Omer Klein / Fearless Friday

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Omer Klein (p)
Haggai Cohen-Milo (b)
Amir Bresler (ds)

Recorded: October 27-28, 2014, at Bauer Studios, Ludwigsburg
Engineer: Philipp Heck (Neuklang Records NCD4113)

現代性の中にルーツが漂うイスラエル風ピアノトリオ

 イスラエル出身の若手ピアニスト、オマー・クラインが6枚目のリーダー作をリリースした。今回もルーツに根差した哀感のあるフレーズで楽曲を組み立てている。だが彼の場合はそれがくどく感じられず、さらりとしているところがミソ。一発で耳に残るメロディ作りが印象的だ。

 全10曲すべてクラインのオリジナル。中東フレイバー漂うメロディーがそこかしこに登場するが、暑苦しい感じはない。奇をてらうようなアレンジもせず、曲作りがナチュラルだ。スッと肩の力が抜け、流れに身を任せられる。特にM-5以降の後半は、現代ジャズっぽく醒めた感じがなかなかいい。プレイスタイル的には曲の山場で熱くなるような場面もあるが、新世代ジャズの若手らしくクールな一面も併せ持っている。

 さて本作はピアノトリオだが、同じイスラエルのピアノトリオでも先日レヴューしたアヴィシャイ・コーエン(b)の新作 「From Darkness」 (2015年、レヴュー記事はこちら) とはかなりテイストが違う。アヴィシャイ作品のようにアクロバチックな超絶技巧を見せつけるようなところがまるでなく、訥々とアルバムが進行して行く。

 同じようにイスラエルをルーツにしていても、アヴィシャイはド派手でアレンジが装飾的、ひたすら力でねじ伏せようとする。それに対し、クレインは柔よく剛を制すで軽く 「いなして」 いる。着飾った感じがしない。アヴィシャイがギラギラした肉食系なら、クレインはさっぱり草食系だ。

 料理する素材は同じ 「魚」 でも、片方は油で揚げてこってり天ぷらにしているが、もう片方はあっさり刺身で召し上がれ、みたいな感じ。アヴィシャイは民族楽的な要素が脂っこいのでなく、料理の仕方が脂っこいのだ。

 対してクラインの作る音楽は、寿司でもつまむようにスイスイ喉を通って行く。もちろん民族楽っぽいリフレインを多用するためそれが耳につくことはあるが、トータルとしてリスナーを胸焼けさせるようなところはない。メロディーもよく耳に残るし、充分に美しい。イスラエル・ジャズの入門編としてもおすすめだ。

 クラインは1982年イスラエル生まれ。イスラエルのテルマ・イエリン芸術高校でシャズ・ピアノを学んだ。卒業後、イスラエル文化省のお墨付きにより、2005年にボストンのニューイングランド音楽院に奨学金制度で入学。ダニーロ・ペレスやジョージ・ガゾーンらに師事した。2007年にFSNTから 「Duet」 でデビューしている。

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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Dayna Stephens / I'll Take My Chances

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Dayna Stephens (ts, bs)
Charles Altura (g)
Gerald Clayton (P, Hammond B3 Organ)
Joe Sanders (b)
Bill Stewart (ds)
Becca Stevens (vo on 6)

Recorded: January 23, 2013, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1361)

ひらひらと舞う 「NYスタンダード」 のグルーヴ感

 スーッと滑らかなノリのオープニングから、統一感のあるテイストの曲が続く。絶対に力むことなく、むしろ脱力してふらふらと漂うようなプレイスタイルは、今やマーク・ターナーと並び2010年代の 「NYスタンダード」 になった。バークリー音大出身の若手テナー奏者、デイナ・スティーブンスが2013年にリリースしたキャリア最高傑作である。

 メンバーは現代最強の布陣だ。ギターには若手有望株のチャールズ・アルトゥラを起用し、ピアノには天才ジェラルド・クレイトン。リズム隊はジョー・サンダース(b)とビル・スチュワート(ds)のコンビである。ほかに1曲だけ、ベッカ・スティーヴンズがヴォーカルでゲスト参加している。

 デイナのオリジナル5曲と共作1曲を含む、合計10曲。なんともいえない浮遊感のあるM-1からのったりしたテーマがツボにくるM-3、粘っこくファンキーなM-4、テーマにインパクトがあるM-8、ぐいぐい乗せる4ビートのM-2やM-5、M-9など、これぞ2000年代以降のコンテンポラリー・ジャズの見本という感じ。どれも最高の選曲とアレンジ、コンポジションだ。おそらくどんな好みの人が聴いても 「すごくいい!」 と飛びつくだろう。

