旅ができるような音が好きだ

JAKOB_BRO
ヤコブ・ブロ「Balladeering」(2009年)


霧が立ち込めてくるような空間系ギタリスト

 いまいちばん我が家のステレオ占有率を高めているのがヤコブ・ブロだ。デンマーク出身の空間系ギタリストである。

 アルバムでいえば、特に「Pearl River」(2007年)、「The Stars are All New Songs Vol.1」(2008年)、「Balladeering」(2009年)あたりの過去作をもっぱらたしなんでいる。ビルフリやクリス・チーク、マーク・ターナーら強豪たちが次々にフィーチャーされたおいしい時期の盤である。

 特によく効くのが早朝だ。

 目が覚めてすぐ、まだ頭がボーッとしているうちに聴くのがいい。するとブロ特有の、リズムレスでほんわか霧が立ち込めてくるような音に包まれ、すっかり気持ちよくなってくる。朝酒と同じだ。

 目を瞑ると、蜃気楼のように北欧の景色がまぶたの裏に降りてくる。スティーヴ・カーディナスと同じく、私は風景が見えてくるギタリストが好きなのだ。

 さてこのヤコブ・ブロ月間が終われば、次はどのギタリストと旅へ行こうか。

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ジャンル : 音楽

FULVIO SIGURTA / Oldest Living Thing

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Fulvio Sigurta (tp, flh)
Steve Swallow (el-b)
Federico Casagrande (ac-g)

Recorded: July 14-15, 2014, at Artesuono Recording Studio, Cavalicco
Engineer: Stefanio Amerio (Cam Jazz CAMJ7886-2)

静かで儚いエレガントなトリオの夕べ

 沈む夕陽をバックに芸術家たちが競演する。哀感あふれる旋律を奏でる主役のトランペットに、ぴったり寄り添うように爪弾かれる透明感のあるアコーステイック・ギター。ため息が出そうなほど美しいデュエットが続く。イタリアの若手トランペット奏者、フルヴィオ・シグルタがリリースしたばかりの最新作だ。

 メンバーは相方のギターに、2007年ギブソン・モントルー・ジャズ・ギター・コンペで優勝したイタリアの若手ギタリスト、フェデリコ・カサグランデをフィーチャーした。2人はフルヴィオのデビュー作「Conversations」(2007年)でもデュエットしている旧知の仲だ。そして低音部を締めるのは御大、スティーヴ・スワロウ(b)である。

 フルヴィオは前述した初リーダー作でさっそうとジャズ界に登場したあと、Cam Jazzからのデビュー作になった「House of Cards」(2011年)、クラウディオ・フリッピーニとのデュオ作「Through The Journey」 (2012年)、エレクトリック・ベースをフィーチャーしたトリオ作「SPL」(2013年)と順調に作品をリリースしている。2012年にはイタリアで「ベスト·ニュー·タレント」賞を受賞した。

 フルヴィオが5曲、カサグランデが4曲を持ち寄り、エンニオ・モリコーネの1曲を加えた合計10曲。エレガントで叙情的な美しい佳曲をそろえたラインナップだ。フルヴィオとカサグランデのデュオが4曲、エレクトリック・ベースを加えたトリオ曲が6曲という配分である。楽曲のテイストに応じ、うまく楽器の構成が考えられている。

 ただひょっとしたら、もう完全にベース抜きのデュオ作にしてしまったほうが広大なスペースが生き、さらに余韻のある深遠な作品に仕上がったかもしれない。ベースのスワローは尖がったいい味を出しているのだが、あとの2人がけっこう饒舌なのでややコンフリクトし、3人同時に音を出すと時おりベースが暑苦しく感じる。空間がないのだ。まあこのへんは好みの問題だろうか。

