スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Will Vinson / Stockholm Syndrome

wv_s

Will Vinson (as,ss)
Lage Lund (g)
Aaron Parks (p)
Orlando LeFleming (b)
Kendrick Scott (ds)

Rec. June 2, 2010, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1330)

豪華メンバーが揃ったコンテンポラリージャズの傑作

「コンテンポラリーなジャズってどんな感じ?」と聞かれたら、黙ってこのアルバムを差し出せばいい。熱くならずに感情を抑制し、眉ひとつ動かさず人を斬るクールな演奏。コンテンポラリージャズの見本のような傑作である。イギリス人アルト奏者、ウィル・ヴィンソンの4枚目に当たる2010年の最新アルバムだ。

 ラーゲ・ルンド(g)にアーロン・パークス(p)、オルランド・レフレミング(b)、ケンドリック・スコット(ds)という今を時めく豪華メンバーが揃っただけでもすごい。そんな彼らが喜怒哀楽をいっさい出さず、ただひたすら淡々と無機的に演奏するさまは壮観である。メカニカルな機能美を極めた今どきのジャズならではだ。

 アルバム全体が冷たい寒色系のベールに覆われ、人間の焦燥感をかき立てるようなナーバスな音使いの演奏が続く。まるで「現代人が抱える漠然とした不安」をテーマにした演劇を見ているかのようだ。アルバムタイトルの「ストックホルム・シンドローム」とは、被害者であるはずの人質が犯人に抱く不条理な連帯感や好意の心理を指す精神医学用語だが、ひょっとしたらヴィンソンは心理学に興味があるのかもしれない。

 ロンドン生まれのヴィンソンは、1999年にニューヨークへ移り住んだ。2004年に初リーダー作 「It's For You」 をリリースし、セカンドアルバム 「Promises」 (2008)、ライブ盤 「The World (Through My Shoes) 」 (2010) と順調にキャリアを積み上げている。

 デビュー作は未聴だが、ライブの 「The World」 はおすすめだ。ドラムスにヨッケン・リュッカートを起用し、パークスが抜けた以外は本作と同じメンバーである。ライブ盤らしい温度感の高い演奏が繰り広げられる。一方、セカンドの 「Promises」 はドラマーのロドニー・グリーン、アリ・ホーニグ以外すべて本作のメンバーだ。こちらはややキャッチーでフュージョンライクだが、技達者なメンバーのテクニカルな演奏が堪能できる。

パークスとルンドのコンビネーションが核だ

 本作はヴィンソンのオリジナルが4曲、ルンドの曲が1曲、その他4曲の合計9曲。暖かみがありリラックスできるスタンダードのM-7 「Everything I Love」とビル・エヴァンスのM-9 「Show Type Tune」は、寒色系で緊張感が高く4ビートじゃないオリジナル曲とかなり毛並みが違う。だがいい箸休めになり、アルバムを通して違和感なく聴ける。

 全体にかなり緻密にアレンジされた楽曲が多く、その意味ではアーロン・パークスとラーゲ・ルンドのコンビネーションがチームの核だ。パークスのピアノとルンドのギターが殺し合わず、それどころか完璧な相互補完の関係を成立させている。がっちり噛み合った2人のバッキングがセットになり、たがいに楽曲に貢献している。特にパークスはここまで無機的な役柄を演じていながら、かつ、これだけシリアスで玄妙なピアノを弾けるのか、というすばらしい演奏をしている。

 一方、オルランド・レフレミングとケンドリック・スコットのリズム隊も聴き物だ。彼らはちょうどこのアルバムを境にブレイクした印象がある。レフレミングは太くゴリッとした質感のベースで、弾けるような躍動感がある。かたやスコットはハイハットとスネアのコンビネーションが独特だ。ブラインドで聴いてもすぐ彼とわかる強い個性を放っている。タイトで張り詰めたビートを叩き出すいいドラマーである。

 個人的には本盤は、「こんな世界もあるのか!」と最近のジャズにハマるきっかけになった記念碑的なアルバムだ。「エポックメイキングな2000年代の作品を10枚挙げろ」と言われれば、迷わず本作を推すだろう。何かおもしろい盤はない? という人にはぜひ聴いてほしい逸品だ。
スポンサーサイト

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Comment

なかなかいいアルバムでした

ふだんはこういうサウンドだと、割とスラスラと文章が私、出てくるんですけど、自分のブログを読み返したら、何を書いていいのかけっこう悩んでいる様子でした。確かにどうだ、というのが難しいですけど、こういうのがやっぱりNYの現代ジャズだよなあ、と思ったりしています。それがヨーロッパのレーベルで出るのだから面白いですね。

当方のブログアドレスは下記の通りです。
http://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2010/11/stockholm-syndr.html

クリスクロスって

910さん、こんばんは。

アドレス、ありがとうございます。

>それがヨーロッパのレーベルで出るのだから面白いですね。

クリスクロスはオランダのレーベルというより、無国籍化していますよね。というか実質、ニューヨークのレーベルかな(笑)


現代ジャズですね。

こんばんは。
はじめておじゃまします。
拙ブログへのコメントとトラックバックありがとうございました。

このアルバムは典型的な現代NYサウンドだと思いました。
私はもう少し内省的で難解なものもたくさん聴いてきたので、あまり無機的とは感じませんでしたし、ナーバスというほどでもないような気がしています。
単に個人的な感覚なのかもしれません。
浮遊感のあるメロディーと変拍子に慣れれば楽しめますよね。
ほのかにさりげなく薫る感情表現を聴く側が繊細に聴き取れば良いのではないかと思います。

