Bill Stewart / Space Squid

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Bill Stewart (ds)
Seamus Blake (ts, ss)
Bill Carrothers (p)
Ben Street (b)

Recorded: September 23-24, 2014, at Sear Sound Studio, NY
Engineer: Jon Rosenberg (Pirouet Records PIT3089)

明るさと不安感が同居する不思議な世界

 ある場面では明るく陽気だなぁ、と感じさせるが、別の瞬間にはやたら不安感を煽られる。暗く落ち着かない気分がめらめらめらと湧き上がる。人気ドラマー、ビル・スチュワートの今度の新作は、そんな相反する真逆のエッセンスが同居する不思議なテイストだ。

 いったいなぜか? それはピアノとサックスが狙いすまして正反対の音使いでプレイしているからだ。ビル・キャロザーズ(p)とシェイマス・ブレイク(ts)。現代ジャズを代表する2人の役者である。

 キャロザーズは繊細でナイーヴ、不安をかき立てるような異端なハーモニー漂う独特のピアノを弾く。キャリア初期にサイド参加したジェイ・エプスタイン盤「Long Ago」(1997年)の頃からスタイルはまったく変わってない。本盤ではそんな彼のユニークな持ち味がアルバム全体に色濃く反映されている。

 例えばサックスが奏でる主旋律を聴けば暖色系の基調であるはずのM-1などは、ピアノの冷たいフレーズ感のせいで逆に寒色系の装いをまとっている。もちろんこれはM-1だけでなく、ほかのすべての楽曲にいえる。サックスのシェイマス・ブレイクが暖かみのある明るいフレージングでプレイしているのと好対照で、彼ら2人が演出する真逆のテイストがアルバムにミステリアスな彩りをもたらしている。

 統一感がないといえばその通りだが、逆に彼らの狙ったミスマッチぶりが実におもしろい効果を上げている。リスナーの脳内に意図的に違和感を作り出すことに成功している。

 ゆえに初めて聴いた瞬間には「なんだこれは?」と思わされるが、何度も聴いているうちに「なるほどそうか」と説得力が湧く。ひとことでジャズといってもいろんな切り口があるんだなぁ、と妙に感心してしまう。その意味ではジャズの懐の深さと幅の広さを教えられるアルバムだ。

 わかりやすいジャズではなく捻りが利いているが、繰り返し聴くほどに新しい発見がある。飽きない盤だ。ストレートに躍動する陽性のジャズが好みの人にはウケないかもしれないが、単純明快じゃないチトひねくれた音が好きな人には向く。思索に耽りたい冬の夜長におすすめの1枚である。

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テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Joonas Haavisto Trio / Oku

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Joonas Haavisto (p)
Antti Lotjonen (b)
Joonas Riippa (ds)

Recorded: April 15-17, 2015, at Kallio-Kuninkala Studios, Finland
Engineer: Mikko Raita (Blue Gleam BG007)

ひたひたと水をたたえる北欧の湖面が浮かぶ

 熱さやノリのよさとはまるで無縁だ。ひたひたと水をたたえた冬の湖面のように、ひたすら静かでクールな演奏が続く。淡々とした幾何学模様の抽象的な世界が広がって行く。フィンランド人ピアニスト、ヨーナス・ハーヴィストがリリースしたばかりの新作である。

 ヨーナスは2009年にデビュー・アルバム「Blue Waters」を発表。日本デビューとなったセカンド作「Micro to Macro」(2012年)がピアノトリオ通の間で話題を呼んだ。本作はそれに続く第3作になる。また本年4月からはジャパン・ツアーも控えている。

 彼は日本の文化やメンタリティに深い興味を抱いており、アルバム・タイトルの「オク」も日本語の「奥」を指す。つまり「奥ゆかしい」とか「奥深い」のような含みをもたせた。また7曲目の「Chilling at Sinjuku」も東京・新宿をイメージして書き下ろされている。

 メンバーはずっと完全固定のスタメンだ。デビュー作からトリオを組むアンティ・ロジョネン(b)、ヨーナス・リーバ(ds)がサポートする。彼らは故国のトップ・ミュージシャンである。

 オリジナル8曲にスタンダードナンバー「When I Fall In Love」を加えた合計9曲(日本盤ボーナストラック含む)。アルバム冒頭を飾る「One For Jean」は、ヨーナスの母国であるフィンランドの著名な作曲家、シベリウスのために書き下ろされている。

 音楽とは、作者の生まれ育った環境が反映されているのが常だ。本作もその例にもれず、見渡す限り真っ白な雪景色のような世界が広がる。目を閉じて聴くと冷たい音の余韻が脳内に広がり、しんしんと降り積もる新雪のような寒色系の色味が浮かんでくる。あくまでも熱くならず、思索的に、軽いタッチでーー。ただしヨーロッパのピアノトリオによくある甘さはなく、キリッとビターな辛口である。ピアノトリオ好きなら一聴の価値ある作品だろう。