 静かで清涼感のある曲が続くこともあり、主役のフルヴィオは力んでオーバーブロウすることなく超然としている。いかに楽曲の美しさを引き出すか? を考えた演奏だ。かたやギターのフェデリコは前回レヴューした最新リーダー作「At the End of the Day」(2014年、レヴュー記事はこちら)とは打って変わり、見せ場になれば鮮やかなギター・インプロを披露する。ひねった自身のリーダー作とは対照的に、わかりやすくスタイリッシュなソロを決めている。

 もっとも本作はあまりに衝撃的なフェデリコによる最新リーダー作の直後に聴いてしまったため、相対的にインパクトが小さく感じられ損をした。きれいな曲が続く良盤ではあるのだが、どこかもうひと押し、突き抜けたところが欲しかった気がする。

 例えば全体にゆらゆらと漂うようなスローな曲が続くが、M-5のようにリズミカルでかっこいいギターのアルペジオを配した曲をもう少し増やし、アルバム全体としてリズムの緩急をつければもっとメリハリが出ただろう。

 ただし本盤の趣向は既存のジャズのワク内にしっかり収まっており、その意味ではベーシックな音を求めるジャズ・ファンにはころあいよし。あくまでも「これはこれ」だ。仕事で疲れて帰ってきたときなど、小音量でずっと流しっぱにしておくとくつろげそう。ゆったりリラックスできるナチュラルテイストの涼やかな1枚である。

 またフェデリコの最新リーダー作同様、圧倒的に音質がよく、アコギの生々しい弦の爪弾きがまるでホログラムのように目の前へ飛び出してきそうなのもマルだ。

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Federico Casagrande / At the End of the Day

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Federico Casagrande (ac-g)
Michele Rabbia (perc, electronics)
Vincent Courtois (cello)
Vincent Peirani (accordion)

Recorded: January 13-15, 2014, at Acousti Studios, Paris
Engineer: Didier Pouydesseau (Cam Jazz CAMJ7877-2)

色鮮やかな映像がフラッシュバックする音の物語

 ジャズの概念をまったく覆した問題作だ。主役のアコギはほぼインプロなしで和音を意識したプレイに徹する。そこにチェロとアコーディオンが絡み完全アンサンブル志向の音をリスナーに突きつける。インプロ重視からアンサンブル志向へ──。2000年以降に特徴的になった新しいジャズの流れを強く印象づけている。2007年ギブソン・モントルー・ジャズ・ギター・コンペで優勝したイタリアの若手ギタリスト、フェデリコ・カサグランデが2014年にリリースした3枚目のリーダー作だ。

 ピンと張り詰めた緊迫感がある。哀愁を帯びたフレーズが、まるで人生の機微をドラマ仕立てで歌い上げるかのようだ。弦の爪弾きのひとつひとつに生き方を感じさせる。聴き込むうち、ふと何かの映画のワンシーンや演劇のひとコマが色鮮やかにフラッシュバックする。彼のギターには物語がある。

 共作を1曲含むが全9曲すべてフェデリコのオリジナル。ちょっとスパニッシュなジプシー系の要素も感じさせ、ヨーロッパのどこか鄙びた地方の架空の民族音楽のような味わいがある。ただし全体的な雰囲気は静謐なクラシックの室内楽のようでもあり、あるいはダウナー系のゆったり鎮静的な一種の環境音楽ともいえる。かなりさまざまなエッセンスがミクスチャーされている。

アルペジオ主体でテンポや構成音で陰影をつける

 主役のフェデリコは終始アルペジオを繰り返し、テンポや強弱、構成音で楽曲に陰影をつける。逆にチェロやアコーディオンが主旋律を取っていたりする。肝心のギタープレイを聴かせるシーンもルバートでモノローグのような(インプロというより)フレーズ主体で悠久の時を刻む。まるでリスナーの要求を頑なに拒むかのように技巧的なギター・インプロをやろうとしない。つまり楽曲の完成度を最重視した非常にストイックな作りである。

