​Bruce Barth Trio / Live at Smalls

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Bruce Barth (P)
Vicente Archer (b)
Rudy Royston (ds)

Recorded: September 29-30, 2010 at Smalls Jazz Club, NY
Engineer: Jimmy Katz (SmallsLIVE SL0019)

なにげない、さりげないジャズのコク

 これだけ地味で、これだけ味のある渋い盤は初めて聴いた。なにげなく、さりげないのだがそこがいい。かすかにブルージーだがこってりした暑苦しさなどまるでなく、むしろサラサラとあっさり軽めに流れて行く。だから何度でも繰り返しずっと聴いていたくなる。不思議なアルバムだ。ニューヨークを拠点に活動するピアニスト、ブルース・バースのスモールズでのライヴである。

 バースは1958年カリフォルニア生まれ。8才でNYCに移住した。フレッド・ハーシュ、ノーマン・シモンズらに師事。1988年にスタンリー・タレンタインのグループに参加し、90年にはテレンス・ブランチャード・クインテットに加わった。エンヤからリリースした初のリーダー作『In Focus』(1993)、『Morning Call』(1995)はいずれもニューヨーク・タイムズが選ぶトップ・テン・リストにランキングされている。

 1曲を除きすべてオリジナルの合計9曲。実は本作はヴィセンテ・アーチャー(b)、ルディ・ロイストン(ds)という魅惑のリズム隊に惹かれて手に取った。だが初めてひと通り聴いた瞬間、正直「こりゃお蔵入りだな」と思った。強く印象に残る部分がまったくなかったからだ。ところがなぜか、ダメモトでふともう一度聴いてみる気になった。で、2回目に聴いたら、それまで顔が見えなかった盤にハッキリ目鼻立ちが通った。「いい」のである。

 なにしろ本作は、耳に残るフレーズがほとんど出てこない。だから1回聴いたくらいじゃ、よさがわからない。例えばアルバム冒頭、さりげない導入部で始まる静かなM-1は次第に熱を帯び、ピアノの打鍵が力強くなっていく。だが主役のバースは決してわかりやすい単純なフレージングに逃げない。クールで激しく熱くなることもない。ここが本盤をわかりにくくしている本尊なのだが、しかし同時に聴けば聴くほど味の出るスルメ化ポイントになっているともいえる。

 だから本盤のよさを言葉で表現するのはむずかしい。ゆったりしたノリで、まるで太平洋のド真ん中に浮き輪ひとつでのんびり浮かんでいるような気分になれる。そんな感じだ。激しさや煩ささがまったくないので、仕事で疲れている時に小音量で流しておくのにもいい。究極のリラクゼーションをあたえてくれる盤、それがこのアルバムだ。


テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Paul Grabowsky / Big Adventure

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Paul Grabowsky (p)
Philip Rex (b)
Niko Schauble (ds)

Recorded: February 21-22, 2003 at the Australian Broadcasting Corporation's Studio 345, Melbourne
Engineer: Mal Stanley (ABC 476 283-5)

圧倒的なリアリティで物語を紡ぐピアノトリオ

 しずしずと物語を紡ぐ音だ。1音1音の背後に何らかのストーリーが秘められ、ピアノの調べがその物語を音符に翻訳しながらアルバムは進行する。7曲のオリジナル楽曲が放つ音魂は圧倒的なリアリティがあり、眼前に情景がありありと浮かんでくる。

 リスナーはイマジネーションの羽を広げ、流れくるメロディにインスパイアされて自分だけの物語を見る。そんなアルバムだ。オーストラリアの個性派ピアニスト、ポール・グラボウスキーが2004年にリリースした問題作である。

 グラボウスキーは1958年生まれ。ピアニストであると同時に映画や劇場・オペラの著名な作曲家でもある。メルボルン大学音楽院でピアノ上級講師マック・ジョストに師事。その後、NYCのジュリアード音楽院で学んだ。1980年にロンドンへ飛び、1985年までドイツ・ミュンヘン在住。2016年9月には来日し、東京のコットンクラブ等に出演している。