 ヨーナスは7才で音楽を学び始め、2002年に名門音楽院のシベリウス・アカデミーへ入学し、ジャズ・ピアノを学んだ。2004年にはフィンランドの有名なビッグバンド、UMOジャズ・オーケストラに参加し、ステップアップ。2013年4月には本トリオで初来日公演を行っている。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Avishai Cohen / Introducing Triveni

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Avishai Cohen (tp)
Omer Avital (b)
Nasheet Waits (ds)

Recorded: December 17-18, 2009, at Systems Two, NY
Engineer: Joe Marciano (Anzic Records ANZ-5103)

痛快! ワイルドな三銃士がホットに飛ばす

 熱くエネルギッシュで、ときにブルージー。泥臭く、男臭さムンムンのワイルドな奴らがヤラかしまくる。「The Trumpet Player」(2003年、レヴュー記事はこちら)で鮮烈なデビューを飾ったイスラエル出身の超絶トランペッター、アヴィシャイ・コーエンが2010年に発表した「Triveni」三部作の第一弾だ。

 主役のアヴィシャイを強力にサポートするリズム隊は、オマー・アヴィタル(b)とナシート・ウェイツ(ds)。このトリオ編成で、はるか地の果てまでぶっ放す。

 とにかく明るく楽しく躍動的で、爆発的な勢いがある。気が滅入っているときに聴いても、思わずカラダでリズムを取ってしまいそうな朗らかさ。そんな、だれもが親しめるポピュラリティ豊かなエンターテインメント作品に仕上がっている。

 本作のタイトルになっている 「Triveni」とは、アヴィシャイのパーマネントなユニット名である。その第一弾となった本盤に続き、「Triveni Ⅱ」(2012年、レヴュー記事はこちら)、「Dark Nights」(2014年)と過去に作品を3連発している。

 ちなみに第二弾の「Triveni Ⅱ」と本作は同じ日に録音されているが、ひたすら3人が暴れまくる第二弾に対し、本作はよりブルージーな面が濃くジャズの伝統的な要素にスポットライトを当てている。

 そのため緊張感でヒリヒリする尖った内容だったデビュー盤とくらべても、かなりおおらかでリラックスできるテイストだ。トンがっていたデビュー作と違い、より従来のジャズの方法論にのっとり原点回帰している。そのぶん度肝を抜くような斬新さはないが、比較的コンサバティブなジャズが好きな人には向く。おすすめである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Ben Van Gelder / Reprise

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Ben Van Gelder (as, bcl)
Peter Schlamb (vib)
Sam Harris (p)
Rick Rosato (b)
Craig Weinrib (ds)
Mark Turner (ts on M-5, 8)
Ben Street (b on M-5, 9)

Recorded: February 10-11 & July 11, 2013, at Sear Sound, NY
Engineer: Chris Allen (Pirouet Records PIT3074)

ヤマ場のなさが新しい「やおいジャズ」

 ジャズにミニマリズムをまぶしたような世界観がゆったり広がる。感極まったソリストが熱くエネルギッシュに咆哮するようなシーンは決してなく、ただひたすらクールなヤマ場のなさが新しい。オランダ出身の新感覚アルト奏者、ベン・ヴァン・ゲルダーが2013年にリリースした最新作だ。

 メンバーを見ると、ルディ・ロイストンの初リーダー作「303」(2014年、レビュー記事はこちら)で気を吐いていたサム・ハリス(p)の名がひときわ光る。ほかにマーク・ターナー(ts)、ベン・ストリート(b)も2曲でプレイしている。

 実はベン・ヴァン・ゲルダーのような流派のジャズを「やおいジャズ」と呼ぶ。(いや私が勝手にそう呼んでいるだけだ)。「やおい」というのは1970年代後期に生まれたマンガ同人誌用語であり、「ヤマなし・オチなし・イミなし」の意味だ。当時そういうマンガが爆発的に流行った。

 で、ジャズ界におけるゲルダーの位置づけは、まさに「やおいジャズ」と呼ぶにふさわしい。彼が作る音楽はものの見事にヤマもなければオチもなく、そして深遠なイミもない。いい意味で徹底した「平坦さ」の極致だ。ふんわりゆらゆら波間を漂うかのようなノリのなか、ゆったりそのグルーヴに身をまかせて聴くのが心地いい。

 定型パターンである楽曲の起承転結やソロが激しく盛り上がるヤマ場なんかをお約束通りに盛り込んで行くと、結局は音楽って見事にありがちなマンネリズムに陥る。

 それならいっそ、そういう楽曲の抑揚自体をきれいサッパリ捨ててしまえばどうなるか? ゲルダーが紡ぎ出す極めてユニークで異端なジャズは、そんな実験精神に満ちあふれている。まったく盛り上がりがなく、ただひたすらウネウネと脱力し惚けたような演奏がエンエン続く。

 ぶっちゃけ、クリス・ポッターやアリ・ホーニグみたいにわかりやすく爆発するタイプのジャズが好きな人なら絶対選ばないだろう。だけど好きな人にはたまらない。そんな個性の極みを、どうぞご堪能あれ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Rotem Sivan / Enchanted Sun