 その豊かな楽想と緻密なアレンジには思わず鳥肌が立つ。しかもアルバムの随所に知的で巧妙な仕掛けが隠されており、2010年代の先端を行くトンガり感が満点だ。

 たとえばM-6はギターの静かなアルペジオ独奏の背後で「ゴォーッ」という小さな物音がだんだん轟音に変わっていく。ただそれだけの作りだ。最後に大音響がドンと鳴り、曲が突然死したかのように終わった瞬間、リスナーは激しいショックに見舞われる。

 またM-4ではボイスと効果音を控えめに効かせ、現代的でメカニカルな味つけをした。私はボイスが聴こえた途端アレルギーが出るタチなのだが、そのテの特殊効果がこれほどぴったり楽曲にハマった作品を聴いたのはまったく初めてだ。こういう使い方ならなるほど武器になる。その意味では現代ジャズの作・編曲法に一石を投じ、ひとつの斬新な回答を提示している。フェデリコのコンポーザー&アレンジャーとしての腕は超一級だ。

 このほか本作では珍しく翳りと憂いの漂うギターソロを聴かせるM-2や、チェロの切迫した叫びが70年代の後期キングクリムゾンを思わせる異様な緊張感のあるM-4、ギターとアコーディオンの奏でるテーマがすばらしく美しいM-5あたりが耳に残った。

挑戦的な実験性と芸術性を極限まで突き詰めた壮絶さ

 フェデリコの演奏は2ndリーダー作の「The Ancient Battle of The Invisible」(2012年、レヴュー記事はこちら)で初めて聴き、まるで湿った地下室を這い回るようなダークでテクニカルなインプロに強いショックを受けた。即座にマークし、その次作に当たる本作もリリース前から期待して待っていた。

 ところがいざフタを開けてみると……前作の(いい意味で)汚れて歪んだ音色のエレクトリック・ギターから、ずいぶん透明感のあるアコギに持ち替え、しかもドラムレス、ベースレスの変則的な構成にすっかり及び腰に。で、おっかなびっくりスルーしていたのだが、今回聴いて本当によかった。あやうくこんな稀代の問題作をみすみす聴き逃すところだった。あぶない、あぶない。

 チャレンジャブルな実験性と芸術性を極限にまで突き詰めた壮絶な一作。クリエイティヴな音の魔術を耳にぐいぐいねじ込まれ、あまりの興奮に思わずじんわり涙腺がゆるみ涙が何度も出た。もしリリースと同時に聴いていれば、まちがいなく2014年の脳内年間ベストテン上位に食い込んでいたのは確実だ。

 音質も驚くほどいい。透き通るような解像感があり音色がみずみずしい。くっきりシャープな音像が立体的に屹立するさまを聴いてるだけでも楽しい。かなり高度でマニアックなオーディオ的快楽をもたらしてくれる優秀録音盤だ。この高音質を味わえるだけでも買う価値アリの1枚だろう。

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ミクスチャー系ミュージシャンの光と影


※インディー・フォークのIron & Wineのアルバム「Our Endless Numbered Days」(2004年)

トップランナーのジェレミー・ユーディーンはまちがいなく本物だ

 このところジャズの側から、ミクスチャー系のミュージシャンや作品が数多輩出している。

 で、ポストロックやインディー・フォーク、スローコア/サッドコア、エレクトロニカ近辺を聴く際には、自然と特にジャズとのかかわりを注視するようになってきた。

 するとよくわかるのだが、ジャズ側にいるそれ系ミュージシャンの中にはハッキリ本物と偽物がいるということだ。

 本物のトップはジェレミー・ユーディーンだろう。彼の作品は、アルバム「Around the Well」(2009年)があるインディー・フォークのIron & Wineやオーストラリアのスローコア・ユニットDirty Three、またポストロックの走りであるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響が濃いMazzy StarやソロでのHope Sandovalあたりと境界線を越えて完全に交わっている。