 オリジナル楽曲7曲に「Fool on a Hill」を加えた合計8曲。リリカルで繊細な美しさをもち、耳に残るメロディが印象的だ。だが時にはアブストラクトで聴き手を突き放すようなところもある。楽曲によっては挑戦的で、ある種の攻撃性を秘めてもいる。

 リリカルで美しいという意味では北欧あたりのピアノトリオと共通点があるが、はっきり違うのは一種の演劇性だ。例えば冒頭にあげたジャケ写を見てほしい。モノクロームのブレた映像がリスナーに何かを訴えかけてくる。手を上げてタクシーを呼び止める女性の後ろ姿からストーリーが匂う。いったいどんな物語がそこにあるのか? そんな楽しみ方ができるアルバムである。

 グラボウスキーは1986年にオーストラリアに戻り、The Paul Grabowsky Trioを結成。ファーストアルバム『Six by Three』(1989)、2nd『When Words Fail』(1996)がARIA Music Awardsを受賞した。彼のピアノトリオ盤は一時ほとんど廃盤になりレア盤として中古市場で高値がついていたが、そんななか2014年に前出『Six by Three』が復刻された。

 現在、新品入手可能な彼のピアノトリオ作を選ぶなら本盤のほか、なにより美しさ優先なら比較的わかりやすい『Three』(2000)がいい。名盤『Six by Three』はM-1のみフリー的要素を盛り込んでいるが、M-2以降は本作と並びリリカルでおすすめできる。他の盤も中古が出回っているのでディスクユニオンかアマゾンあたりで検索してみてほしい。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Jim Rotondi / Dark Blue

Jim_Rotondi_ Dark_Blue

Jim Rotondi (tp)
Joe Locke (vib)
David Hazeltine (p)
David Wong (b)
Carl Allen (ds)

Recorded: July 15, 2015 at Sear Sound, NY
Engineer: Roman Klun (Smoke Sessions Records SSR-1602)

NYCの夜景がみえてくる現代版ハードバップ

 さあ新年一発目は現代版ハードバップで行こう。「One For All」で知られるトランペッター、ジム・ロトンディの2016年リリース最新作である。実は昨年末の本ブログ・年間ベストテンに入れようかさんざん迷ったのだが、あんまりメインストリーム系がふえると、アウトサイダーな(笑)当ブログらしくないなぁとハズした曰くつきのアルバムだ。

 したがって内容は保証つき。ジムのオリジナル6曲のほか、参加メンバー・デヴィッド・ヘイゼルタイン「Highline」、モンク「Monk's Mood」など合計10曲。心地いい疾走感とノリの良さ、グルーヴ感。ニューヨークの夜景が見えてきそうなしゃれた雰囲気だ。

 ただまあ、音楽的にはひねりも頓智も何もなし。なーんてことはないんだけど、でもいいんだよねぇ、こういうの。ずっと流しておいてもまったく聴き飽きない。不思議なものだ。メインストリーム系のジャズがなぜ何十年も支持され続けているのか? その秘密の一端を覗かせてくれる盤である。

 いやはや昨年、すっかりベーシック系ジャズのよさに目覚めてからというもの、しばらくこの系統ばっかり聴いている。そうなると逆の意味でまたブログの内容が非常に偏るので(笑)バランスを考えながら記事化して行こう、というのが今年の抱負である。

 てなわけで王道系が多い「Live at Smalls」シリーズなんかは今までほとんどスルーしていたのだが、新年からいきなり同シリーズを6枚も発注してしまった。ピーター・バーンスタインも過去盤を何枚かオーダーしたし。Posi-ToneやMax Jazz、High Noteあたりもこのテが多いので、これから開発して行かなきゃならない。なにごとも「新しく始める」というのは大変なものだ。……って趣味でやってるんだから、まっいいか。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

【2016 イチ押し新譜ベストテン】 年間ランキング ~こいつは聴き逃すな

【1位】A Lifetime Treasure / Yasushi Nakamura (レビュー記事)

