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Lage Lund / Idlewild

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Lage Lund (g)
Ben Street (b)
Bill Stewart (ds)

Recorded: November 6, 2014, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Michael Marciano (Criss Cross 1376)

トリオ編成で往年の名曲にチャレンジした一作

 リリース前から 「えっ? トリオで大丈夫だろうか。間が持つのだろうか?」 などと心配していたが半分は当たり、半分は取り越し苦労だった。ルンドはときどきとんでもないハズし方をするのでひやひやする。どうもデキの悪い子供を心配する親のような気分だ。

 結論から先にいえば、本作は以下に説明する何点かで明らかに損をしている。だがそれでも駄作とまではいえず、とはいえ傑作かといえばそれもまた違う微妙なラインに位置している。 (おそらくピアニストを呼び、しっかりアレンジして演ればデキは見違えるのだろう)

 実際、水の中に潜って海底から水面を眺めているような面白い楽想のM-1を聴き、 「惜しいな」 と思った。もしこれがピアノ入りだったなら──いや、 「たられば」 は無しにしよう。

 さて本盤は若手ギタリスト、ラーゲ・ルンドがクリスクロス・レーベルから発表したばかりの最新作だ。彼のクリスクロス第2作だった 「Unlikely Stories」 (2010年、レヴュー記事はこちら)、およびレーベル第3作 「Foolhardy」 (2013年、レヴュー記事はこちら) の編成から、ピアニストだけを除いた同じメンバー、すなわちベン・ストリート(b)とビル・スチュワート(ds)との組み合わせだ。つまりギタートリオである。

 ルンドはいかにも北欧ノルウェー出身らしく、氷のように冷たい音色が特徴だ。プレイ時の音使いやオリジナル楽曲のテイストもそうで、故国ノルウェーの厳しい自然のようにピリピリと緊張感の高い音をリスナーに突きつける。暖かみがあり、ゆったりくつろげる大らかな音とはまるで正反対に位置している。

 で、ギタートリオとなると当然このキツい音色をアルバム1枚通して聴き続けることになる。するとどうしても耳に飽きがきてしまうし、なによりこのシビアな音を聴くために緊張感を持続させ続けることになり、神経がちと疲れる。

 すなわち、どうしても箸休めとしてピアノの音が聴きたくなる。加えて緻密なアレンジを身上とする彼の作風からいってもピアノは外せない。まずこの点がトリオ編成である本盤の損している第一のポイントだ。

 第二に、楽曲構成の問題がある。本作はルンドのオリジナル4曲のほか、コルトレーンの 「Straight Street」、ケニー・カークランドの 「Chance」 などジャズメンオリジナル、スタンダードを含む合計12曲だ。つまりオリジナルは4曲しかない。

 しかもたった4曲のオリジナルのうち、半分の2曲 (M-2とM-8) はそれぞれ 「Intro to~」 と題された次曲のための 「導入部」 であり、まとまったオリジナル曲は実質M-1と最終曲の2曲しかない。本作はそのなけなしのオリジナル2曲をオープニングと最後に配し、申し訳程度に形を整えて出来上がっている。うがった見方をすれば、実はルンドは今回レコーディングできる体勢にはなかったんじゃないか? とすら思えてしまう。

 往年のジャズメンオリジナルやスタンダードを聴くなら、別にルンドでなくていい。往年の名盤を引っ張り出して聴けばいい。

 ほかでもない若手のルンドを聴く理由は、彼の手による最新のオリジナル作品を聴きたいからである。彼の能力を傾注したオリジナル楽曲を聴き、彼にしかない感性や才能のシャワーを浴びたいからだ。その意味で本盤は既成曲を中心に構成されている時点で、かなり興味が半減してしまう。

 結論としてこのアルバムは往年の名曲集としては聴けるが傑作かといえばそれもまた違うし、という微妙な位置に置かれている。さて、ピアノ入りでオリジナル楽曲中心の次回作に期待しよう。

(追記)

 結局その後、なんだかんだいって今回クリスクロスからリリースされた作品群の中では、本盤の再生率がいちばん高い (なんのこっちゃ)。で、気づいたのだがどうやらルンドは、2014年2月10日に録音されたヨッケン・リュッカート作品 『We Make The Rules』 (レヴュー記事はこちら) でのプレイあたりから、スタイルを変えたようだ。以前の 「寒冷地仕様」 の冷たくピリピリ耳に刺さる音使いがややマイルドになっている。ファンにとってはそのへんの違いも聴き物だろう。

 またトリオならではの空間を生かし、ビル・スチュワートがいろんな小技を投入してるのも面白い。特にシンバルワークがいい。オリジナル楽曲希望は相変わらずだが、まあこういうのもたまにはいいか。

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