 まずなんといってもチャールズ・アルトゥラのうねうねしたギターにはまったく興奮させられる。特にバリバリと空間を引き裂くようなM-2や、ぐっと踏ん張りながらかっこよく粘るM-4、逆に抜き気味のプレイが映えるM-5のソロが印象的だ。泣きをかました哀愁たっぷりのM-8もハマってる。本作で初めて彼を知り、もっと聴きたくてネット検索しまくったが、ほかの参加作が苦手なチック・コリア盤しかなくて泣く泣くスルーした笑えない経緯がある。

 かたやクレイトンのソロも眩しい光を放つ。手探りのような抑え方がたまらないM-1に、細かくリズムを刻むノリのいいM-2、たっぷりためて壮大に盛り上げるM-3のピアノにはうっとりさせられる。サイド参加でこれだけ完璧に一定水準をクリアしたプレイを続けられるという意味では、いまやアーロン・パークスに待ったをかける存在になりつつあるといえるだろう。

 それにしてもこのひょうひょうとしたデイナの軽いノリにぴったり寄り添えるのは、ビル・スチュワートのドラミングならではというところがある。これが例えばエリック・ハーランドなら、良くも悪くももっとずっしり重いノリになる。本作のスチュワートの4ビートのように、スイスイ軽やかに泳ぐようなグルーヴにはならない。

 また個人的には買ったCDにヴォーカルが突然出てきた瞬間いつもゲンナリするのだが、本作ではM-6でベッカ・スティーヴンズが夢見るようなすばらしい歌を聴かせている。この曲は全体の中でいいお飾りになっており、チョイスにセンスを感じさせる。

 最新作 「Reminiscent」 (2015年、レヴュー記事はこちら) をリリースしたばかりのデイナだが、同盤で初めて彼を聴き興味を持った人にはもってこいの1枚。おすすめです。

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Lage Lund / Unlikely Stories

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Lage Lund (g)
Edward Simon (p)
Ben Street (b)
Bill Stewart (ds)

Recorded: November 5, 2009, at Systems Two Recording Studio, ,NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1321)

ヒリヒリするような緊張感と冷たい殺気が圧倒する

 2005年モンク・コンペで優勝したノルウェー出身のギタリスト、ラーゲ・ルンドが2010年にリリースしたCriss Crossレーベル2作目だ。ノルウェーの厳しい冬を音にしたかのような寒色系のひんやり冷たい肌触り。荒涼としたモノクロームの世界に、凄まじい勢いで速射砲のように無機的なフレーズが繰り出される。メカニカルなマシンっぽい音使いを武器に、スタンダードが象徴する温和なジャズから最も遠い地点に到達したスリリングな問題作。初の全10曲オリジナルで、強烈に 「自分」 をアピールしたアルバムである。

 メンバーは主役のルンドにエドワード・サイモン(p)、リズム隊は売れっ子のベン・ストリート(b)とビル・スチュワート(ds)。ピアノのエドワードが、アーロン・パークスを思わせる華麗なプレイで実に効果的なバッキング&ソロを取っている。自身のリーダー作も含め、彼のベストワークではないだろうか。明らかに彼のプレイが楽曲に緻密さを与え、一段上のものに仕上げている。ルンドのオリジナル作品では、ピアノがカギを握っていると思わせるゆえんだ。

 主役のルンドは正確なピッキングとクールな音使いで押しまくる。ひところ漂わせていたカート・ローゼンウィンケル臭が消え、本作でははっきり独自のオリジナリティを打ち出している。こんな氷のように冷たいギターを弾くギタリストはほかにいない。

 かたやビル・スチュワートのプレイにも目を見張らされる。細やかなシンバルワークと変幻自在の弾むドラミングで楽曲に山あり谷ありの流れを作って行く。同じルンドのCriss Cross 3作目 「Foolhardy」 (2013年、レヴュー記事はこちら) や、先日リリースされた最新作 「Idlewild」 (2015年、レヴュー記事はこちら) でもビルはレコーディングに呼ばれている。よほどルンドの信頼が厚いのだろう。

 さて実はこのアルバム、リリース当時に聴いていた頃はリスナーを拒絶するかのような緊張感について行けず、聴き疲れして及び腰だった。逆に暖かみのあるスタンダードも交えて構成したCriss Crossデビュー作 「Early Songs」 (2008年) のほうが馴染みやすく、作品として上だと思っていた。

 だが本作を聴き込むうちにハードルの高さが消え、だんだんカラダに馴染むようになった。耳障りと感じていた神経質でクールすぎる音使いが逆に気持ちよくなり、アルバムとしての難解さが頭の中でほぐれて行った。そんなわけで今では彼の最高傑作のひとつと認識している。メンバー個々のプレイもすばらしいが、精巧に作り込まれたアレンジにもぜひ注目してほしい。

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Avishai Cohen / Triveni Ⅱ

Triveni_Ⅱ

Avishai Cohen (tp)
Omer Avital (b)
Nasheet Waits (ds)

Recorded: December 17-18, 2009, at Systems Two, NY
Engineer: Joe Marciano (Anzic Records ANZ0039)