01.jpegストレートに躍動する中村節

Yasushi Nakamura (b)
Lawrence Fields (p)
Clarence Penn (ds)

ベーシックなジャズのよさを見直した年だった

 2016年最大のトピックはジャズ業界においてでなく、自分の中で起こった。それは何気ないベーシックなジャズを聴いて、ふと「いい」と感じるようになったのである。50年代的な王道ジャズはもう聴き飽きていたはずだった。なのに2016年の新譜を探しているとき、明らかに50年代のハードバップに影響を受けた盤を聴き「いい」と感じた。

 それからというもの、やたらそっち系の音が気になるようになってきた。予定調和じゃないNYコンテンポラリー以外はバカにしていたはずなのに、である。その証拠に今回の年間ベストランキングでも、1位、3位、6位にそれぞれオーソドックスな系統がランクインしている。6位のピーター・バーンスタインなんて以前ならスルーしていそうだが、聴けば聴くほど味が出ておいしくてたまらないのだ。

 この変化はいったい何だろう?

 ひとことでいって「年を取った」のだ。例えて言うなら、若いうちはやたらハデな色のトンがった服を着ていたヤツが、年を取ったら急に「なんでもないこと」のよさに目覚めてボタンダウンのシャツを着始めた、みたいなものだろう。と、ポジティブな解釈をしておこう(おい)。

 てなわけで来年から本ブログでは、いかにも2017年代のカッティング・エッジな盤も従来通り紹介するが、加えて2017年の新譜でありながら、ちょっと大人っぽいオーセンティックなアルバムも少しは混じってくるかもしれない。まあそう大きく変わらないとは思うが、その辺りよろしくお願い致します。

【2位】David Gilmore / Energies of Change (レビュー記事)

02.jpegギルモアの自身最高傑作が登場

David Gilmore (g)
Marcus Strickland (ss, as, ts, bcl)
Luis Perdomo (p)
Ben Williams (b)
Antonio Sanchez (ds)
Kofo Wanda (talking ds on 3)

【3位】Jae Sinnett / Zero to 60 (レビュー記事)

03.jpegレアステーキのようなこってり盤

Jae Sinnett (ds)
Ralph Bowen (ts)
Allen Farnham (p)
Hans Glawischnig (b)

【4位】Stephan Plecher Trio feat. Bert Joris / Jungfernballett (レビュー記事)

04.png欧州風味の端麗なピアニズム

Stephan Plecher (p)
Benjamin Zalud (b)
Peter Primus Frosch (ds)
Bert Joris (tp on 1, 3, 4 and 7)

【5位】Aki Rissanen / Amorandom (レビュー記事)

05.jpeg映像的スリルで魅せる音の迷宮

Aki Rissanen (p)
Antti Lötjönen (b)
Teppo Mäkynen (ds)

【6位】Peter Bernstein / Let Loose (レビュー記事)

06.jpegオーセンティックであることの誇り

Peter Bernstein (g)
Gerald Clayton (p)
Doug Weiss (b)
Bill Stewart (ds)

【7位】Joonas Haavisto Trio / Oku (レビュー記事)

07.jpeg北欧の湖面が目に浮かぶ繊細さ

Joonas Haavisto (p)
Antti Lotjonen (b)
Joonas Riippa (ds)

【8位】Donald Edwards / Prelude To Real Life (レビュー記事)

08.jpegエッジの利いた現代ジャズ

Donald Edwards (ds)
Walter Smith III (ts)
David Gilmore (g)
Orrin Evans (p)
Luques Curtis (b)

Nicholas Payton (key on M-1, 3, 6)
Vivian Sessoms (vo on M-3, 5, 10)
Antoine Drye (tp on M-12)

【9位】Klemens Marktl Sextet / December (レビュー記事)

09.jpegアレンジ凝りまくりのNYコンテンポラリー

Klemens Marktl (ds)
Seamus Blake (ts, ss)
John Ellis (ts, ss, bcl)
Aaron Goldberg (p)
Joe Locke (vib)
Harish Raghavan (b)