 かたやクリス・ライトキャップはジャズの立場からポストロックに対する答えを得ようとしているのがわかるし、逆にクリス・モリッシーはポストロックの側から見たジャズへの回答を出そうとしている。


※Mazzy StarのボーカリストHope Sandovalの初ソロ作「Bavarian Fruit Bread」(2001年)

この数年で単なるモノマネと本物の対比が暴き出される

 と同時に一部のジャズ・ミュージシャンがやっている、いかにも「それ風」の音楽が単なるマネゴトにすぎないことをあらためて実感したりもする。

 すでに終わったブラッド・メルドーが「時代に乗り遅れまい」と必死に背伸びしてマーク・ジュリアナと作ったMehlianaなんかまさにそれだ。まあ高度なテクニックや理論が災いし、ジャズ側の知識やセンスがかえって障害になっちゃうんだと思うけど……いってみればおカタいNHKが無理して若者に媚び「ヤング・ミュージックショー」なんて番組作っちゃうのに似ている。


※ポストロック・バンドTristezaを脱退したジミー・ラヴェルが始めたソロプロジェクトTHE ALBUM LEAF

 Mehlianaのカラっぽな絵空事を聴くなら、ロックの連中がやってることのほうがよほど真っ直ぐで気持ちいい。例えばエレクトロニカ的なポストロックのTHE ALBUM LEAFあたりのほうが100万倍、音楽的刺激がある。「こいつ、先端にいるよなぁ」てな感じがビンビンくる。

 おそらくこの5年、10年で他ジャンルとの融合が進む現代ジャズははっきり様変わりするだろう。そのとき残酷にも暴き出されるのは、「俺ってイマ風でしょ?」と口先だけでうそぶく偽物と本物との鮮やかな対比かもしれない。

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Hayden Chisholm / Breve

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Hayden Chisholm (as)
John Taylor (p)
Matt Penman (b)

Recorded: December 18-19, 2013, at Kyberg Studio, Oberhaching
Engineer: Jason Seizer (Pirouet Records PIT3081)

彼はささやくようにアルトを奏でる

 まるでクラシックの室内楽みたいに静粛な雰囲気の小粋なアルバムだ。詩を朗読するかのようなモノローグ風のアルトの呟き。彼を初めて聴いたとき魅力的だと強く感じた光景が見事に再現されている。ニュージーランド出身のアルト奏者、ヘイデン・チスホルムがリリースしたばかりの初リーダー作である。

 ヘイデンは1975生まれ。ドイツの個性派トロンボーン奏者、ニルス・ヴォグラムが率いるカルテット 「ROOT 70」 (レヴュー記事はこちら) のメンバーとしても知られる。このカルテットはマット・ペンマン(b)、ヨッケン・リュッカート(ds)を擁し、アヴァンギャンドなユーモアを売りにしていた。

 今回のメンバーはベーシストにそのペンマンをフィーチャーし、加えてイギリス・マンチェスターが生んだピアノ・レジェンド、ジョン・テイラーを迎えている。ドラムレスで浮遊するリズム・フリーなトリオである。

 主役のチスホルムはデビュー盤を制作するにあたり、おそらく自分の持ち味が最大限生きるシステムを考えたのだろう。そしてコード楽器をひとつ入れ、ドラマーのいないトリオ編成を選択した。大正解である。

 彼の吐息を漏らすような静かなプレイスタイルは、ドラムの打音とコンフリクトしてしまう。本盤はそのドラムが存在しないおかげで、彼からにじみ出る細かなニュアンスが手に取るように伝わってくる。結果、頭が痛い時にでも飲んだらテキメンに効きそうな、非常に鎮静的で味わいのあるバラード集が出来上がった。

 チスホルムのオリジナル6曲に、メンバーのペンマンが2曲、テイラーが1曲を持ち寄った。メランコリックで気だるいムードがあたりを覆う。その雰囲気を壊さないよう、なるべく小音量で聴くとすごくいい。