悪漢たちが暴れる男臭さ満点の剛腕トリオ

 これ1枚で 「ジャズは暴力である」 ことがあっさり証明された。殴りかかるトランペット。唸って跳ねるベース。乱雑に叩きつけるドラム。ワイルドな3人がエネルギッシュに躍動する。イスラエル人トランペッター、アヴィシャイ・コーエンによる男臭さ満点の2012年作品である。

 メンバーはオマー・アヴィタル(b)、ナシート・ウェイツ(ds)とのトリオ編成。アルバム・タイトルにもなっている 「Triveni」 はアヴィシャイの固定的ユニットであり、これまでに 「Introducing Triveni」 (2010)、本作 (2012)、「Dark Nights」 (2014) とアルバムを3連発している。

 ちなみに本盤は前作 「Introducing Triveni」 と同日録音だ。このとき録り溜めた演奏を2作品に分け、新作としてリリースした第二弾に当たる。とはいえ出がらし感などまるでなく、むしろ3連作の中では本アルバムがいちばんインパクトが強い。落ち着いたコク深さでは 「Introducing Triveni」 に軍配が上がるが、ノリのよさやパワフル感、アグレッシヴさでは本作が頭ふたつ抜けている。

 たとえばジャズを 「アッパー系ジャズ」 と 「ダウナー系ジャズ」 のふたつに大きく分ければ、本作は典型的なアッパー系だ。ラフな荒くれ男たちが、明るく元気にやらかしまくる。けっこう自由度の高い演奏で、たがいの出す音にインスパイアされながら曲調が二転三転して展開する。

 オリジナル4曲のほか、オーネット・コールマンやチャーリー・ミンガス、ドン・チェリーらのナンバーが続出しバラエティにも富む。アヴィシャイの力強くストレートなブロウが存分に楽しめる。3人がめいっぱい暴れる冒頭のM-1だけでお腹いっぱいになりそうだが、続くM-2では軽快な4ビートが楽しめる。ほかに能天気なプルースのM-5やM-7も異彩を放つ。

 オーソドックスな4ビートはもちろん、ファンクやブルージーな曲もやっているが、それにしてもナシート・ウェイツはこういう粘っこいのをやらせるとドンピシャだ。逆に繊細なピアノトリオなんかで叩くと楽曲を壊しまくるが、こういう荒っぽいところが 「味」 になってるような作品だとピカイチ。ベースのノリも最高です。

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Richard Andersson / Intuition

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Bill McHenry (ts)
Jacob Anderskov (p)
Richard Andersson (b)
RJ Miller (ds)

Recorded: October 10-11, 2011, at The Village Recording, Copenhagen
Engineer: Thomas Vang (Stunt Records STUCD12022)

何かがひたひたと押し寄せてくるような切迫感

 朝もやのようにたなびく音の向こうに北欧の風景が見えてくる――。フリーフォームをバックグラウンドにしたデンマーク人ベーシスト、リチャード・アンダーソンが2012年にリリースしたセカンドリーダー作である。メンバーは、ビル・マクヘンリー(ts)、R.J.ミラー(ds)のアメリカ勢と、ヤコブ・アンデシュコフ(p)、主役アンダーソンのデンマーク勢からなる混成チームだ。

 アンダーソンは1982年生まれ。14才の頃に花火遊びで盲目になるが、のちにクラシック・ギターで音楽活動を始めた。マンハッタン音楽院出身で、デンマーク最大のジャズ賞 「Stjerneprise」 や 「Fuen's Jazz Musician of the Year 2010」 を受賞している。最新リーダー作は3rdアルバム 「UDU」 (2012) になる。

 アンダーソンのオリジナル1曲と、ビル・マクヘンリー作1曲のほかは全員の共作で計10曲。台本のない、インプロヴィゼーション主体の作品だ。深々とした静けさの詰まった楽曲が続く。居並ぶプレイヤーたちが探りを入れるかのように抑えた音でたがいに話しかけている。エンジン全開の演奏が10とすれば、3か4くらいのストイックな演奏である。

 トニー・マラビー(ts)、サリヴァン・フォートナー(p)を擁した前作 「Sustainable Quartet」 (2010年、レヴュー記事はこちら) では往年のフリージャズのように激しく崩れ落ちる曲もあったが、今回はひたすら大人しい。明るくキャッチーな楽曲も差し込んでいた前作とくらべ、人間の内面を深く哲学的に思索するような内容だ。粛然とした演奏の向こう側から何かがひたひたと押し寄せてくるような、さざ波のような演奏である。

 静的な曲が続くが、内に秘めたプレイヤーのテンションは高い。その証拠に緊張感でヒリヒリするような空気感が漂う。各人が静かだが刺激的な音使いで念を放っている。目を瞑って聴くとモクモクといろんな思念がわき、知的にインスパイアされる音だ。