【10位】Florian Hoefner Group / Luminosity (レビュー記事)

10.jpeg渋さを極めたコンポラの秀作

Seamus Blake (ts, ss)
Florian Hoefner (p)
Sam Anning (b)
Peter Kronreif (ds)

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Joona Toivanen Trio / November

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Joona Toivanen (p)
Tapani Toivanen (b)
Olavi Louhivuori (ds)

Recorded: February 27-28, 2014, at Svenska Grammofon Studion, Gothenburg
Engineer: Oskar Lindberg (CAMJ 7878-2)

北欧ピアノトリオの誘惑

 物憂く、気だるく、はかなくも美しいオープニング。何かとてつもない人生の悲哀を抱えた女性の吐息を思わせる。とても繊細で触れると壊れるガラス細工のようなピアノトリオだ。フィンランドの若手ピアニスト、ヨーナ・トイヴァネンが2014年にCAM JAZZ第二弾として放った5作目の傑作である。

 ヨーナは1981年フィンランド生まれ、現在はスウェーデンのヨーテボリ在住。弟のタパニ(b)とその同級生オラヴィ・ルーヒヴオリ(ds)らと、1997年にフィンランドで本トリオを結成した。2000年に自主制作録音した『Numurkah』でデビュー。CAM JAZZ第一弾としては、2010年に本作と双頭をなす絶品『At My Side』をリリースしている。

 ヨーナは本当に弾かないピアニストだ。音数があくまで少なく、1音と1音のあいだにたっぷり間を取り空間的な響きを余韻としてたなびかせる音の魔術師である。音符のない空間を生かす手法のうまさはマーク・コープランドにも匹敵する。聴くほどに才能に満ち溢れた音楽家だ。

 ヨーナのオリジナル5曲にメンバーのオリジナル6曲を加えた計11曲。思い入れの詰まった子供の大切なおもちゃ箱のように、とっておきのプレゼントが時間を忘れさせてくれる。どの曲もしんしんと雪が降り積もる瞬間を譜面にしたかのような精緻なたたずまいだ。ピアノの夢幻フレーズが宙を舞い、聴き入るリスナーをみずみずしく誘惑してくる。

 よくある薄っぺらな美しさだけを売りにするピアノトリオとはまるでモノが違う。北欧の静かな暮らしとアイデンティティがぎっしり詰まった音の玉手箱。たとえ箱を開けて老人になったとしてもまったく後悔はない。とにかく聴けばわかる。絶対にソンはさせない。前作『At My Side』とともに、2000年以降のピアノトリオの世界に金字塔を打ち立てた珠玉の名作である。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

​Peter Bernstein / Let Loose

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Peter Bernstein (g)
Gerald Clayton (p)
Doug Weiss (b)
Bill Stewart (ds)

Recorded: January 3, 2016 at Sear Sound, NY
Engineer: Chris Allen (Smoke Sessions Records SSR-1604)

オーセンティックであることの誇り

 ピーター・バーンスタインは、ファッションでいえばトラッドだ。変わらないことの価値、変わらないことに対する誇りがある。リスナーにとってはそこに自分の好きな時代や、好きなトレンドがいつまでも存在するという安心感がある。「ピーターのアルバムを買えば必ず『あの味』を味わえる」。そんな信頼感がある。スモーキーな音色と暖かな温度感、哀愁のある味なメロディーー。それらが堪能できるという一種のブランド性がある。だからピーターには価値がある。

 てなわけでピーター・バーンスタインの最新作である。実は本盤に手を出した大きな理由は「ジェラルド・クレイトンのピアノが聴ける」という誘惑だった。だが聴いてるうちにそんな邪道な欲望などみるみるどうでもいい話になり、眼前には燦然として主役のギタープレイがそそり立つことに相成った。

 それにしてもこの荒い岩肌が露出したような、ゴツゴツとしたピッキング感はどうだろう。誤解を恐れずに言えばピーターはどちらかといえばヘタウマにカテゴライズされるギタリストだろう。

 リズムが微妙にたどたどしく、「アリ / なし」でいえばスレスレなのだがそこがいい。譜面では表せない彼のミクロなタメやツッコミにこそ味がある。そんなギタリストだと思う。もちろん純粋な意味でテクニカルなギタリストを挙げていけばキリがないが、決してそこに名前が並ばないところにピーターのよさがあり、味わいがある。

 え? ピーター・バーンスタインは指が速く動かないだろう、って?

