Tom Harrell / Trip

1

Tom Harrell (tp, flh)
Mark Turner (ts)
Ugonna Okegwo (b)
Adam Cruz (ds)

Recorded: October 24, 2013, at Water Music, NJ
Engineer: Sean Kelly (HighNote HCD7261)

音で物語を表現したハレルの意欲作

 冒頭を飾る粘っこくファンキーなM-1のテイストとは裏腹に、本作は知的な演劇性に満ちている。まるで自身のリーダー作であるかのようにマーク・ターナー(ts)が前面に押し出されており、クールでひょうひょうとした彼の質感がアルバム全体を覆っている。ニュー・カルテットで新境地を開拓したトム・ハレル(tp)の新作だ。

 メンバーはハレル、ターナーの2管に、ウゴンナ・オケグォ(b)とアダム・クルーズ(ds)がリズム隊を務める。コード楽器が存在しない自由度の高い編成である。

 本作はセルバンテスの小説「ドン・キホーテ」をテーマにした組曲を中心にすえている。M-3からM-8の6編がそれだが、これに6曲を加えたオリジナル全12曲で構成されている。

 組曲には当然ながらストーリー性があり、まるで演劇を観ているかのよう。「このひょうきんなペースのフレーズは、ドン・キホーテの動作を表しているのではないか?」、「このおどろおどろしいテーマは『戦い』の象徴では?」というぐあいに、小説の情景を思い浮かべながら聴くと楽しい。「組曲」というとなんだか高尚で小難しいものを連想しがちだが、本作はまったくそんなことはない。シンプルに演奏を聴くだけでももちろん楽しめる。

小細工に頼らない音作りがすばらしい

「音で物語を表現する」というテーゼに対し、ハレルは安易に効果音やヴォイスを入れるのでなく、あくまで純粋にナチュラルな音だけで物語世界を構築している。この点も高く評価したい。

 ハレルが緻密に設計図を書き、各メンバーが彼の意図を忠実に再現しているのだろう。汗を飛ばしながらガンガン行く、というよりは、全体に(いい意味で)力の抜けたクールな演奏が続く。おそらくそれこそが抑制的なターナーを起用した狙いなのだろう。主役のハレルもターナーの低い温度感に合わせたようなプレイに徹する。ベースのオケグォも情景が目に浮かぶような演奏ぶりで、存分に才能を発揮している。

 M-1はそのオケグォのおもしろいベースのフレーズで始まる。思わずカラダでリズムを取ってしまいそうな楽しい曲だ。トボけたような味のあるテーマと、明るく弾むベースラインがいい。一方、M-8は 「Windmills」 (風車) と題された曲。リズミカルなペースに乗り、ドン・キホーテが風車に挑むかのような演奏が続く。ここで聴けるターナーとハレルの掛け合いは、ドン・キホーテと風車がくんずほぐれつ戦う様子か? 組曲の中でいちばんドラマチックな曲である。

 このほかアップテンポで急き立てるような2管の煽りが強烈なM-2、中世のラッパ隊のファンファーレのようなM-4、ユーモラスなペースで始まるM-6、跳ねるようなリズムが躍動的なM-10、おどろおどろしいフレージングが頻出するM-11が印象に残った。

 苦み走った渋いテイストで、このコンセプトとメンバーで何作か経れば一体どんな境地に到達するのだろう? と強く興味をかき立てられる作品である。
スポンサーサイト

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Patrick Cornelius / Infinite Blue

1

Patrick Cornelius (as)
Frank Kimbrough (p)
Michael Janisch (b)
Jeff Ballard (ds)
Nick Vayenas (tb on M-1,4,5,6,9)
Michael Rodriguez (tp on M-2,4,5)
John Chin (p on M-9)

Recorded: October 21, 2012, at Bunker Studios, NY
Engineer: Tyler McDiarmid (Whirlwind Recordings WR4637)

華やかで洗練された新世代ハードバップ

 ニューヨークで活動する若手アルト奏者、パトック・コーネリアスの4作目になる最新アルバムは、都会的で洗練された新世代ハードバップだ。バッチリ決めたホーン・アレンジが華やかでスタイリッシュ。奇をてらわないオーソドックスな作りで、だれが聴いても「かっこいい」と言いそうな二枚目路線が気持ちいい。

