Jeremy Pelt / Soul

Jeremy Pelt (tp,flh)
J.D.Allen (ts)
Danny Grissett (p)
Dwayne Burno (b)
Gerald Cleaver (ds)
Joanna Pascale (vo on 6)
Rec. September 29, 2011, at Systems Two Recording Studios, NY
Engineer: Joe Marciano (High Note HCD7233)
60年代マイルス風のダークな物憂さ
注目の若手トランペッター、ジェレミー・ペルトが今年1月末に出したばかりの最新作だ。ダークで物憂い雰囲気と、決して熱くならないクールな演奏がトレードマーク。ここ数作、続けてきたいつもの作風である。惜しむらくは1曲だけ女性ヴォーカルを採用したのが疑問だが、全体的には水準を軽く超えるデキだ。
ペルトは2008年にリリースした「NOVEMBER」から5人のレギュラーメンバーを固め、60年代マイルスにリラックス感を取り入れたようなアルバム作りをしている。この方向性で前々作「MEN OF HONOR」 (2010)、前作「The Talented Mr. Pelt」 (2011)と傑作を連発してきた。本作も基本的にはその延長線上にある。
ペルトのオリジナルが6曲、その他2曲の計8曲。どれも甲乙つけがたいが、特にM-1~M-5が耳に残った。まずM-1は彼らしい物憂い曲調だ。J.D.アレンのテナー、それにペルトの2管がゆらゆらと漂いながらテーマを奏でる。その背後でドウェイン・バーノのベースと、ダニー・グリセットのピアノがキメをリフレインする。なんとなく聴き流してしまうが、このバンドの曲は意外に細かくアレンジされている。
テーマのあと、いよいよペルトのソロが始まる。まどろむように力を抜き、夢の中を散策するようなリズムで吹く。続くアレンのソロもペルト同様、ゆったりリラックスしている。いい意味で脱力した彼のテナーには本当にうっとりしてしまう。アレンのプレイは自身のリーダー作より、このバンドでの演奏のほうが個人的には好みだ。
抑制的な演奏がツボにくる
M-1と同様スローなM-3も、ペルトとアレンがいい味を出す。アレンのソロは潤いのある音色で、目いっぱい弛緩していて気持ちいい。ペルトのソロも音数が少なく、抑制的なところがツボにくる。
一転してシリアスなM-4は、やや激しい曲だ。ドラムスのジェラルド・クリーヴァーがドカドカッと暴れて幕を開ける。クリーヴァーは前の3曲と打って変わって音数が多く、急き立てるようなリズムを叩き出す。アレンのソロもいつもの脱力した奏法でなく、やや力を込めて吹いている。ドラムスに呼応し、不安を煽るような音使いだ。グリセットのバッキングもテンションが高い。ゆるく気だるい曲が多い本作の中では、唯一、ナーバスで攻撃的な曲である。
続くM-5はまたもゆったりしたテンポに戻り、フロント2管が心地よく揺らぐ。2管の短い掛け合いのあと、グリセットの美しいピアノソロが始まる。彼のこのソロは本作の中では飛び抜けていい。決してたくさん弾かず、音と音のあいだにできる間(ま)と漂うようなノリで聴かせる。続くアレンのサックスもグリセットと似た調子で、たゆたうように流れて行く。トリを務めるペルトのソロも力の抜き加減がたまらない。
意外だったのはM-7だ。いかにもバップ的なありふれたブルース進行の曲で、彼らは今までこういう予定調和な曲はやらなかったので驚いた。ひょっとしたらコテコテに昔っぽいM-6の女性ヴォーカル曲と併せ、古きよき時代への回帰を強く打ち出した、みたいなことなのだろうか。
制作陣の交代で音質が見違えるほどよくなった
サウンド面では、ここ2作続けて録音エンジニアを務めたルディ・ヴァン・ゲルダーがジョー・マルシアーノと交代した。ゲルダーの雰囲気作りはよかったが、音がこもりすぎていたのでいい決断だろう。新任のマルシアーノは、今回録音が行われたブルックリンにあるSystems Two Recording Studiosのオーナー兼エンジニアだ。業界では知られた存在である。またミキシングとマスタリングは、ペルトがMAX JAZZからリリースした「NOVEMBER」、「IDENTITY」でいい仕事をしていた内藤克彦が新たに担当している。
制作陣の交代で音がかなりクリアになり、好評だった「NOVEMBER」の音質にぐっと近づいた。ゲルダーが録音からミキシング、マスタリングをすべて仕切った前作、前々作とくらべ、ベースの音階もはるかに聴き取りやすい。この調子で続けてほしい。
さて一方、論議を呼びそうなのがジョアンナ・パスカルの女性ヴォーカルを取り入れたM-6である。彼女の歌は1950年代~60年代のトーチ・ソング (恋愛物のバラード) 歌手の雰囲気があり、確かにこのバンドの仮想年代とぴったりだ。だがこれは必要だったのだろうか? 私はいらないと思う。この曲を入れたことで、ごくふつうのノスタルジックな回顧調バンドに堕した感じがしてしまうのだ。
このバンドはバリバリの現代ニューヨーカーが昔「風」の演奏をしている擬似性、ギャップが面白いのであって、何から何まで「昔そのもの」では芸がない。衣の下からチラリと新しさが覗くところがいいのである。確かに彼らは60年代マイルス風ではあるけれど、あくまで「今のバンド」なところがいいのだ。まさか「SORCERER」の『Nothing Like You』をパロったわけでもあるまいし。
とはいえ3作前の「NOVEMBER」から、ずっと同じコンセプトで傑作をものにしてきた彼らである。90点を取り続けてきた子供が1回ぐらい85点でもいいじゃないか、とも思う。
目新しい歌物のM-6やM-7のブルースを聴くと、「今までやってない新しいことをやらなきゃ」的な試行錯誤の跡が見え、このバンドも曲がり角かな? という気がしないでもない。だがそれでも本作がかなりのレベルであることには変わりない。ここはあえてエールを込め、「目先を変えようなんて考えるな。ブレるな、ペルト」と言っておこう。