 どうも世の中には、「音数が多くて指や手足が速く動くほど技巧的ですごい」みたいに思っている人が多い。だがどうなんだろう。芸術はなんでもそうだが、問題は演奏を聴いたリスナーの脳内に、いかに爪痕を残すか? である。ピッキングが速いことや音数が多いことはそれを達成するための「手段」にすぎない。「目的」ではない。要は聴き手の心を動かせれば手段なんて何だっていいのだ。

 確かに速くて音数が多ければ手っ取り早くインパクトは与えられる。だがピーターのように別の手段を使えば、別種のインパクトを聴き手にもたらすことができる。絵でいえば写実画と抽象画のちがいみたいなもんだ。そう、実は描くことも書くことも詠うことも撮ることも芸術はなんだって同じ。手段が目的化してしまっては意味がない。そういうことなのである。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Aki Rissanen / Amorandom

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Aki Rissanen (p)
Antti Lötjönen (b)
Teppo Mäkynen (ds)

Recorded: June 29-30, 2015 at Kallio-Kuninkala Studios, Finland
Engineer: Mikko Raita (Edition EDN1067)

映像的スリルで魅せる音の迷宮

 2015年ダウンビート誌で「ヨーロッパからのライジングスター」と絶賛されたフィンランド出身の若手ピアニスト、アキ・リッサネンがリリースしたばかりのピアノトリオ作品。のっけからミステリアスで荘厳な雰囲気を漂わせ、畳み掛けるようにリスナーを幻惑するスリリングな1枚だ。

 これは単に美しいだけのピアノトリオではない。まるで演劇のように、流れる音が明らかにストーリーをもっている。妖しい音を響かせながら、1音1音が心の襞に分け入ってくる。そしてリスナーは嘘を見透かされたときのように、どこか落ち着かない心理にさせられる。人間を丸裸にする嘘発見器のような音楽だ。

 主役のアキは1980年生まれ。2002年から2009年にかけ、同じフィンランド人ピアニストのヨーナス・ハーヴィストと同様、フィンランドの名門音楽院シベリウス・アカデミーでジャズピアノと作曲を学んだ(修士号取得)。2005年以降、ソロピアノからカルテットまで本作も含め10枚のアルバムをリリースしている。

 全9曲すべてアキのオリジナル。全編、不思議感でいっぱいだ。ミステリアスでちょっとシュール、ジャズだけでなく現代音楽やクラシックの影響も感じさせる。M-4はちょっとなごめるが、特に冒頭の3曲はすごい緊張感でヒリヒリするような焦燥感をかき立てられる。高い音楽的知性を感じさせる作風だ。

 何が始まるのかまったく先が読めない音の迷宮。往年のハードバップあたりの予定調和ぶりとはまるで対照的な現代ジャズだ。とはいえ楽器はピアノとベース、ドラムスしか使ってないのに、ピアノの抑揚だけでよくこれだけ曲調に変化がつけられるなぁ、と感心しきり。才能をピリピリ感じさせる。

 まるで映画を観ているかのように、音で表現される映像が次々と眼前で場面転換して行くスリル。劇場で音楽鑑賞しているような仮想現実感に一瞬囚われる。ストーリー性のあるコンポジションが味わい深い。ちょっとトンがったジャズが好みの人にはおすすめです。

ここで試聴できます。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Stephan Plecher Trio feat. Bert Joris / Jungfernballett

Stephan_Plecher.png

Stephan Plecher (p)
Benjamin Zalud (b)
Peter Primus Frosch (ds)
Bert Joris (tp on 1, 3, 4 and 7)