 コンセプトは渋いが作品としてはかなり地味めで 「これ、売れるのかなぁ?」 と逆にとこっちが心配になるが……セールスを考えず超然として自分のやりたいことだけをやってる感じが伝わってくる。個人的には、こういう音が煙る空間で何もせずボーッとしているのが好きだ。

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Enoch Lee / Finish Line

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Nir Felder (g)
David Binney (sax)
Drew Gress (b)
Nate Smith (ds)

Released: 2014, Recorded at MSR studio, NY
Engineer: Bojan Dugic (自主制作盤)

ニア・フェルダーのクレイジーなギターが炸裂する

 ニューヨークを拠点に活動するピアニスト兼プロデューサー、Enoch Leeの新譜だ。記念すべき初リーダー作である。ドラマーにネイト・スミスを持ってきている点からもわかる通り、灼熱のコンポジションが躍動するロック・スピリッツあふれる現代ジャズだ。都会的で明るくにぎやかなアルバム・カラーに乗り、ニア・フェルダーの軽く歪んだエレクトリック・ギターが炸裂する。ジャズにカタルシスを求める人におすすめの1枚である。

 メンバーはデヴィッド・ビニー(sax)とニア・フェルダー(g)のツートップに、ドリュー・グレス(b)、ネイト・スミス(ds)のリズム隊。この顔触れは過去実現しているのだろうか。知る限りでは見覚がえない。たぶん初顔合わせじゃないだろうか?

 主役のEnochはアルバム制作に先立ち、自分の音楽サンプルを作り、これらのメンバーに 「私のプロジェクトに興味はないか?」 とプロモーションして回った。結果、全員からOKをもらったという。特にグレスはEnochのニューヨーク大学での教官だったので、もとからツテがあったらしい。

 さてニア・フェルダー聴きたさに入手した本盤だが、その甲斐あって圧倒的なギター・マジックをたっぷり堪能できた。ロックっぽいエレクトリック感満点のコンポジションに、ニアがハマりまくり。まるで自分のリーダー作であるかのようにイキイキ弾いている。彼のプレイがアルバム全体の方向性をはっきり決定づけている。全12曲すべてEnochのオリジナルだ。

 特にM-5とM-8の弾きまくりは痛快そのもので、ドラマティックの一語に尽きる。「気持ちよさそうに弾いてるよなぁ」と思わせる久々の若手ギタリストだ。たぶん弾くのが楽しくてしようがない時期なんだろう。デビュー盤の 「Golden Age」 (2014) は試聴した時点でハズしてるのがわかったのでスルーしたが、いまから次作が待ち遠しい。

 一方、ツートップの片割れであるデヴィッド・ビニーも、M-2とM-11で華々しく爆発している。彼がこんなに激しくブロウするのは初めて聴いた。何かメンバーの演奏に触発されるものがあったのだろうか? また (本盤の音楽性には不似合いに思える) ドリュー・グレスは縦横無尽のフレージングで順応しているし、ネイト・スミスも持ち前の音数の多いドラミングで楽曲を盛り上げている。

 ただひとつ惜しいのは騒がしい楽想とのトレードオフで、そこはかとなくチープ感が漂う点だ。個々の楽器の音色をもう少し調整する必要がありそうだし (例えばグレスはまるでエレキベースを弾いているように聴こえる)、圧縮音源みたいで全体にもうひと声高級感がほしい。その意味では音質にやや物足りなさを感じる。

 またエレキギターやシンセサイザーの電気的な音色が支配的なぶん、ナチュラルでアコースティックな正統派ジャズが好みの人には向かないかもしれない。まあそのへんはこの音が好きな人にだけ楽しんでほしい、ということだろう。

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ジャンル : 音楽

Matija Dedic / Sentiana

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Matija Dedic (p)
Scott Colley (b)
Antonio Sanchez (ds)

Recorded: November 21-22, 2012, NY (Trio) / January 2013, Croatia (Solo pieces)
Engineer: Alex Nizitch (Trio) (Blue Bamboo BBM021)

華麗でスタイリッシュ、あふれ出るピアニズム

 アルバムはスタイリッシュなコンテンポラリー・ナンバーで幕が開く。ベースとドラムが適度に遊びながら空間を演出し、その波間からぽっかり浮かび上がるように華麗なピアノがあふれ出す――。クロアチア出身のピアニスト、Maija Dedic (1973年生まれ) がリリースしたピアノトリオ作だ。

 Maijaをサポートするリズム隊は、スコット・コリーとアントニオ・サンチェス。ただし本盤はピアノトリオとはいっても、なんと全11曲中、6曲がソロピアノ演奏だ。サンチェスの名前にひかれて買ったが開けてびっくり、すっかりアテがはずれてしまった。

 ネット試聴した時点でピアノの弾き方にそこはかとなく自己陶酔系の香りがしたので嫌な予感はしたが、まさかこうくるとは。これだけ堂々とトリオの名前をクレジットしておいて、この構成はないだろう。