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Rotem Sivan (g)
Sam Anning (b)
Rajiv Jayaweera (ds)

Recorded: June 18 & July 11, 2012
Engineer: Jacob Bergson  (SteepleChase SCCD33108)

春の雪解け水のようなギタートリオ

 独特のやわらかい音色で、淡いフィルターがかかったような優しい音を出す。とても繊細でドリーミー、シルクのような肌触りのギターを弾く。イスラエルの個性派ギタリスト、ロテム・シヴァンが2013年にリリースしたデビュー盤。自身最高傑作である。

 まるで独り言のように小さな音で、ささやくようにギターを弾く。その音のたたずまいは、ちょろちょろとか細く流れる春の雪解け水を思わせる。寸止めの美学というか、決してわかりやすく爆発しないところに味がある。

 ロテムはテルアビブ大学を卒業後、ニューヨークのニュー・スクールで学んだ。2013年に本盤でデビューして以後、セカンド・リーダー作の「For Emotional Use Only」(2014年)、最新盤「A New Dance」(2015年、レヴュー記事はこちら)をリリースしている。

 オリジナル7曲に、スタンダード2曲を加えた合計9曲。哀愁のあるメロディをリピートするM-1や、ドラマチックなフレーズが耳に残るM-9など、どこかヨーロッパ的な翳りと憂いが漂う楽曲がならぶ。知らない人が耳にすれば「スタンダードばかりの構成では?」と錯覚してしまうほど奇をてらわない素直な曲作りをしている。

 特にノリのいい4ビートのM-3や、のんびりくつろげる大らかなバラードのM-4、不思議な雰囲気が漂うM-5、味のあるメロディがゆったり流れるM-7あたりが耳に残った。

 若手ギタリスト界はほんの3〜4年前まで、ラーゲ・ルンドやマイク・モレノなどおなじみの常連ばかりが話題になるだけで停滞気味だった。だがここ数年でめっきりおもしろい個性派ギタリストたちがグイグイ頭角を現してきた。もちろんこのロテム・シヴァンも、その最右翼であることはいうまでもない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jon Irabagon / Behind The Sky

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Tom Harrell (tp, flh on M-4, 5, 9)
Jon Irabagon (ts, ss)
Luis Perdomo (p)
Yasushi Nakamura (b)
Rudy Royston (ds)

Recorded: April 24, 2014, at the Samurai Hotel, NY
Engineer: David Stoller (Irabbagast Records 004)

売れっ子テナーの最新スマッシュ・ヒット

 あちこちのレコーディングで今やひっぱりだこの暴れ馬ジョン・イラバゴン(ts)。そんな彼の最新リーダー作がリリースされた。方々の参加作で聴ける彼のプレイ通り、まさにエネルギッシュでストレートな音作り。むしろサイド参加作では「かなり抑えて吹いてるんだなぁ」とわかっておもしろい。

 例えば客演しているデイヴ・ダグラス・クインテットでは見事に「歯車の1個」として機能しているが、さすがに自身のリーダー作では思う存分暴れまくっている。

 メンバーは3曲にトム・ハレル(tp)が参加し、リズムセクションはルイス・ペルドモ(p)に中村恭士 (b)、ルディ・ロイストン(ds)というオールスター・キャストである。

 さてサイド参加では八面六臂の活躍を見せるイラバゴンだが、一方のリーダー作はといえば何枚も出してる割にいまひとつ決定打がない。プレイは理屈ぬきにすばらいしいのだが、作曲能力にやや疑問符がつく。そんなイラバゴンにしては、本作はわかりやすい部類のスマッシュ・ヒットといえるだろう。

 全11曲すべてオリジナル。曲作りは大らかでダイナミックな方向性だ。イマどきのNYの若手のようなヘンに今っぽいひねり方をせず、ストレートに自分をそのまま出している。ただ惜しむらくは楽曲によって出来不出来の差がかなり激しい。

 例えば渋い雰囲気のM-1やラテンっぽく躍動するM-2、ドラマチックなM-3、4あたりはノリノリで楽しめるが、アルバム後半になるととたんに求心力が落ちる。

 M-5やM−7、M-10はただ静かなだけで退屈だし、M-9はリピートばかりで新しい展開がない。言葉は悪いが、アルバム全体の三分の一が捨て曲だ。イラバゴン作品にはいつもこれがある。シビアな見方になるかもしれないが、「演奏」にではなく「楽曲」に着目して聴くとどうしてもこうなる。逆にそのほかの楽曲がいいだけにもったいない。

 もちろん随所で聴かせる各人のプレイは文句なしだ。白熱している。その意味では楽曲のデキにこだわる人間にはやや食い足りないが、参加プレイヤーの演奏さえよければ全てよし、の人には満足度が高い。要は好みの問題だ。後者の聴き方でジャズを楽しむ人には、むしろおすすめの作品といえるかもしれない。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

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松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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