 メンバーは売れっ子のジェフ・バラード(ds)を軸に、マリア・シュナイダー・ビッグバンドのフランク・キンブロウ(p)、マイケル・ジャニッシュ(b)で組むカルテットが基本だ。これに曲によりマイケル・ロドリゲス(tp)ら新鋭がフィーチャーされている。

 コーネリアスのオリジナル8曲に加え、ゲスト参加の韓国人ピアニスト、ジョン・チンが1曲を持ち寄った。前作「Maybe Steps」(2011)はどちらかといえばインプロ主体の構成だったが、今回は緻密なホーン・アレンジで装飾した楽曲群が煌びやかなイメージを放つ。とても同じミュージシャンの作品とは思えないほど、前作と180度ちがうテイストだ。作曲・アレンジ能力の高さと引き出しの多さに驚かされる。

 アルバム構成をみると、冒頭と中盤、終盤に当たるM-1とM-5、M-8にそれぞれノリのいい4ビートを配し、全体のバランスを取っている。のっけから華麗なホーン・セクションが難度の高いフレーズをキメるM-1は、アルバムの顔ともいえるエネルギッシュなナンバーだ。

 一方、M-5もイントロで登場するホーンの絡みがおもしろい躍動的な曲である。ここでは昨年Criss Crossデビューを飾った「Reverence」(2013年、レヴュー記事はこちら)が印象的だったマイケル・ロドリゲスがテンションの高いソロを吹く。一方、コーネリアスがスピード感のあるテーマからインプロに突入するM-8も凝った作りで、アルバムトータルとして彼のイマジネーションが輝いている。

 プレイヤー別では、全編吹きまくりの主役コーネリアスがいいのは当然として、ほかにはピアノのフランク・キンブロウのプレイが光った。キレのいいバッキングでノリを作り、ソロを取っては伸びやかなフレージングでオンリー・ワンな個性を主張している。

 コーネリアスはデビュー盤の「Lucid Dream」(2006)以降、「Fierce」(2010)、「Maybe Steps」(2011)と高水準の作品を連発しているが、本作はコンポジションも含めて彼の最高傑作といえるだろう。特にメインストリームなハードバップ系が好みの人にはおすすめだ。

 コーネリアスは2005年にアメリカ作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)主催のYoung Composer Awardsで優勝し、2011年にはダウンビート誌で「将来を嘱望される若きタレント」に選ばれた。また2012年にはアメリカ室内楽協会(CMA)のNew Jazz Works Commissionを受賞している。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Sam Harris / Interludes

1

Sam Harris (p, syn)
Ben Van Gelder (as, b-cl)
Roman Filiu (as, fl)
Martin Nevin (b all except 8,7,12)
Ross Gallagher (b on 2,4,6,8,9,10,13)
Craig Weinrib (d)

Recorded: June 17, 2013, at Sear Sound Studios, NY
Engineer: Chris Allen (FSNT 435)

異色のピアニストが仕掛ける抽象絵画の世界

 個性派ピアニスト、サム・ハリスのデビュー作がFSNTから登場した。現代音楽やクラシック、環境音楽など種々の要素をミクスチャーした抽象絵画のような世界が広がる。参加メンバー、ベン・ヴァン・ゲルダー(as)の作風に近い。一見、敷居が高いが、ツボがわかればハマれる音だ。

 主役のハリスは、ルディ・ロイストンのリーダー作「303」(2014年、レヴュー記事はこちら)のM-8で弾いていたピアノソロが印象的だった。本作のコンセプトはロイストン盤とまったくちがうが、こちらはこちらで楽しめる。くり返し聴くと麻薬的な快感が脳にじんわり湧いてくる。

 全14曲すべてオリジナル。アルバムの最初から終わりまでゆったりしたテンポの似たような曲が並ぶが、明らかに狙ってやっていることだ。変化をつけようとして失敗し同じ感じになった、なんてのとはちがう。ならば本盤は、この「似たような感じ」を楽しむための作品だろう。