こちらからもトラックバックさせていただきます。
今後もよろしくお願いします。

こちらからもTBさせていただきます

非4ビート曲に漂っているクールな雰囲気がいかにも現代ジャズという感じだったですが、4ビート主体の既成曲の方には温かさがあって、その対比が面白かったです。
リーダー作2枚目の「Promises」 はリリース当時は入手できませんでしたが、いまHMVを見てみたら「在庫あり」となってますね。
1曲だけAri Hoenigが叩いているのでぜひ聴いてみたいところですが、他にも欲しい盤がいっぱいあるのに予算は限られているので、やっぱりやめておきます(苦笑)。

いっきさん、naryさん、こんにちは。

まとめレスで失礼します。

いっきさん、こんにちは。

ご自身のブログに「現代の新主流派サウンド」とお書きになっていましたが、
近いと思います。NYCのコンテンポラリーなジャズは、
昔の60年代新主流派がやってたことを今の人がやってる、
みたいなところはありますね。

トラバ、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。


naryさん、こんにちは。

こういうクールなオリジナル群の中に既成曲が入っていると、
既成曲の暖かみやリラックス感がなおさら浮き彫りになっておもしろいですね。

私もこの記事を書く前にHMVを見たんですが、
確かに「Promises」が在庫ありになってて驚きました。
「ひょっとしてこの人、その後、売れてきたのかな?」とも思いましたが、
あんまり売れるタイプでもないし、どうなのかなと(笑)。

トラバ、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。

聴き直して、良さを実感してます(汗)

個人的には、(自分の文章を読むと)当初とっつきが悪かったようで、この辺もいかにも現代NYぽい作品なんだと思います(自虐)

Lage Lund、Aaron Parksが核だというのも御意であります。Aaron Parksは個人的注目株です。
が、この盤のリリースの後、Will Vinson自信が参加したアルバムってのが出ていないような??


> 「コンテンポラリーなジャズってどんな感じ?」と聞かれたら、
という最初の一文が良いですね。気に入りました。 

TB(うまく入らないようでご迷惑お掛けします)ありがとうございます。本家のyahooから逆TBさせていただきます。
今後もよろしくお願いいたします。

「キャッチー」であることと、飽きやすさの関係

oza。さん、こんにちは。

とっつき悪いのは「こっち系」の特徴かもしれませんね。実際、好みがハッキリ分かれるタイプの音楽だと思います。私もいままでこのブログで書いているアルバムは、試聴した時点でパッと「かっこいい!」 と感じたものは案外少ないです。ただキャッチーな、例えばシングルカット向けの楽曲は、「いい!」と感じるのも速ければ、飽きるのも速いような気もします。後者のほうがスルメ確率は高いかもしれませんね。

>この盤のリリースの後、Will Vinson自信が参加したアルバムってのが出ていないような??

リーダー作はないですが、最近の参加作でしたらJonathan Kreisbergの「Shadowless」(2011)と、Ari Hoenigの「Live at Smalls」(2010)がありますね。ただどちらもWill Vinsonの持ち味とはまったく違う方向性の音です。

後者は所有していますが、Ari Hoenigらしく派手で明るくエネルギッシュな音楽で、これはWill Vinsonのキャラとは正反対ですね。実際、演奏を聴いてもVinsonは持ち味を発揮しておらず、ギターのKreisbergに食われまくりです(笑)。Will Vinsonである必然性のない楽曲ばかりで、「なぜ彼を使うんだろう」という感じでした(もちろんアルバム自体はいいのですが、Vinsonの持ち味とは違うという意味です)。

Will Vinsonは屈折していて暗く醒めたクール系で、例えばエネルギッシュな熱さとか、思わず興奮させられるような爆発力、みたいなわかりやすさとは遠いタイプですから、まあ大ブレイクするような人ではないと思います。好きな人だけが聴き続けるマイノリティなミュージシャン、みたいな感じでしょうか。ただこのアルバムはそういう売れる・売れないとは別に、内容的に当時の私には斬新で、エポックメイキングだと感じました。

冒頭の一文、気に入っていただけたようでありがとうございます。トラバがうまく入らず、何度もすみませんでした。今後ともよろしくお願い致します。
非公開コメント

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

現代の新主流派サウンド?

先週末吉祥寺ディスクユニオンで見つけた新譜の中古CDです。やっぱりこの手のサウン

Will Vinson / Stockholm Syndrome

Will Vinson(As, Ss) Lage Lund(G) Aaron Parks(P) Orlando LeFleming(B) Kendrick Scott(Ds) Rec. June 2, 2010, NY (Criss Cross 1330) Nineteen-eightレーベルから2枚目のリーダー作「Will Vi...

Will Vinson "Stockholm Syndrome"

criss crossレーベルの9月の新譜は11月に手許に来ました。 この盤は、リーダーでないメンツ買いです。Lage Lund、Aaron Parks、Kendrick Scottとくれば新譜チェックしている面々にとっては、ちょ
プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

最新記事
カテゴリ
ブログ内検索
全記事一覧・表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。