 せめてタバコのパッケージみたいに 「あなたの健康に害をおよぼす可能性があります」 じゃなかった、 「トリオ演奏は○曲目と○曲目の合計○曲のみです」 みたいな表示がされていれば、消費者保護の観点からも納得だが。 (くれぐれもコリーとサンチェスの名前に反応し、触手が伸びそうになった人は要注意)

 とはいえそれでもトリオ演奏はかっこいいし (特にM-1やM-3、M-10あたり)、一方のソロピアノ曲も (大仰で華美なところが聴く人を選びそうだが) 水準は充分クリアしているのでよしとしよう。

 それにしてもヨーロッパのピアニストというのは、大なり小なりクラシックの影響を受けてるんだなぁ、というのが収穫だった。もしトリオ演奏中心でソロピアノがもっと少ない盤を出したらまた買うかも? トリオ演奏は強力です。

 なおMatijaはブラッド・メルドー・トリオのリズム隊、ラリー・グレナディア(b)とジェフ・バラード(ds)を擁した 「From The Beginning」 (2009, Dallas Records) でメジャーデビューし、前作 「M.D. In N.Y.C.」 (2011, Origin Records) ではヴィセンテ・アーチャー(b)、ケンドリック・スコット(ds)をフィーチャーしている。最新作はソロピアノ盤の 「Ligherian Rapsody」 (2015, Workin Label)になる。

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Alex Sipiagin / Balance 38-58

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Alex Sipiagin (tp, flh)
David Binney (as, ss)
Adam Rogers (g)
John Escreet (p)
Matt Brewer (ac-b, el-b)
Eric Harland (ds)

Recorded: October 6, 2014 at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1378)

男臭さムンムン、新境地を開拓した最新作

 エレクトリック・ベースがメカニカルなフレーズを刻むナンバーで幕が開く。男臭さがムンムンする苦み走ったテイストだ。アダム・ロジャースのかっこいいギターが空間を切り裂く。ロック的な要素を取り入れるなど新境地を開拓したトランペット奏者、アレックス・シピアギンが放つ最新作である。

 メンバーはデビッド・ビニー(as)やアダム・ロジャース(g)、ジョン・エスクリート(p)など、クリスクロス・レーベルではお馴染みのメンバーが揃った。リズムセクションはマット・ブリューワー(b)とエリック・ハーランド(ds)が務める。

 シピアギンのオリジナル5曲にビニーが2曲を持ち寄り、合計7曲。アダム・ロジャースが必殺のソロを決めるM-1や、ふんわりゆらめく魅惑のバラードM-2、畳みかけるようなキメと緩急を使い分けた変化に富むM-3あたりが楽しめた。また全体にダークな色彩が濃いのはいつも通りだが、今回は数曲でエレクトリック・ベースを採用するなど新味を出そうと工夫している。ロックっぽいナンバーM-7の導入もそのひとつだ。

 そんな最近のシピアギンを聴いて思うのは、放っておいても自然にほとばしり出てくる楽想を書き留めて曲にしたというよりも、後天的に身に付けた曲作りのノウハウをマニュアル的に駆使してアルバム作りをしているな、ということだ。

 もちろんそれが悪いわけではなく、プロとはある意味そういうものだ。狙って新しい要素を取り入れながら意図的に目先を変え、リスナーに飽きられることなく 「業」 を営む。それがプロである。

 とはいえそれが高じると、小手先の工夫に囚われすぎ 「仏作って魂入れず」 になってしまうことがある。例えば本作でいえばアレンジしすぎて冗長になったM-4の終盤や、ビニーが作曲したリフを繰り返すだけの単調なロック・ナンバーM-7あたりだろう。

「ロックの分野ならもっと面白い曲がいくらでもたくさんある」、「これを聴くなら本物のロックのほうを聴く」 と私なら思ってしまうので、このM-7にはあんまり乗れない。それより70年代のリトルフィートやジェシ・エド・デイヴィスを1日ぼんやり聴いていたほうがよほど楽しい。もちろん個人的な意見だ。

 そんなわけでシピアギンがプロのノウハウを駆使して作った最新作。プロらしくきっちり一定水準はクリアしており、全体をならしてみれば充分に楽しめる。私みたいに余計なことを考えないほうが、世の中は楽しいのかもしれない。

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Lage Lund / Idlewild

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Lage Lund (g)
Ben Street (b)
Bill Stewart (ds)

Recorded: November 6, 2014, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1376)

トリオ編成で往年の名曲にチャレンジした一作

 リリース前から 「えっ? トリオで大丈夫だろうか。間が持つのだろうか?」 などと心配していたが半分は当たり、半分は取り越し苦労だった。ルンドはときどきとんでもないハズし方をするのでひやひやする。どうもデキの悪い子供を心配する親のような気分だ。