Recorded: June 11-12, 2015 at Hard Studios, Winterthur
Engineer: Martin Peason (TCB 35102)

ヨーロッパの郷愁が漂う端麗なピアニズム

 まだHip-Hopに行く前の初期のロバート・グラスパーを想わせるドラマティックなM-1でアルバムは幕が開く。本盤はとにかく曲がいい。端正なヨーロッパの郷愁を漂わせながらも、なかにはM-3やM-5のように超グルーヴィなナンバーを聴けるのもうれしい。

 ドイツ生まれでスイス在住の若手ピアニスト、シュテファン・プレチェルのピアノトリオに、トランペッターのバート・ジョリスが加わったトレトレの新作。記念すべきデビュー盤である。

 主役のシュテファンは1990年生まれ。ドイツやスイス、オーストリアの数々のジャズ・コンテストを勝ち抜いてきた。2013年にこのピアノトリオを結成し、2014年には「Fidelio」コンテストで特別審査員賞を受賞している。

 2曲を除き7曲がオリジナルの計9曲。ピアノのシュテファンは圧倒的な超絶技巧で独り舞台を演じるのではなく、あくまでオリジナル楽曲のよさを生かして抑え気味の渋い演奏で場を盛り上げる。ただし5曲用意されたピアノトリオ曲では、持ち前のテクニックに裏打ちされた端麗辛口な味わいを存分に披露している。メロディアスで耽美的だが、エネルギッシュなプレイも聴かせる味のあるピア二ストである。

 一方、4曲にゲスト参加しているベルギーのベテラン・トランペッター、バート・ジョリスのプレイもピアノトリオの存在をスポイルすることなく、楽曲の味わいが増す方向でしなやかに演奏しており好感が持てる。また目を見張らされるのはドラマーのペーター・プリムス・フロッシュである。適度な重さと太さがあり、音数少なく要所をキメまくる。楽曲をドラマティックに謳い上げる非常にいいドラマーだ。

 このアルバムは誰か一人の飛び抜けた「技巧」を聴くためでなく、「いい音楽」を堪能するためにこそ存在する。一家に一台。あわただしい年末に休息を得るにはもってこいの作品である。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

A Lifetime Treasure / Yasushi Nakamura

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Yasushi Nakamura (b)
Lawrence Fields (p)
Clarence Penn (ds)

Recorded: May 20, 2016 at Avatar Studios, NY
Engineer: Katsuhiko Naito (澤野工房 YN001)

中村はまっすぐ攻めてくる

 NYの大物だけでなく尖った若手とも次々共演するなど、ワールドワイドに活躍する超ベーシストの中村恭士。その待望の1stリーダーアルバムがお目見えした。ごまかしなし、まじりっけなしの元気でストレートな4ビートジャズが脳天を直撃する。エネルギッシュな躍動感に満ちあふれ、生の喜びを謳歌するような楽しい音だ。リズム隊の煽りがハンパない。

 メンバーは、まずピアノが本ブログ選定『2015年版マイフェイバリットなピアニストたち』で4位にチャートインしている若手の天才ローレンス・フィールズ。そして主役とコンビを組むドラマーはご存知クラレンス・ペンとくれば、音を聴いてみたくなるのが人情である。

 中村恭士は1982年東京生まれのシアトル育ち。バークリー音大とジュリアード音楽院を卒業するや、超大物だけでなく知る人ぞ知る若手の旗手たちと次々共演しジャズ業界では話題を呼んだ。

 アルバム内容は、まず6曲用意された自作のオリジナル曲がすばらしい出来栄えだ。彼は極上のメロディーメイカーであり、溢れ出るようなコンポーザーとしての才能がある。その上にコルトレーン「Naima」、ベニー・ゴルソン「Stablemates」など既成曲の選曲も見事にツボを射抜いており満足度が高い。かくて全12曲、まったく捨て曲なしの傑作アルバムに仕上がっている。