 ただしアルバム構成には疑問もある。M-1とM-2はいちばん単純で訴求力が弱いのに、なぜ「掴み」に当たる冒頭にもってきたのかわからない。M-1は「Prelude」とあるので徐々に盛り上げようという意図なのだろうが、アルバム冒頭でリスナーに「つまらない」と思われては後半を聴いてもらえなくなる。だが本作はM-3から俄然、おもしろくなるのだ。ヤマ場は後半にくるから注意してほしい。

 たとえばM-12は打ち込みのような一定の速いリズムをバックに、それとまったくちがうノリのゆったりしたピアノソロがモノローグのように続く。インプロと背景に流れるリズムとのギャップが非常におもしろい。一方、M-11は冒頭のピアノのリフレインが効いており、ソロも美メロで本作の中ではいちばんわかりやすい。

 またルバートのふんわりしたリズムに乗ってピアノとペースが絡まりながら静かに展開するM-3は、何かを語りかけてくるようなピアノのつぶやきが心地いい。一転して中近東っぽいリズミックな導入部のM-4は、本作では珍しく速いピアノソロを聴かせる。かと思えば再びリズムが失われ、M-5では大海原を漂うようなまったりしたグルーヴに乗りピアノが刺激的なインプロを繰り広げる。

 ほかにも手探りのようなピアノが神秘的なM-7、テーマが印象的でアルトのソロがいいM-10、現代音楽的な粛然としたピアノが聴けるM-14など、なかなか個性的で凝った楽曲が並んでいる。

 全体に余韻たっぷりで、マーク・コープランドヒューベルト・ヌッスのような音のない空間を生かしたインプロヴィゼーションが味わい深い。オーソドックスなジャズが好きな人にはおすすめしないが、ふたヒネリあるジャズが好みの人なら聴いてみる価値はあるだろう。

 ハリスはテキサス生まれ。当初クラシック・ピアノを学ぶがハイスクール時代にジャズと出会った。2004年にニューヨークへ出てマンハッタン音楽院へ。ジェイソン・モラン、ギャリー・ダイアル、ジョン・ライリーらに師事している。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Marko Churnchetz / Devotion

1

Marko Churnchetz (ac-p, el-p, key)
Mark Shim (ts, midi controller)
Christopher Tordini (ac-b, el-b)
Justin Brown (ds)

Recorded: April 18, 2012, at Peter Karl Studios, NY
Engineer: Peter Karl (Whirlwind Recordings WR4653)

アクロバチックなキメが続出するスリル

 ニューヨークと故国を股にかけ活動するスロベニアの若手ピアニスト / コンポーザー、Marco Churnchetzの最新リーダー作がリリースされた。かっこいいキメが続出するスリリングなコンテンポラリー・ジャズだ。参加ドラマー、ジャスティン・ブラウンのズシンと重いドラミングが際立つ。アメリカのFMジャズ番組「Cutting Edge」では早くもトップ10入りした。チック・コリアのようなテクニカル志向の音楽が好きな人におすすめだ。

 サポートメンバーにはマーク・シム(ts)、クリストファー・トルディーニ(b)、ジャスティン・ブラウン(ds)と若手をそろえた。シムは畳みかけるような力強いブロウが持ち味。トルディーニのベースはフレーズが耳に残るデイヴ・ホランド風のうねうね系、ブラウンのタイトなドラミングは複雑なキメがバシバシ決まって気持ちいい。

 主役のマルコは「俺が俺が」と熱くハデに自己主張しまくる。テクニックも申し分ない。特にM-2のピアノソロに入ったときのバックの抑えた演奏と、超絶ピアノソロとの対比は聴き物だ。音数が多く速いパッセージをガンガン弾きまくり、かと思えばM-3のようなスローバラードではうっとりするような美メロを繰り出す。

 かたや自身のコンポジションは、難度の高いアクロバチックな展開がチック・コリアを思わせる。全10曲すべてオリジナルだ。まずM-1はダークなフレーズのキメが連発される4ビート曲。M-4はシンセとエレキベースをフィーチャーし壮絶に盛り上がるフュージョンだ。うねるようなベースのリフが脳天を刺激する。