 結論から先にいえば、本作は以下に説明する何点かで明らかに損をしている。だがそれでも駄作とまではいえず、とはいえ傑作かといえばそれもまた違う微妙なラインに位置している。 (おそらくピアニストを呼び、しっかりアレンジして演ればデキは見違えるのだろう)

 実際、水の中に潜って海底から水面を眺めているような面白い楽想のM-1を聴き、 「惜しいな」 と思った。もしこれがピアノ入りだったなら──いや、 「たられば」 は無しにしよう。

 さて本盤は若手ギタリスト、ラーゲ・ルンドがクリスクロス・レーベルから発表したばかりの最新作だ。彼のクリスクロス第2作だった 「Unlikely Stories」 (2010年、レヴュー記事はこちら)、およびレーベル第3作 「Foolhardy」 (2013年、レヴュー記事はこちら) の編成から、ピアニストだけを除いた同じメンバー、すなわちベン・ストリート(b)とビル・スチュワート(ds)との組み合わせだ。つまりギタートリオである。

 ルンドはいかにも北欧ノルウェー出身らしく、氷のように冷たい音色が特徴だ。プレイ時の音使いやオリジナル楽曲のテイストもそうで、故国ノルウェーの厳しい自然のようにピリピリと緊張感の高い音をリスナーに突きつける。暖かみがあり、ゆったりくつろげる大らかな音とはまるで正反対に位置している。

 で、ギタートリオとなると当然このキツい音色をアルバム1枚通して聴き続けることになる。するとどうしても耳に飽きがきてしまうし、なによりこのシビアな音を聴くために緊張感を持続させ続けることになり、神経がちと疲れる。

 すなわち、どうしても箸休めとしてピアノの音が聴きたくなる。加えて緻密なアレンジを身上とする彼の作風からいってもピアノは外せない。まずこの点がトリオ編成である本盤の損している第一のポイントだ。

 第二に、楽曲構成の問題がある。本作はルンドのオリジナル4曲のほか、コルトレーンの 「Straight Street」、ケニー・カークランドの 「Chance」 などジャズメンオリジナル、スタンダードを含む合計12曲だ。つまりオリジナルは4曲しかない。

 しかもたった4曲のオリジナルのうち、半分の2曲 (M-2とM-8) はそれぞれ 「Intro to~」 と題された次曲のための 「導入部」 であり、まとまったオリジナル曲は実質M-1と最終曲の2曲しかない。本作はそのなけなしのオリジナル2曲をオープニングと最後に配し、申し訳程度に形を整えて出来上がっている。うがった見方をすれば、実はルンドは今回レコーディングできる体勢にはなかったんじゃないか? とすら思えてしまう。

 往年のジャズメンオリジナルやスタンダードを聴くなら、別にルンドでなくていい。往年の名盤を引っ張り出して聴けばいい。

 ほかでもない若手のルンドを聴く理由は、彼の手による最新のオリジナル作品を聴きたいからである。彼の能力を傾注したオリジナル楽曲を聴き、彼にしかない感性や才能のシャワーを浴びたいからだ。その意味で本盤は既成曲を中心に構成されている時点で、かなり興味が半減してしまう。

 結論としてこのアルバムは往年の名曲集としては聴けるが傑作かといえばそれもまた違うし、という微妙な位置に置かれている。さて、ピアノ入りでオリジナル楽曲中心の次回作に期待しよう。

(追記)

 結局その後、なんだかんだいって今回クリスクロスからリリースされた作品群の中では、本盤の再生率がいちばん高い (なんのこっちゃ)。で、気づいたのだがどうやらルンドは、2014年2月10日に録音されたヨッケン・リュッカート作品 『We Make The Rules』 (レヴュー記事はこちら) でのプレイあたりから、スタイルを変えたようだ。以前の 「寒冷地仕様」 の冷たくピリピリ耳に刺さる音使いがややマイルドになっている。ファンにとってはそのへんの違いも聴き物だろう。

 またトリオならではの空間を生かし、ビル・スチュワートがいろんな小技を投入してるのも面白い。特にシンバルワークがいい。オリジナル楽曲希望は相変わらずだが、まあこういうのもたまにはいいか。

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Dayna Stephens / Reminiscent

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Dayna Stephens (ts, ss, bs)
Walter Smith III (ts)
Aaron Parks (p)
Mike Moreno (g)
Harish Raghavan (b)
Rodney Green (ds)

Recorded: October 29, 2013 at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1377)

スミス3世参加、漂流感のあるグルーヴが心地いい

 2本のサックスが絡まりながらテーマを奏で、高みへと登りつめて行く。現代的で漂流感のあるグルーヴが心地いい。若手サックス奏者、デイナ・スティーブンスがリリースしたばかりのクリスクロス第3作。コンテンポラリー・ジャズの逸品である。