 例えばM-3はベースとピアノが要所で同じフレーズをそろってリピートするが、そのキメが登場するタイミングがあたかもアトランダムであるかのように聴かせているのがおもしろい。M-5は小気味いい三拍子で、ペースが泳ぐ頭上をアルトがひらひら舞う。ここではペンマンの余裕たっぷりのベースソロが聴ける。

 続くM-6はのったり這うようなアルトの独奏で始まる。微妙な早足で歩くようなピアノソロが刺激的だ。途中から一転してグルーヴィーなブルースが徐々に姿を現す仕掛けになっている。なおジョン・テイラーのファンの方には、M-7の痺れるようなピアノソロをおすすめしておこう。

 あれはもうずいぶん前のことだ。たまたまYouTubeで観たマット・ペンマン入りのサックス・トリオに後頭部をかっ飛ばされた。その名も知らぬアルト奏者のプレイは、ひそひそ声で何か深刻な身の上話を物語っているかのようだった。当時、ジャズといえばとにかく熱くエネルギッシュにぶっ叩くイメージしかなかったので、そんな彼のすっかり脱力したクールなスタイルが強く印象に残った。

 もっと彼のプレイを聴きたい――。強くそう思い、ネット検索しまくった。だが当時はそもそも彼に関する情報自体が(英語サイトでも)ほとんどない。リーダー作も出しておらず、かろうじてその後 「ROOT 70」 のアルバムを手にしただけでなんとなくそれっきりになっていた。そんな彼の記念すべき初リーダー作を目の当たりにし、快哉を叫んだのはいうまでもない。まるで懐かしい旧友に出会えたような気分だ。



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Nir Felder / Golden Age

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Nir Felder (g)
Aaron Parks (p)
Matt Penman (b)
Nate Smith (ds)

Recorded: September 12-13, 2011, at Sear Sound, NY
Engineer: Chris Allen (Okeh-Records 88883796292)

スッキリさわやかポストロックな未来派ジャズ

 お気に入りのフェンダー・メキシコ製ストラトキャスターを抱えたロック出身のニア・フェルダーが、自身のルーツであるロック的要素をあしらいながら 「こんなコンテンポラリー・ジャズもアリじゃない?」 と世に問う初リーダー作である。

 アルバム冒頭からもうさわやかな西海岸系ロック全開、「ええっ、これがジャズなの?」 と意表をつくアルバム構成だ。お約束のボイスも数曲に散りばめられ、これまた好みがわかれそう。2014年のリリース当時からネット上のジャズ・コミュニティを賛否両論の渦に叩き込んだ問題作である。

 当然のように全10曲すべてニアのオリジナル。M-3や後半の数曲でジャズらしいインプロヴィゼーションが聴けるが、かといってギタリストのリーダー作らしく 「弾きまくり」 なわけでもない。むしろ1~2曲目なんてギターのインプロ自体が出てこない。M-5のバラードあたりもひたすら鎮静的で大人しい (これお気に入りだが)。

 いったいなぜ彼はアルバムをこういう構成、切り口にしたのか? アルバムの顔ともいえる冒頭で、なぜ彼はこれらの曲を出してきたのか? それはおそらくインプロバイザーとしての自分を訴えたいのでなく、コンポーザーとしての才能をアピールしたかったからだ。「インプロ志向から楽曲志向へ」 という時代の流れである。

 ジャズ・マニアとしては当然、「ニア・フェルダーはただギターを弾くだけでかっこいいんだから、もっとふつうにアルバムを作ってほしいよね」 と考える。だが彼は 「ふつう」 には作らなかった。「50年代の耳とセンス」 で時間が止まっているジャズ・マニアのニーズなんぞは華麗にスルーし、移り行く時代の先っぽに作品をフォーカスさせた。それがこのアルバムなのである。 