 一方、M-6はまたも冒頭からめまぐるしくキメが続いて急展開する。M-2と同様、ピアノソロ時の音数少なく抑えたバックの演奏がとてもいい。続いてテナーのソロに突入し、ラストはこれでもかとばかりにキメを繰り返して大団円を迎える。M-9はシンセとエレベが再登場するフュージョン・ナンバー。最後はアブストラクトなピアノの独奏曲で静かに幕を閉じる。

 シンセとエレベを使った曲が数曲ある点は好みが分かれそうだが、客観的に言ってアルバムのデキは非常にいい。はらはらするようなテクニカル志向のジャズが好きな人ならかなり楽しめるだろう。チック・コリアやアントニオ・サンチェス、マイケル・ブレッカーあたりが好みの人は要チェックだ。

 マルコは1986年生まれ。10才でピアノを始め、クラシックを学んだ。2005年にオーストリアのthe University of Music and Dramatic Artsでクラシックピアノを、また2009年にジャズピアノの学位を取得した。これまでにリーダー作「Signature」(2010)、「Moral Interchange」(同)をリリースしている。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Matt Slocum / Black Elk's Dream

1

Walter Smith III (ts on 1,2,6,9,10)
Dayna Stephens (ts on 3-5,7,9,11)
Gerald Clayton (p)
Massimo Biolcati (b)
Matt Slocum (ds)

Recorded: April 2013, at Tedesco Studios, NJ
Mixed and mastered: Michael Marciano (Chandra Records CHR8096)

ジェラルド・クレイトンの萌え立つピアノがおいしい

 ニューヨークの若手ドラマー&コンポーザー、マット・スローカムがリリースしたばかりの3rdリーダー作だ。当ブログのいち押し天才ピアニスト、ジェラルド・クレイトンの萌え立つようなプレイがすばらしい。彼のピアノを聴くためだけに買っても損はない1枚である。

 メンバーはスウェーデン人ベーシストのマッシモ・ビオルカティとクレイトン(p)、スローカム(ds)のリズムセクションに加え、曲に応じてウォルター・スミス3世(ts)とデイナ・スティーブンス(ts)が参加している。ちなみに彼ら5人は全員バークリー出身だ。

 スローカムは決して重たくならない軽やかなプレイが特徴のドラマーである。だがプレイヤーとしてだけでなく、コンポーザーとしても優れている。論より証拠、(パット・メセニーの「Is This America?」を除き)今回もすべてオリジナルの12曲で勝負している。アルバム・タイトルにある通り、ネイティヴ・アメリカンであるスー族のメディスンマン(呪医)、「ブラック・エルク」にインスパイアされた楽曲を揃えた。

 幕開けは、夜明けを想わせるゆったりした美メロのスローバラードだ。デキのいいコンポジションに早くもうっとりさせられる。一方、M-5では、哀愁のメロディを乗せたスピード感豊かな演奏が疾走する。全編にクレイトンの美しいピアノを散りばめ、要所をホーンで締める構成である。ほかにスローカムがスネアとタムのコンビネーションでリズミックなプレイをするM-2、のんびり陽気な4ビートのM-3、スミス3世がドラムとのデュエットでソロを取るM-6が印象に残った。

 スローカムのデビュー盤「Portraits」 (2009年、レヴュー記事はこちら)は本作のリズムセクションに加え、曲によっては同じホーン陣が加わる布陣だった。

 続くセカンド盤では、デビュー作からホーンを抜いたおいしいピアノトリオ編成に変えた。で、セカンド盤のレビューでは「クレイトンが生きるピアノトリオに変えて大正解だ」と書いたのだが、今回はM-8を除き全曲にホーン陣がまた復帰した。そのスミス3世とスティーブンスは抑えた演奏でチームプレイに徹している。

 結論として聴き物はやはりクレイトンのピアノである。M-1では、ソロ冒頭の1小節で必殺の美メロをかまし早くもわくわく。かと思えばM-2やM-5ではリズミカルなフレージングでノリのいいプレイを見せる。M-7のインプロもリリカルを絵に描いたようで圧倒的だ。まるでメロディの玉手箱である。クレイトンは自身のリーダー作では効果音モドキやヴォイスを入れるなど余計な小細工満載だが、ぜひ今後は本盤のように純粋なピアノ演奏だけで真っ向勝負するアルバム作りを期待したい。