 アルバム全編で、デイナ得意の力を抜いた漂うようなプレイが聴ける。要所を締めるパークスのピアノも相変わらずハイセンスだ。パッと聴いた感じでは地味めの作品だが、聴けば聴くほど味が出るスルメ盤である。クリスクロス第2弾だった自身の最高傑作 「I'll Take My Chances」 (2013年、レヴュー記事はこちら) にはわずかに及ばないが、一定水準をクリアした秀作であることはまちがいない。

 メンバー的には、バークリー音大仲間のウォルター・スミス3世(ts)を大々的にフィーチャした。またセカンド・リーダー作 「Today Is Tomorrow」 (2012年、レヴュー記事はこちら) でも起用しているアーロン・パークス(p)の顔も見える。これに売れっ子若手ギタリスト、マイク・モレノが加わる豪華な布陣だ。

 一方のリズム隊は、スミス3世の最新作 「Still Casual」 (2014年、レヴュー記事はこちら) でも安定感のあるプレイをしていたハリシュ・ラジャン(b)。加えてドラマーは、初リーダー作 「Live at Smalls」 (2014年、レヴュー記事はこちら) が当ブログの年間ニューアルバム第8位を受賞したロドニー・グリーンである。

 デイナのオリジナル4曲にスミス3世が3曲を持ち寄り、ほかはスタンダードなど合計10曲。アルバム前半は比較的コンテンポラリーな楽曲を、逆に後半は昔っぽい懐古調のナンバーを並べている。このコントラストがおもしろい。

 スタイル的には、デイナとスミス3世が組んず解れつしながらテーマを提示する。2人はふだんから親交があり、同じバークリー音大仲間のドラマー、マット・スローカムの一連のリーダー作でもいっしょにやってるだけに息がぴったりだ。

 スミスと絡まりながら立ち上がるM-1冒頭で早くも傑作の予感がする。4ビートに乗り、まずデイナのソロは浮遊感のあるいつものノリ。二番手スミスのソロのほうが心持ち力強い。三番手はパークスが務め、またサックス2本によるテーマに戻る。2人の絡みが予想以上に高い効果を上げている。

 一方、M-2はアップテンポの4ビートで2人のサックスソロも畳みかけるように速いパッセージが繰り出される。続くM-3は痺れるように鎮静的なバラードだ。手探りで彷徨うようにプレイするパークスの働きぶりがすばらしい。

 このほかやや落としたテンポで2人が競演するM-5、モレノが伸びのあるソロを聴かせるM-6、パークスが必殺のピアノソロを見舞うM-9あたりが耳に残った。またハードバピッシュで理屈抜きに楽しい4ビート曲のM-10もいいアクセントになっている。

 総評としては、昨年Sunnysideからリリースした既成曲をこってり盛った新味のないバラード集 「Peace」 では 「ネタ切れかなぁ」 と思わせたが、彼のクリスクロス作品はどこかに 「新しさ」 を覗かせて相変わらずレベルが高い。おすすめです。

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Burak Bedikyan / Leap of Faith

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Burak Bedikyan (p)
Chris Cheek (ts, ss)
Ron McClure (b)
Billy Drummond (ds)

Recorded: February, 2014
Engineer: Chris Sulit (SteepleChase SCCD33119)

クリス・チークが軽やかに泳ぐコンテンポラリー・ジャズの秀作

 トルコ出身のピアニスト、Burak Bedikyanがリリースしたばかりのセカンド・リーダー作だ。彼は2013年にSteepleChaseから初リーダー作 「Circle of Life」 でデビューしたばかり。このときはクリス・ポッター(ts)にピーター・ワシントン(b)、ビル・スチュワート(ds)という豪華メンツで話題になった。さて今回のデキはどうだろう。

 まずメンバーは、フロントに現代ジャズの開拓者クリス・チーク(ts)を置いた。一方、リズム隊にはロン・マックルーア(b)、ビリー・ドラモンド(ds)というベテランを配した重厚な布陣である。決して力まず、ゆらゆらと漂うようなプレイが得意なチークが本作の顔だ。特に彼の吹く軽やかなソプラノ・サックスがアルバム・カラーにぴったりハマっている。

 主役のBurakは、まるでオルゴールのような音色の可愛らしいピアノを弾く。いままで聴いたどのタイプのピアニストとも違う。「俺が俺が」 と出しゃばる感じがなく、バッキング時はもちろん自分のソロのときにも押し付けがましいプレイはしない。

 例えば彼はソロピアノのアルバムを出し、1人でガンガン弾きまくるようなスタイルではない。あくまで楽曲の中でこそ存在が生きる草食系ピアニストである。その意味では 「超絶」 と呼ばれるような脂っこいタイプとはまるで対極に位置している。心地よい楽曲の中でふと気づくとピアノソロが聴こえてきた、心が暖まる――そんなさり気ないキャラクターの持ち主だ。