ネット試聴して 「ハズしてる」 と思ったが買ってびっくり

 それにしてもジャズだと思って買ったCDの1曲目から、こんなさわやかロックが飛び出せばそりゃ誰だって引くだろう。しかもボイス使いまくりだし。ご多分にもれず私も去年、本作がリリースされてすぐネット試聴した時点でボイスの嵐にうんざりし 「うわ、こりゃハズしてるわ」 とあっさり買うのをやめた。そんないわくつきの作品だった。

 ところがその後、本盤の収録曲を収めたライヴ映像をYouTubeで観たりしているうちに考えが変わった。で、この6月に彼が来日したこともあり、来日記念てことで試しに本盤を買ってみた。するってぇと……。

 なんのことはない、実際に聴いてみたらふつうによかった。

 内容はほぼロックのアルバムと思っていい(これならまだ70年代のリトル・フィートのほうがテクニカルでジャズに近い)。しかもアメリカ西海岸あたりのカラッと乾いたロックである。すなわち70年代のドゥービー・ブラザースやイーグルス、(東出身だが)オーリアンズなんかを現代風にアレンジしたようなスッキリさわやかな舌触り。いかにもロックのミュージシャンが作ったジャズの要素 「も」 あるアルバム、という仕上がりだ。

 いまの若い人たちはネット検索しまくり、こういう記事を読んで昔のロックを聴いている。あるいは当時のロックに影響を受けたいまのアーチストのアルバムを買っている。つまりニアはそこに焦点を合わせてきた。まあジャズ・ファンとしては試聴してみて好みじゃなければハナから買うのをやめるもよし。ただし私はロックも聴くので違和感なかった。「これはこれ」 として楽しめた。

 もっとも数曲に散りばめられたボイスだけはカンベンしてほしいが、これとてヒラリー・クリントンやマルコムXなどの言葉がサンプリングされているらしく、英語がわかる外国人リスナーなら社会的メッセージとしてうなずけるのかもしれない。

 ちなみに私の 「ニア遍歴」 を書いておくと、まずデヴィッド・ワイス & Point of Departure名義のアルバム 「Snuck Out」 (2011年) でサイド参加のプレイを聴いたのが初めてだった。かなりインパクトがあり、ニアが参加したワイス作品はすべて聴いた。その後、ジェイソン・パーマーのアルバム 「Here Today」 (2011年) でまたもや出会い、ますます気になる存在に。

 続いてルディ・ロイストンの初リーダー作 「303」 (2014年、レヴュー記事はこちら) で彼に対する評価が確定し、最近ではEnoch Leeのデビュー・アルバム 「Finish Line」 (2014年、レヴュー記事はこちら) を聴いて完全にぶっ飛んだ。

今後インプロ志向のジャズは希少種になる?

 で、このアルバムを聴いて確信をもったのだが、やはり今後インプロ志向のジャズは希少な天然記念物になって行くのかもしれない。前回レヴューしたマーク・コープランドのようなインプロの神様クラスはそれはそれで 「国宝」 として鎮座し、だがしかし若い世代の 「先端」 部分はインプロではなくアンサンブルを求めてジャズ以外の辺境へとぐいぐいトライする。

 もちろんここまでロックに割り切り、ロック・サイドへ振った作品ばかりが生まれてくるとは思わないが、70~80年代のフュージョンみたいにロックをミクスチャーしたジャズ寄りのテイストでなく、はっきりロック寄りのジャズが今後は当たり前になって行くのだろう。

 たとえばクリス・モリッシーの諸作やマーク・ジュリアナの 「Family First 」 (2015年、レヴュー記事はこちら)、またジェレミー・ユーディーンくらいのロックへの寄り方をするミュージシャンはふつうになるはずだ。

 そのことによりたとえ既存のコアなジャズ・マニアが一部離れたとしても、「2010年代の耳」 をもつ若く新しいリスナーを開拓できれば、破綻スパイラルに陥っているジャズが生き延びる活路が開ける。そういうことだろう。

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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