 と、なんだかクレイトンのリーダー作みたいな書き方になってしまったが、スローカムのコンポジション+クレイトンのピアノが最大のキモなんだから仕方ない。テナーの2人は明らかに付け足しみたいになっているのが残念だ。彼らはあまりにも抑えたプレイぶりで何のためにいるのかよくわからない。ピアノトリオにすれば主役がはっきりするのだが、この編成では軸が見えないまま全員が遠慮し合ってなんとなくアルバムが終わってしまう。スローカムは作品作りを根本から見直す時期に来ているのかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Eva Novoa / Eva Novoa Quartet

1

Eva Novoa (p)
Ernesto Aurignac (as)
Masatoshi Kamaguchi (b)
Andre Sumelius (d)

Recorded: July 2010, at The Room BCN Studios, Barcelona, Spain
Engineer: Jordi Navarro (FSNT 431)

スリリングな妖しさ、バルセロナ生まれの女性ピアニストが放つ快作

 スペイン出身のピアニスト、エヴァ・ノヴォアの最新リーダー作がリリースされた。デビュー盤に当たる前作はピアノトリオだったが、今回はスペイン人アルト奏者、エルネスト・アウリニャックを加えたカルテット編成だ。フリーっぽい楽曲を散りばめながら、ジャズのスリルにあふれた妖しい世界を繰り広げる。

 主役であるエヴァのピアノはときに挑戦的、ときにリリカルにと複数の顔を持つ。静かで現代音楽的なプレイもすれば、ベースが粘るファンキー・チューンで暴れる展開も。楽曲のテイストに合わせ、千変万化する幅広いプレイを見せる。

 演奏にはプレイヤー独自のキャラや生い立ちが表れるものだが、エヴァのピアノと作る楽曲は明らかにニューヨークあたりの若手とはちがう。NYの若手によくある都会的な無機質さや厭世感などはまったくない。過激で尖ったプレイをしていても、どこかスペインっぽいおおらかな土臭さが感じられる。

 アルバム構成はすべてオリジナルの計11曲だ。緊張感の詰まったフリー的な楽曲も2曲ある。前作でもフリーっぽいのを数曲やっていたので、おそらく彼女のルーツはそっち系にあるのだろう。とはいえ楽曲はバラエティに富んでおり、わかりにくいフリーばかりが並んでいる、なんてことはないからご安心を。例えば明るくひょうきんなテーマで始まるM-1などは、ウォーキングベースに乗ったアルトが弾けまくって楽しい。

 ほかにも余韻を生かしたピアノが叙情的で美しいM-2、演奏が激しくなるにつれ次第にフリーっぽくなるM-3、哀愁のあるメロディラインが印象的なM-5と、佳曲が続く。後半にかけても陽気でノリのいい4ビートのM-6、現代音楽的なピアノで始まり最後はフリーになるM-7、明るくブルージーなM-8、4ビートだがアルトとピアノの絡みがフリー的に盛り上がるM-11など、一定水準をクリアした優秀曲が並んでいる。

 エヴァはバルセロナ生まれ。ホルヘ・ロッシが出た音楽学校「ESMUC」 (Escola Superior de Musica de Catalunya)でジャズを学んだ。2005年にはニューヨークへ進出し、ラルフ・アレッシのschool SIM (School for Improvisational Music)でいくつかのワークショップに参加。現在はスペインとオランダを行き来して活動している。2012年にFSNTから初リーダー作「Eva Novoa Trio」でデビューした。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Andrew Rathbun Quartet / Number & Letters

1

Andrew Rathbun (ts, ss)
Phil Markowitz (p)
Jay Anderson (b)
Bill Stewart (ds)
Taylor Haskins (tp on 8,10)

Recorded: May 30, 2012
Engineer: Michael Marciano (SteepleChase SCCD31781)

先鋭性と躍動的なダイナミズムが同居したクールなNYコンテンポラリー

 ニューヨークを拠点に活動するカナダ出身のサックス奏者 / 作曲家、アンドルー・ラスバンがリリースしたばかりの最新リーダー作だ。曲調は4ビートと非4ビートが混在するクールなコンテンポラリー・ジャズ。練り上げられたコンポジションで、先鋭性と躍動的なダイナミズムがうまくブレンドされている。メロディー感は2000年頃のクリス・チークやマーク・ターナー、またちょっとローレン・スティルマンを思わせるゆらぎ感もある。
 