 全10曲すべてBurakのオリジナル。コンテンポラリー・ジャズを絵に描いたようなスタイリッシュなナンバーが登場したかと思うと、お次は古き良き時代を想わせる陽気なハードバップが始まる。かと思えばフリーキーな要素もちょっとある。あくまでコンテンポラリーに軸足を置きながらも、伝統と現代性がない交ぜになった綾織のようなコンポジションだ。さまざまな要素をうまく散らし、バランスを取りながら作品にバリエーションを持たせている。

 まずアルバムは、ひょうひょうとした現代ジャズのM-1で幕が開く。冒頭のソプラノ・サックスを聴いた瞬間、 「これはチークの作品ではないか?」 と思うくらいチーク色が出ている。彼のファンにはうれしいアルバムだ。M-2も同じく彼のソプラノがよく似合う。印象的なメロディを持つ佳曲である。続くM-4では、ひたひたと潮が満ちて行くような芒洋感のあるコンテンポラリーを聴かせ、次のM-5はスタイリッシュなテーマを受け、Burakが物悲しく流麗なピアノソロを弾く。

 なかでもいちばん印象に残ったのはM-6だ。ルバートのフリーキーな導入部から、突然ノリのいい4ビートになり意表を突かれる。テナーとピアノが同時にインプロをかます妖しい展開で、Burakはかなりハジけたピアノソロを弾いている。総評としては、コンテンポラリー・ジャズが好きな人なら買って損はないアルバムといえるだろう。

 本題からははずれるが、SteepleChase盤のこの音質はちょっといただけない。ピアノは音に厚みがなく、全体にスカキンな薄い音で 「中身」 の詰まった感じがしない。音像の定位はあいまいで奥行きや立体感にも乏しい。てなわけでオーディオマニア向きではないが、音楽ファンなら期待していい好盤である。ご安心を。

2
Burak's Facebook: https://www.facebook.com/BurakBedikyan

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Ben Wolfe / The Wisperer

1

Ben Wolfe (b)
Orrin Evans (p)
Donald Edwards (ds)
Stacy Dillard (ss, ts)
Josh Evans (tp on M-5)

Recorded: September 24, 2014, at Acoustic Recording, NY
Engineer: Nick O'toole (Posi-Tone Records PR8134)

コンテンポラリーな秀逸バラード集で乾杯する

 ハードバピッシュなベーシスト、ベン・ウルフがリリースしたばかりの8枚目の意欲作だ。ソプラノ・サックスを大々的にフィーチャーしたバラード集である。ジャズをあえて躍動的にしてしまわないところが野心的な作品といえる。「コンテンポラリーなバラードってどんなふう?」 という問いに対する知的な回答になっている。

 メンバーは怪人オリン・エヴァンス(p)、野人ドナルド・エドワーズ(ds)とのピアノトリオに、知性派のステイシー・ディラード(ts)が加わったアンバランスな構成だ (このギャップがおもしろい)。ステイシーがなかなかにワサビの効いたソプラノ・サックスを吹いている。

 M-8の 「All The Things You are」 以外はすべてウルフのオリジナルで全12曲。うち7曲がバラードによる構成だ。個人的にはハデでうるさいのが苦手なので、このテの大人しいバラード・アルバムは苦にしないが、 「熱いジャズをノリノリで楽しみたい」 という人には物足りなく感じるかもしれない。

 あえていうならもう少し静かなナンバーを減らし、曲調に変化をつけたほうがより広い層にアピールする作品になっていたかも。ただし私個人の基準はクリアしているのでまったく不満はない。

 さてオープニングを飾るM-1は、一風変わったリフからいきなりウォーキング・ベースに変わる4ビート曲だ。ソプラノ・サックスが妖しく跳ね回る。この時点で 「本作はハードバップ色が濃いのかな?」 と思いきや、M-2、M-3と続く静かなバラードがこれまたすごくいい。

 M-2は本作ベストのすばらしい軽妙なバラードだ。エヴァンスの不思議な味のピアノソロがピリリと効いている。続くM-3も、M-2と並び本盤におけるバラードの横綱クラス。途中からテンポが上がり、後半にかけて壮大に盛り上がる。

 M-7は冒頭から唐突に始まるドラムソロがいいアクセントになっている。粘っこいベースが跳ねるリズミックなおもしろい曲だ。本作では珍しく、テナーが暴れる感じのソロを取る。一方、M-11はややアップテンポ気味の4ビート。テナーとピアノが同時にインプロヴィぜーションを繰り広げる。尻切れトンボのような終わり方をするところが意表をついている。いやはや挑戦的だ。

 全体に、3分の2をバラードが占める構成でこれだけ聴かせるというのはある意味すごい。ウルフの作風はこれまでコンサバティヴな印象があり、あまり興味を惹かれなかったが、こういう知的刺激のあるコンテンポラリーなアルバムをまた出したらぜひ聴いてみたい。

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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