 形式的にはピアノトリオの形だが、これはピアノがメインのアルバムではない。主役の中村が暴れまくり、それに呼応してドラマーのペンがドカドカど派手に叩きまくる。いわばリズム隊フェチのための作品だ。

 とはいえ決してピアノも負けてはいない。ノリのいい曲が乗れるのは当たり前だが、反対にM-10のようなしっとりしたオリジナル・バラードでのピアノのつぶやきがこれまたうっとりさせてくれる。中村が提示した楽曲のエッセンスに、俊英ローレンス・フィールズが見事にピアノ・プレイで応えて化学反応を起こしている。

 エンジニアは、知る人ぞ知る名作を送り出してきたNYCのアバター・スタジオで常駐エンジニアとして部屋を構える名匠・内藤克彦(バークリー音大卒)。内藤が狙った録音はすっきりクリアーな音質でなく、微かに意図した「濁り」がある。いわばライブ演奏を手持ちのマイクでそのまま録ったような、といえば伝わるだろうか。そのいい意味でラフな音作りが、壮絶なドライブ感とスピード感を生んでいる。

 辛口の私がこれだけ褒めるんだから内容は推して知るべし。年末恒例「今年のベスト10アルバム」入りはもう確実だ。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

Joona Toivanen trio / At My Side

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Joona Toivanen (p)
Topani Toivanen (b)
Olavi Louhivuori (ds)

Recorded: November 16-18, 2008, at Finnvox Studioin, Helsinki
Engineer: Mikko Raita (CAMJ 3308-5)

ひんやり冷たい北欧の曇り空が見えてくる

 これは究極のリラクゼーション・ミュージックである。ただし決して薄っぺらではない。コンテンポラリーで繊細な美しさがあり、メランコリックでちょっとアンビエント。音の向こうに凍てつくような北欧の曇り空が見えてくる。わかりやすくいえばジョアン・ジルベルトの『三月の水』(1973)をピアノで表現したらこうなります、みたいな世界だ。

 心とカラダにじんわり効く、とっておきの癒しの音。まだ脳が目覚めてない朝に流すといちばん効く。今まで聴いたピアノトリオの中でもまちがいなくベスト5に入る。10曲すべてオリジナル。フィンランドの妖精、ヨーナ・トイヴァネンが2010年にCAM JAZZデビューを飾った4作目の逸品である。

 ヨーナは1981年生まれ。弟のタパニ(b)と、その同級生だったオラヴィ・ルーヒヴオリ(ds)と共に1997年にフィンランドで結成したピアノトリオ。2000年に自主制作録音した『Numurkah』でデビューした。CAM JAZZからは、本作に続く第二弾としていずれ劣らぬ傑作の『November』(2014)をリリースしている。

 いやはや彼と同じフィンランド生まれのピアニスト、ヨーナス・ハーヴィスト(レビュー記事はこちら)に出会ってからというもの、北欧系ピアノトリオにすっかりノックアウトされ、しばらくそっち方面ばかりを彷徨っていた。なんせ「ピアノトリオだって? 甘ったるいだけだろ、ケッ」な人間だったもんで(反省)相当に未開拓な分野だったのだ。そんなわけで自らの無知と浅さにうちひしがれながら程なく遭遇したのが本作だった。後頭部ズゴンである。

 ヨーナのピアノは、同じ若手で北欧ノルウェー出身のエスペン・バルグ(Espen Berg、1983年生まれ)あたりとはまったく対照的だ。エスペンは音数が多くてド派手できらびやか、いかにもわかりやすい超絶技巧で聴き手を圧倒する。

 それに対し本作のヨーナは「いかに弾かずに自分を表現するか?」を追求している。あくまで音数は最小限に抑え、テンポもゆったり。気だるいムードで空間に響き渡る音の余韻をしっとり聴かせる。質感はいかにも北欧でひんやり冷たく、まるで凍った湖の底から空の月を見上げながら聴いているかのような気分にさせられる。おすすめです。

テーマ : JAZZ
ジャンル : 音楽

プロフィール

松岡美樹

Author:松岡美樹
予定調和じゃない最近のJAZZが好物です。

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