MA
Engineer: Monty McGuire (FSNT 233)

トニー・マラビー乱入、ローゼンウィンケル系のメカニカルな味わい

 非4ビート中心の典型的なコンテンポラリー・ジャズだ。ギタリストのリーダー作らしく、作風はひところのカート・ローゼンウィンケル風。 「こういうの、ちょっと前に流行ったなぁ」 的な懐かしさすら感じさせる。トレンドの移り変わりは速いものだ。ギタリスト、ジェイミー・スチュワードソンのリーダー作である。

 基本はギターとテナーがユニゾンでメカニカルなテーマを放ち、あとは各人がソロを回す。だが似たようなテンポとノリの曲が続き、やや飽きがくる。パターンのちがう曲をはさむなりし、もっと構成に変化をつければ化けたかもしれないが。

 サイド参加のトニー・マラビーはさすがに水準をキープしている。だが飛び切りいいわけでもない。かつ思ったほど出番が多くない。その一方でヴァイヴにも、なぜか主役のギターやテナーに近い頻度でソロを取らせている。

 アルバム全体のバランスとしてはもっとマラビーの露出度を高め、ギタリストとの双頭バンド的な構成にしたほうがわかりやすかった。多人数に平均的に出番を用意したため焦点がボケた感じだ。

 その結果、曲も悪くないし各人の演奏もまずまずなのに、トータルとしてなんとなくインパクトに欠ける作品になってしまった。オリジナルの全9曲を 「4小節づつ」 聴けばすごくいいのに、アルバム1枚を通して聴くと印象に残らない、というなんだか不思議なアルバムだ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Russ Lossing / Personal Tonal

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Russ Lossing (p)
Loren Stillman (as)
John Hebert (b)
Eric Mcpherson (ds)

Rec. March 4, 2009, at Systems Ⅱ, NY
Engineer: Joe Marciano (FSNT 365)

フリー・フォームの香り漂う危険なハラハラ感

 フリーに行きそうで行かない危うい均衡がアルバム中盤で崩れ、後半でついに 「あっちの世界」 へ行っちゃうスリルが味わえる。ポール・モチアンとの共演で知られるニューヨークのピアニスト、ラス・ローシングのリーダー作だ。

 妖刀使いのアルト奏者、ローレン・スティルマンとの二人三脚だが、「ユニゾンでテーマを」 とか 「順番にソロを回す」 みたいな決まり切ったパターン性はあまり感じられない。

 かといって完全なフリー・インプロヴィゼーションになるM-6までの数曲には、ある程度の規則性は存在している。そうしたミュージシャン同士の約束事が今にも壊れそうになる瞬間を楽しめる作品だ。

 オリジナル6曲のほか、オーネット曲、エリントン曲、チャーリー・パーカー曲など4曲の合計10曲。原曲を思い切り崩したM-5の 「Here's That Rainy Day」 にはハッとさせられる。反対に、わりあいオーソドックスな4ビートのM-2やM-10もいい。

 特記しておきたいのはジョン・エイベア (b) とエリック・マクファーソン (ds) のリズム隊である。彼らはアンドリュー・ヒルの遺作 「Time Lines」 (2006) のレコーディング・メンバーでもあり、晩年のヒルを支えた面々。最近ではフレッド・ハーシュのレギュラートリオも務めている。エイベアはグッ、グッと虚空を掴む手応えのあるベースを弾く。本作でもマジカルなベースソロを披露している。

 ローシングのリーダー作の中ではフリー・インプロ度は低い方だが、それでもやはり聴き手を選ぶ現代ジャズだ。フォーマットに囚われない演奏にハマれる人にはぜひおすすめしたい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

David Binney / Bastion of Sanity

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David Binney (as)
Chris Potter (ts)
Jacob Sacks (p)
Thomas Morgan (b)
Dan Weiss (ds)

Rec. April 28, 2004, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Max Bolleman (Criss Cross 1261)

熱くエネルギッシュな新境地を見せたビニーの傑作

 クリポタとビニーの熱いバトルが聴ける優良盤だ。暗くシュールな独特の作風で一部の固定ファンに支持されてきたアルト奏者のデヴィッド・ビニー。そんなアンダーグラウンドな彼がメジャー志向をのぞかせ、クリスクロス・レーベルからのデビュー作としてぶっ放したのがこのメガトン爆弾だった――。過去の路線から一転し、明るくエネルギッシュに弾けた快作である。

 参加メンバーは爆裂番長クリス・ポッター (ts) のほか、ピアノに端麗辛口ジェイコブ・サックス。リズム隊は最近出番の多いトーマス・モーガン (b) と、七色のパターンを持つ業師ダン・ワイス (ds) がコンビを組む。

 本作はレーベル・デビューを意識してか、ビニー作品にしては親しみやすくキャッチーな内容だ。人気者のポッターをフィーチャーし、フロント2管が元気に大暴れする。

 そのウラで全体のノリを支配するのはドラマーのワイスだ。テーマやキメに合わせた巧妙なドラミングで、楽曲に山あり谷ありの起伏をつけて行く。フロントがリードするリズムパターンと、ワイスとの絡みに注意して聴くと楽しめる。

 オリジナル7曲のほか、ウェイン・ショーター、デューク・エリントン作品を収めた合計9曲。よく聴くとM-2やM-7のようにヘビーな曲もやっているが、冒頭と中盤にメロディーが覚えやすくノリノリのM-1とM-4をバランスよく配したおかげで全体のイメージが明るくなった。特に2管の掛け合いでドシャメシャになるM-5には大ウケだ。

 また中にはM-6のように古典的なバラードまであり、通して聴くとかなり硬軟取り混ぜた構成になっている。そのためビニーが本来やりたい難解なことをやりながらも、聴く人を選ばずわかりやすいアルバムに仕上がった。

 ビニーは1961年マイアミ生まれ。初リーダー作は 「Point Game」 (1989) 。90年代初めにニューヨークへ進出し、現代ジャズシーンの先端に長く立ち会ってきた通好みのプレイヤーだ。本作はそんなビニーが新しい一面を見せつけた記念すべき1枚である。

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