 テナーとソプラノを持ち替えるラスバンのサックス・プレイは変幻自在だ。最近の若手によくある温度感の低いプレイもすれば、ジョージ・ガゾーンばりの力強くアグレッシヴなソロも取る。参加プレーヤーのアドリブもとにかく熱く、緊張感いっぱいで手に汗握る。楽曲とインプロヴィゼーションがどちらも高水準でまとめられており、楽しめるおすすめ作品である。

 メンバー構成を見ると、まずキャリア40年を数える名ピアニスト、フィル・マーコウィッツの名が目を引く。彼は1978年から、当時充実期にあったチェット・ベイカーを支えてメジャー・デビューしたベテランだ。グラミー賞歴のあるボブ・ミンツァーやデイヴ・リーブマンとの共演でも知られる。本作参加ベーシストのジェイ・アンダーソンとは、ボブ・ミンツァー・ビッグバンドでの同僚である。

 一方、90年代から2000年代にかけ、NYの名だたるセッションを総なめにしたビル・スチュワート(ds)は言うに及ばず。また自身の作品でもラスバンと共演しているゲスト参加のテイラー・ハスキンス(tp)は、前衛的な音楽性で時代を切り開く個性派である。ベン・モンダー(g)、ベン・ストリート(b)らを起用し、サニーサイドやFSNTからリーダー作を5枚リリースしている。

 アルバム収録曲は全11曲。すべてオリジナルだ。計算されたコンポジションと楽想の豊かさに驚かされる。バラエティに富み引き出しが多い。ノリよくエネルギッシュに弾むナンバーもあれば、静かでアブストラクトなバラードもあり。静と動、陰と陽、クール&ホットなど相反する要素が全編に散りばめられている。

 特にシェイマス・ブレイクの傑作盤「Bellwether」(2008年録音、以下すべて録音年)を思わせる劇的な4ビートのM-1とM-7がいい。ほかに三拍子のゆらめきがミステリアスなM-2、マーコウィッツのピアノソロが圧倒的なM-3とM-5、静かな幕開けから後半アップテンポになりラスバンが爆発するM-4、マーク・コープランド風のピアノとソプラノのデュエットで始まる粛然としたM-6、津波のように激しい4ビートのM-9、ひらりひらりと踊るようなリズムでラスバンがスティルマン化するM-11が印象に残った。

 個々人のプレイでは、特にフィル・マーコウィッツのシリアスなピアノソロが痺れるくらいすばらしい。畳みかけるようなグルーヴとタイム感、テンションの高さに圧倒される。彼のインプロを聴くためだけに買っても損はない秀作だ。

典型的なコンポーザー志向である

 ラスバンは典型的なコンポーザー志向のミュージシャンだ。プレイはもちろん、自作楽曲も含めた作品トータルで自身を表現するアーチストである。

 FSNTデビューを飾った「Jade」(1998)や「True Stories」(2000)では、女性ボーカルを大胆にフィーチャーして意表をついた(この歌物がスティーリー・ダンみたいでまたイイのだ)。かと思えばインスト系ではスコット・リー(b)、ジェフ・ハーシュフィールド(ds)を従えたローレン・スティルマン・チックなサックス・トリオ作のほか、本盤のようにこれぞコンテンポラリーなかっこいいリーダー作を10枚以上リリースしている。

 特に本作が好みと感じた人には、FSNT発の「Sculptures」(2001)と「Days Before And After」(2004)、Steeple Chaseからリリースされている「The Idea Of North」(2008)をおすすめしておく。

 ラスバンはカナダ・トロント出身。1991年にボストンへの芸術留学資格を得て、ニューイングランド音楽院で学んだ。パット・ラバーベラやジョージ・ガゾーン、ジェリー・バーガンジーらに師事。ジョージ・コリガン(p)とジョン・エイベア(b)、ジェフ・ハーシュフィールド(ds)らを擁したリーダー作「Scatter Some Stones」(1998-99)でデビューした。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

最新記事
カテゴリ
ブログ内検索
全記事一覧・表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR